中日報道に携わった二人の先人に学ぶ
 

 昨年、中日国交正常化三十周年を記念する数多くのイベントに出席した。特に忘れられないのは、当時新聞記者として歴史の真実を目の当たりにし、報道してきた中日の二人による講演であった。

 一人は中国文化部の劉徳有副部長(日本の文科省副大臣に当たる)。中国文化部の対外的な顔である対外文化交流協会の常務副会長でもあられる。そして、1968年当時に池田大作創価学会会長(当時。現・SGI会長)の「中日国交正常化提言」を、「光明日報」の東京特派員として真っ先に中国に打電したことでも知られている。
 一昨年(2001年)8月、創価大学の吹奏楽団が北京へ演奏旅行に訪れた際には、受け入れの責任者として手厚く歓迎して下さった。訪問団の代表として文化部を表敬訪問させて頂いた折りには、創大草創の当時に来学された思い出を、終始美しい日本語と笑顔で懐かしそうに語って下さった。
 昨年9月に来日され、久方ぶりに創価大学を訪問され、貴重な講演(「池田提言の歴史的意義と今後の日中関係」9月20日創価大学本部棟にて)をして下さった。その日本語の流暢さ、語彙の豊富さには、創大生も驚いたのではないだろうか。同行の奥様を「糟糠の妻」と紹介されたが、意味がわからなかった学生も少なからずいたことと思う。
 池田会長の提言は、当時の複雑な状況下でなかなか言葉にできなかった両国民衆の願望を勇気をもって述べられたものであり、時代の進展と共にその歴史的意義はいよいよ高まりつつあると、講演の中で劉氏は、一層のにこやかな笑顔で語って下さった。それでいて、歴史の事実から眼をそらさず、それを中日友好の原点とされている点などからは、社交辞令ではなく、真に内実のある友好関係を築いていこうとの信念が、笑顔の奥に湛えられていた。

 もう一人は、当時、朝日新聞の北京特派員だった吉田実氏。同じ9月に創価学会学術部の記念シンポジウムで特別講演(「日中国交正常化の歴史と『勇気ある提言』」9月15日創価世界青年会館にて)をして下さった。たまたま私は同学術部の役員をしており、主催者として吉田氏に講演を依頼する立場となった。当初、もう自分は引退しているからと遠慮をされたが、歴史の真実をどうか青年に語ってほしいとお願いしたところ、快諾してくださった。
 講演では、池田会長の提言に接した時の驚きを回想されながら、中日友好への「気迫にあふれた力強い提言」だったと述べられた。当時の評論家・竹内好氏の反応などにも触れ、中日友好を願った人々がこの提言に触れたときの快哉の声を紹介してくださった。
 そしてやはり、日本が今後とも中日の不幸な過去を忘れないことが、末永い友好交流には不可欠であることを述べて締めくくられた点は誠に印象深い。
 吉田氏は、東京にいた劉徳有氏と入れ替わりに北京におられたことになるが、二人は東京でも北京でも何度も会っていたらしい。しかも二人は共に1931年生まれの同い年で、吉田氏は劉氏のことを、働き盛りの四十代に日中の未来を語り合った盟友であると回想されていた。

 二人の講演には、そのジャーナリストとしての報道姿勢が見事に共鳴していた。特に一致していたのは、池田会長の提言に対し、全く偏見や予断を持つことなく、世間の風評にも何ら左右されることなく、その意義を評価している点である。表面的な文言だけでなく、当時の時代背景の中で中国の国際的地位の復権と中日の友好親善の重要さを訴えることがいかに勇気の要ることであったか、またそうした提言が国家レベル、政治レベルの視点ではなく、民衆や文化に根差した世界観に基づくものであることなどを、実に冷静に見抜いている。というよりも、偏見や予断をいっさい持たずに、提言の本質に虚心坦懐に耳を傾けることができたからこそ、ためらうことなくそれを報道することができたのだ。
 そのことを語る二人の語り口には、ジャーナリストとして一線を退いた今も、自分の眼の確かさに対する自信が溢れている。世間の風評に迎合するような者はジャーナリストの名に値しないのだと、訴えかけているようでもある。昨今、とりわけ日本においてこのような公平で洞察力のあるジャーナリストが果たしてどれくらいいるだろうか。

 そしてもう一つの共通点は、青年への期待を強調されていたことである。劉氏は中日両国間には民間交流が今後とも重要であるとして、現在その後継者育成に取り組まれていると述べられた。それは聴衆の創大生に期待する熱い思いでもあったであろう。
 吉田氏は、周恩来総理が池田会長との会見の折りに「あなたが若いから──」と語られた言葉を紹介しながら、中日友好の未来を見据えられたからこそ、周総理は三十歳も年下の池田会長を大事にされたのだと強調された。
 今、七十代となった池田会長は、中日の未来を託すべき21世紀の青年の育成に全力をあげられている。そしてそれに呼応するかのように、中日友好の精神を青年に伝えるべく労を厭わず語ってくれた、池田会長と同年代の二人の先人に心から感謝し、そのメッセージを青年の一人として胸に刻み、一人でも多くの中日の青年に伝えていきたいと思うものである。

《参考文献》
劉徳有著『時は流れて――日中関係秘史五十年』藤原書店 2002
吉田実著『日中報道回想の三十五年』潮出版社 1998

2003.1.1


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