講座:「人間学の扉―人間を探究するとはどういうことか?―」
講師:山岡 政紀(創価大学文学部教授)
日時:2013年9月1日(日)10:00〜11:30、13:30〜15:00
会場:創価大学本部棟M401教室
講座番号:38
本講座の趣旨
わたしたちは人間として生を受け、そして、21世紀の今日、人類の文明の恩恵に浴して生きています。人類はその英知により、現象世界の真理を探究し、それを応用して文明を創出してきました。例えば、宇宙の天体のメカニズムを解明し、計算して、人工衛星を打ち上げ、想定通りの軌道に乗せることを可能にしました。光や電気の仕組みを解明して高度な通信技術を開発しました。伝染病のもととなる病原菌を突き止めてワクチンを開発しました。つまり、人間はこの世界を「探究」することによって、そこから新たなものを「創造」してきたわけです。その繰り返しが、地球文明の発展の歴史とも言えます。
でも、この世でいちばん不思議ものはなんでしょうか。――それは、そのような進歩を可能にした人間自身です。人間が現象世界に目を向けて探究してきたのに比べると、自分自身にはあまり目を向けてきませんでした。
科学が発達して生活が豊かになり、便利になったことはまちがいありませんが、それで人類は本当に幸福になったのかどうか。この問題提起は、40年前の創立者・池田大作先生と英国の歴史家・トインビー博士との対談の中でも大きなテーマとなっています。人間は科学の力で核兵器を開発し、地球上のすべての生命を一瞬にして死滅させる能力を手にしました。また、森林を伐採して汚水を海に垂れ流し、地球環境を破壊して来ました。西洋文明の発達の歴史にどこか偏りがあることを知悉したトインビー博士はそれを解決する英知を東洋の仏教文明に求めていたのです。
知の最前線の役割を担ってきたのが大学ですが、大学は本来、人類の次代を担う人材群を育てる教育の城です。であるならば大学は、単に知識や技能を切り売りする職業訓練学校であってはならず、学問の入り口に立つ青年たちに、人間を探究することへの動機づけを与え、啓発しゆく使命があると考えます。今日一日は、創大生と同じ地点に立って、共々に人間を探究する思索の時間を楽しみたいと思います。
人間の定義
1.ホモ・サピエンス(英知人) スウェーデンの生物学者リンネ
2.ホモ・ロクエンス(発話人) ドイツの哲学者ヘルダー
3.ホモ・エコノミクス(経済人) イギリスの経済学者スミス
4.ホモ・ファーベル(工作人) フランスの哲学者ベルクソン
5.ホモ・ルーデンス(遊戯人) オランダの歴史家ホイジンガ
6.ホモ・パティエンス(苦悩人) オーストリアの精神科医フランクル
7.ホモ・シグニフィカンス(記号人) フランスの文化記号論者バルト
8.ホモ・レリギオスス(宗教人) ドイツの人間学者シェーラー
人間がいかに変わった生き物か、不思議な生き物か、皆さんといっしょに確認したいと思います。そこから逆に、最も人間らしい生き方とは何か?人間として生きる使命とは何か?皆さんと話し合ってみたいと思っています。
生命の尊厳の探究
人間は特異な生き物ではありますが、他の生物と同じ環境の一員でもあります。
トインビー「人間は他の動物より遥かに大きな行動の自由を持っています。他の動物より悪いこともできるし、善いこともできます」
池田「善と悪を見極める規範がなかったならば、それはもはや人間の社会とはいえません」(『二十一世紀への対話』より)
人間には行動の自由があるからこそ、善悪の見極めが必要になります。自らの意思で善の生き方ができる人こそが「幸福な人」ではないでしょうか。そして、教育の最大の使命はそのような生き方を啓発していくことにあるのではないでしょうか。
池田先生は「学問・教育の本質は、生命の尊厳を教えることである」と述べられています。そして、生命の尊厳は頭で論理的に理解するものではなく、五感をフル稼働して感じ取っていくものでもあります。その感性を涵養するのは宗教的精神です。その意味で学問・教育は本来、宗教的でなければならないというのが先生のご主張です。
但し、先生は「宗教性」と「宗派性」の区別を明言されています。「創価大学では宗教教育を行わない」とされたのは、厳密には「宗派教育を行わない」という意味です。宗派性を超えた普遍的な宗教性、即ち「人間が誰しももっている生命の尊厳への宗教的感性」を育てることは人間教育に不可欠な要素です。
宗教性を育てる方途として、池田先生は、「@対話、A古典文学の精神的遺産に触れること」、この二つを挙げられています。これを踏まえた創価大学文学部人間学科での実践例もご報告してみたいと思います。
※昨年は「日本語会話の達人を目指して」とのテーマで講座を行いましたが、同じテーマではマンネリになってしまうと考え、本年からは年ごとに異なるテーマで講座をさせていただくことに致します。皆さまに喜んでいただけますよう、精一杯努めますので、どうかよろしくお願いいたします。