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公開データから探る福島原発事故による土壌汚染の実態

1 はじめに
 2011年3月11日の原発事故によって、東北・関東を中心に深刻な土壌放射能汚染が 生じた。その真実を後世に分かりやすく伝えるた めに、教育を視野に入れて本研究が行われた(2012年)。
 事故後1年以上が経過し、原発放射能による環境汚染は実際よりも過小評価されているように見受けられる。しかし、土壌の放射能汚染はそんな簡単に は減らない。放射性セシウムが土壌表面にこびりつき、それが次第に土壌の内部に沈着していくし、雨水ではなかなか流れ落ちないからである。半減期 も134Csは2年だが、137Csは30年と長い。文部科学省の航空機モニタリングの画像によると、右図のように、東京の大部分では土壌中の放 射性セシウム濃度は1平方メートルあたり1万ベクレル以下の第9ランクになっている。しかし、奥多摩ではその8倍程度になる第6ランクの地域が一 部ある。その周辺に第7、8ランクの汚染地帯が帯を作る。したがって、東京の土壌の放射能汚染は10000~5000Bq/m2程度はあると考え なければならない。この値は、土壌1キログラム当たりで考えると200~100 Bq/kg程度になる。我々は、土壌中の放射性セシウムから出るγ線で外部被曝している。さらに、土壌中の放射性セシウムのたった1%が作物に移行すると考えた場合、それ を直接食する場合は、2~1Bq/kg程度の放射性セシウムを人体に取り入れてβ線による内部被曝をすることになる。作物を肥料にして家畜に食わ せ、その肉を人間が食べる場合は、セシウムは10倍、100倍と濃縮されていく。これらの値は、政府の暫定基準値(2012年4月1日以前は 500 Bq/kg、以後は100 Bq/kg)よりは低くなるかもしれない。しかし、原発事故前は、放射性セシウム濃度はほぼ0であったことをしっかりと思い出さねばならない。我々は、原発事故でいらぬ被 曝(外部被曝と内部被曝)を強制されるのである。特に、若い人や子どもへの影響(晩性影響)が真に懸念される事態である。中でも、これ からは食に よる内部被曝の影響が重要であると考えられる。関東や東北では、地域で作られた食材が売られていることが多い。国や自治体の放射能検査はサンプル 検査であり、店頭にならぶ野菜や肉類のひとつ1つに、放射能検査が行われているとは到底考えられない。また、サンプルの検査値が暫定基準値以内な らば、母集団となる食材にはその値が明記されることもなく流通してしまっている。こんな状態こそが、風評被害(放射能が入っていないか少ないのに ある程度入っていると誤解されて売れない状態)を作り出している元凶である。さらには、風評逆被害(流通しているのを安全だと誤認して放射能の濃 度が高い食材を摂取している状態)も十分あり得るのである。小さな子どもがいたりして食材に気を付けている消費者は、食材を産地で選ぶことが多 い。政府・自治体は、流通している食材は暫定基準値以内であるから安全であると説明するのみで、食材の放射能の事実を明らかにしようとしないからである。放射能汚染の事実 をもとに、消費者が食材を選択できるようになっていない。もちろん、食材の選択を産地名だけで決めるのは非科学的であ る。産地名ではなく、産地の土壌放射能汚染の事実データを踏まえて、購入するかどうかを決めることが科学的である。その参 考となるデータを提供す ることも本研究のもう一つの目的である(2012年の状況)。

2 研究の方法
 桐山ゼミ+(3、4年生、院生)では、文部科学省の航空機モニタリングの画像(2011年8月28日換算データ)を用いて、各自治体の土壌放射能汚染の実態を数値データ化することにした。画像データ は、汚染レベルが1万Bq/m2以下から300万Bq/m2以上までの9段階に設定され、レベル毎に異なった9色で塗 られている(右図)。
※1   データ元:文部科学省航空機モニタリング画像(134Cs+137Cs 土壌表面汚染)
※2 単位1MBq/km2=1Bq/m2(1平方メートル当たり1ベクレルの汚染)。
 我々は福島県と関東の行政区画毎に数値データ化した。数値データ化の方法については、拙著「学校理科で探究する生活科学-生活科学的アプローチに よる学校理科の学習転換-(エネルギー・電磁波・放射能)」のpp171~173に記されている。我々の取り組みは、原発事故の悲惨な痕跡を学生 達の手作業で確認する作業でもある。関東の福島県のデータは、2011年の6~10月の測定であり、福島県ではチェルノ事故の強制移住地(15 キュリー[Ci]=55.5万Bq/m2)の数十倍という想像もできない高濃度汚染地域から汚染度の低い地域まで様々であった(右図 ヒストグラ ム)。その地域別を知るための基礎データとして、ヒストグラムの下に福島県内市町村別の土壌汚染の一例を示す。

3 データから食材の汚染レベルを見積もるには
 米の平均的な移行係数から考えると、各自治体の平均土壌汚染量を5000で割れば、食材に含まれる放射能のオーダーエスティメイトが可能である。例え ば、東京都の場合、土壌汚染レベルは 11000Bqであるから、11000÷5000≒2Bq となり、食材1kgには2Bq程度の放射性セシウムが入っていることになる。これは、 あくまでも目安であり、本来は産地の土壌汚染データから直接算出して見積もることが望ましい。この2Bq/kgを低いと判断するか、小さな子ども には食べさせないようにしようと判断するかは、消費者が決めることである。国や自治体、電力会社はこのような情報を国民にきちんと提供すべきであろう。