防災対策における大学・学生の地域貢献

創価大学学生部長 山岡政紀

 

1 地域貢献と学生参加

 

 大学は、教育機関として学生を育成する使命を担っている。と同時に、地域においては、一定規模のキャンパスを有し、また、学生たちも様々な形で地域の人々と関わりを持ちながら共存しているという意味において、大学には地域住民に貢献していくという、もう一つの使命がある。創価大学は1971年に開学して以来、この地域貢献というテーマを重視し、いかにして八王子市や地域のお役に立っていけるかということを常に考えてきた。

 また、本学には“学生参加の原則”という良き気風と伝統があり、開学当初から、大学運営の重要事項を、教職員のみならず学生の代表も参加して協議・決定する「全学協議会」が設置され、三十数年ほぼ毎月開催されてきている。入学式や卒業式においても、学生による実行委員会が式典の様々な準備を自主的に行っている。

 このように「地域貢献」と「学生参加」という二つの伝統が融合し、特に近年において本学独自の活動として確立されたのが、「学生ボランティアによる地域の防災活動」である。

 

2 災害時ボランティアに関する地域との連携

 

 災害はいつ起きるか予測がつかないからこそ、災害時ではなく平常時からの防災対策が重要である。本学では、日頃から、教職員と学生とが一体となって防災意識を高める防災教育を重視してきた。災害時には大学としてまず学生の安全を確保することが求められる。しかし、大学が地域的存在である以上、大学内だけの安全を目指すべきではないし、またそれはあり得ない。その意味で、本学ではこれまで、大地震・災害での各教育機関・事業所が行った防災対策を参考として、地域と一体化した防災対策を検討し、行政や地域との連携を図ってきた。

そうした中、2003年に、学生団体である「救急救命サークル」が創設された。このサークルの活躍により、学内に救急救命の知識と技能が広く普及し、この実績に対して八王子消防署から二度にわたって感謝状が贈られている(詳細を後述)。

この問題意識の高さと豊富な人的資源を活かして、2006年3月には、八王子市、八王子消防署、創価大学の三者間で「災害時支援ボランティアに関わる相互協力に関する協定」を締結するに至った。これは、八王子市では初の協定で、全国でもあまり例を見ないものである。

この協定は、講習等を受けた本学の教職員並びに学生を「災害時支援ボランティア」として認定し、八王子消防署に予め登録しておき、地震や台風などの大規模災害発生時等に活動するものである。八王子市は、災害対策上必要があると認める時に、八王子消防署を通じて登録ボランティアに対し協力を要請し、このボランティアは要請に応じて災害対策の活動に協力することになる。例えば、震度6以上の地震があった場合は、特に連絡がなくてもボランティアは消防署に集合する取り決めになっている。

本協定を結んで以降、幸いにも八王子消防署管轄地域での大規模災害は起きてないが、年2回行われる消防署での防災訓練にはボランティアのメンバーは毎回参加している。

本学の救急救命サークルは、学内で頻繁に「普通救命講習会」を開催し、救命活動の知識と技能の普及に尽力してきた。その結果、2008年7月現在で、普通救命資格取得者が累計で415名、災害時支援ボランティア登録者が累計で250名を数えるに至っている。

ボランティア登録者は既に十分な数を確保できているので、今後は登録者を増やすことよりも、ボランティアの救命技術の向上、ボランティア同士の連係強化を重視し、災害時への意識づけを高めていくようにしたいと考えている。

 

3 救命救急サークルの活動

 

ここで、「救急救命サークル」(福崎由美部長、現在の部員数29名)の活動について、詳細を紹介したい。

救急救命サークルは、前述のとおり、2003年に学生団体(サークル)として創設され、当時の1年生であった桧山世紀君が、医師や教師を目指す同級生に呼びかけて自発的に設立したものである。応急手当普及員の資格(東京消防庁認定)を持つ学生課職員・山下浩氏が顧問に就き、具体的な指導を行ってきた。以後、学内外で八王子消防署後援の「普通救命講習会」を実施し、受講者は、活動開始二年間で100名を超え、そのうちの31名が、「普通救命資格」を取得した。

普通救命講習会の具体的な講習内容としては、まず、応急救護の重要性に関する講義の後、気道確保、人工呼吸法、心肺蘇生法(心臓マッサージ)、異物除去法、止血法、AED(自動体外式除細動器)の使用法などの技術を、人形等を用いて実習する。この講習会には必ず八王子消防署員が立ち会い、技能を習得した受講者には消防署から普通救命資格の認定証が交付される。

2005年度の救急救命サークルの活動は、内外に高く評価された。9月、東京消防庁八王子消防署より、同サークルの応急手当普及への貢献を称えて「感謝状」が贈られた(2007年に2度目の感謝状)。また10月には、読売新聞紙上に同サークルの活動内容が写真入りで紹介された。12月に開催した学内普通救命講習会には、過去最大の135名の学生が参加し、救命活動に対する意識が学内に浸透しつつあることを証明した。この年の救急救命サークルの活動については大学としても高く評価し、翌年4月の入学式の席上、「創価大学ダ・ヴィンチ賞」を贈り(団体受賞)、その功を讃えた。

その後も今日まで、大学のクラブ活動を管轄する「学友会」(学生組織)の役員や、男子寮、女子寮のそれぞれの寮役員を対象に普通救命講習会を行い、学生生活における事故・災害対策、救命活動に必要な知識や技能の普及に貢献している。

また、入学式・卒業式・スポーツ大会・創大祭などの大学行事には、救護班として積極的に出動し、けが人や急病人が出た際の応急処置に当たってくれている。

学内のみならず、同サークルは地元地域の町会においても普通救命講習会を開催したり、町会によっては消防署主催の防災セミナーに参加し、救命活動の実演その他で協力している。さらに、八王子市の恒例の夏祭である「いちょう祭」にも救護班として出動するなど、地域住民との交流に幅広く関わり、地域の方々に大変喜んでいただいている。

大きな災害が決して起きないことを願いたいが、そのうえで万一の災害時には、即座に地域の方々のために出動するという心構えを持った学生が相当数いることは、大変心強いことである。

本学の創立者池田大作先生が開学に当たって示された建学の理念には、「人間教育の最高学府たれ」とある。また昨年、文学部人間学科(従来の5学科を1学科に統合)が開設された際には、「生命の尊厳の探求者たれ」との指針が贈られている。

このような地域貢献の精神の普及・継承を、学生自身が自発的、主体的に行うことは、それ自体がまさに人間教育であると考える。さらに数ある地域貢献のなかでも、住民の生命に関わる救命活動は、まさに本学の教育方針と合致する重要な活動と位置づけることができよう。

こうして学生たちが得た救急救命の知識・技能は、卒業後にどの地域に移り、どのような職業に就こうとも、必ず活きるものであり、これを大学時代に習得しておくことの価値は極めて高いと考えている。

 

4 災害時におけるキャンパス開放

 

大学が災害時の地域貢献に資するものとして、前述のように学生という人的資源に加えて、キャンパスという物理的資源がある。創価大学は八王子市北部に位置し、あきる野市との市境に近い滝山丘陵の小高い丘に80ヘクタールという広大なキャンパスを有している。これも災害時には地域の避難場所として活用していただくことになっている。

2006年1月には、八王子市との間で「広域避難場所に関する協定」を締結し、地域住民等が災害時に避難してきた場合に構内を開放することを取り決めている。

この協定に基づき、大学周辺に「広域避難場所」の誘導看板を設置したり、また八王子市が作成した防災マップ等にも本学を避難場所として表示したりして、地域住民に案内している。

また、この協定と同時期に八王子市よりの要請を受け、「災害時におけるヘリコプター臨時離着陸場」として本学の第一グラウンドが指定された。このように災害時に積極的に市及び消防署への協力、地域への貢献ができるよう努力している。

 現在、学内における備蓄食料・飲料水の検討を進めており、明年3月に完成予定の新総合体育館内に備蓄倉庫を設けて約8000人分の非常飲食料を2日分備することになっている。

 八王子市には、23の大学などが加盟している「八王子市学園都市連絡会」があり、昨年1年間かけて「災害時用備蓄等の物資の供給等に関する相互応援協定」について検討し、本年3月に同協定を締結した。

これは、市内において大規模な災害が発生し、各加盟大学独自では学生等に十分な防災用備蓄等の物資の供給が実施できない場合に、大学相互による応援を円滑に遂行するための協定であり、八王子地域を4ブロックに分け、ブロック毎に代表校を決めて、災害時に備蓄の支援等が必要となった時にブロック代表校がブロック内での応援体制をとることを定めたものである。さらに被害の状況によりブロック内での応援体制が困難な場合は、ブロック相互に応援体制をとることも定められている。

この相互応援協定は、大学等の教育機関の多い八王子市の特性を活かしての対策として期待されている。

 学内においては、現在、危機管理に関する委員会が設置されており、様々な観点から防災対策について検討が進められており、特に全学的な防災訓練・非難訓練の実施については早急に実施したい。

 以上、本稿では、学生ボランティアによる救命活動と災害時のキャンパス開放という二つの観点から、災害時の地域貢献に関する本学の取り組みについて述べてきた。

 いずれにしても、ますます高まる大規模災害への危機感に対し、万全の防災対策を取っていくことによって、昨今、大学に求められている社会的責任(USR)を果たしてまいりたい。

 

 『大学時報』第57巻第322号(2008年9月号、日本私立大学連盟)「特集:自然災害と大学」より 2008.9.20 ©日本私立大学連盟(転載許可)


創大ホームページへ
日文ホームページへ
山岡ホームページへ