本書は、教育学部の「エネルギー科学基礎」の授業、通信教育部の「理科概論」の授業で使用します。以下の文は教科書のコマーシャルです。
はじめに
エネルギーは理科の教養である。そして、エネルギーは言葉ではなく、自然事象を表現する概念であり実体(数量)をともなう。したがって、本書では言葉によ るエネルギーの「お話」ではなく、内容に定量性をもたせている。つまり、様々なエネルギーを物理学の文脈にしたがって再編成している。その際、読者の学校理科 における学習履歴に鑑みて、中学・高校の理科教科書などを説明の参考にした。したがって、物理学的な論旨を犠牲にして分かり易さを重視した。我々が外で食事を するとき、健康に気をつけている方ならば、料理のエネルギーは何kcal(キロカロリー)か?という“量”をまず考える。次に、塩分、糖分など 何g(グラム)入っているか?等々、健康状態に影響する要因へと量的な関心が向かう。このように、エネルギーは“量”でとらえなければ理 解の実感は得られない。言葉は説明するための手段であり、エネルギーとはいったい何を意味する量的概念なのかと問う姿勢が大事である。数式は量の 表現に欠かせない道具である。エネルギー問題、エネルギー政策というときであっても、「問題」や「政策」の背後にあるものは物理学でいうエネルギーであること は論を待たない。 エネルギー概念には粒子概念が欠かせない。理由は以下の通りである。唯物論では、この世の中は「粒子」と「波(場の変 動)」でできている。エネルギーの基本認識は粒子の運動そのものにある。波もエネルギーを宿す粒子の集まりであるというのが量子力学の基本的な考え方である。さらに、現 象を粒子モデルで説明する態度が科学的といわれるが、逆に物質的実体のない神秘的なものを始めから持ち出して事象を説明しようとする態度は非常に 非科学的で、警戒しなければならないからだ。
本書の内容
第1章では力学を素材にエネルギーの定義と用法を示し、第2~5章では粒子を基礎にしたエネルギー概念を説明した。第6章で は、今後は原子力に取って代わ るべき再生エネルギーの紹介をした。序章と終章では学校理科のエネルギーに関する単元の分析を行い、今後 の教育の在り方について異なった視点から提案した。
本書の背景
本書の全体を通して福島原発事故による甚大な放射能汚染をエネルギーと関連させながら様々な視点から説明 することを試みた。筆者は長い間、公立高校の物理教員として勤務した。そ のときは、主として受験物理の指導(問題解き)であった。振り返ってみると、中学・高 校の理科の指導について特徴的なのが次の2点である。
・生徒が卒業して生活者になったとき、役立つような知識が少ない。
・科学的リテラシーにつながる指導が、ほとんど行われていない。
筆者はこれらの反省を意識して本書を書いた。本書を理科・エネルギー・粒子の教養を身に付ける一助としていただければ望外の喜びである。
なお、誤記がいくつかありましたので、正誤表を掲載いたします。