豊洲移転の可否は都議選の争点にならない

7月の東京都議選の主要な争点として築地市場の豊洲移転問題が注目されています。昨年117日に開場しているはずだった豊洲市場への移転が延期されたことにより、市場関係者においても都議会構成員においても豊洲移転派と築地残留派の論争が再びクローズアップされ、メディアもそこに殊更焦点を当てて、そのことがそのまま都議選の争点となるかのように報じています。

しかし、豊洲移転の可否、つまり豊洲移転か築地残留かの選択は都議選の争点にはならないと私はかねてから考えています。なぜなら、どう考えても豊洲移転しかあり得ないからです。時計の針を戻して豊洲市場建築を始める以前の状態から議論し直せるのならまだしも、既に6000億円かけて完成している新市場をまた莫大な費用をかけて解体し、土地の売却益で築地市場を再整備するなどという非現実的な選択肢がいまだに残っているとはどうしても考えられないのです。

ですから、もし都議選の争点にするのであれば、「どのようにして安全・安心を確保しながら豊洲新市場への移転を果たすか」。このことをこそ、争点とすべきだと思います。

 

小池百合子都知事の記者会見や各所での発言にも注目してきましたが、昨年8月に豊洲への移転延期を発表して以降、「豊洲移転の白紙撤回」に言及したことはなく、「築地再整備案」も知事自身が話題にしたことはありません。小池都知事は『文芸春秋』五月号の独占手記にこう書いています。

 

安全・安心の確保はもちろん、八十年以上の歴史を重ね、ブランド力を有する築地に代わって、消費者の信頼を得た上に、未来に向けて持続可能な市場を稼働させる。そのためのチェックをするのは、知事として当然のことではないでしょうか。

 

つまり、小池都知事としても豊洲移転はもはや既定路線であって、そのための安全・安心の確保に責任者として全力を傾注しているのだということがここから読み取れます。

都議会自民党は昨年8月の小池都知事による移転延期の判断自体が間違いだったとして早期移転を主張していますが、私はそうは思いません。新市場の安全を担保する方法の一つとして都民に示されていたはずの盛土が実はなされていなかったというのは都民への裏切りです。科学的数値によればそれでも「安全」らしいのですが、私たち一般の都民にとっては実感のない領域です。そのことを都民の「安心」につなげていくためには都民と都政とのあいだの「信頼」が不可欠だと思います。あれは虚偽情報でした、でも「安全」だから問題ない、などというのは、都民に対して不誠実な態度ではないでしょうか。その意味で、都民への情報公開を通じて、都民の信頼を得ていこうとする小池都知事の誠実な姿勢を私は全面的に支持したいと思います。

予定通り2月に発表された地下水モニタリングの結果についても環境基準を超えるベンゼンの数値が出てしまったことは都知事にとっても予想外だったのではないかと思います。それでも市場部分は科学的には「安全」らしいのですが、都民に「安心」を提供するはずの調査結果が不本意な印象を都民に与えてしまった以上、小池都知事がさらなる安全・安心のための対策を取ることに舵を切ったのは、都民の心情を基準に考える誠実な態度だと思います。

小池都知事が示した豊洲移転のロードマップでは安全性の調査や環境アセスメント等を経て今夏に移転判断が発表されることになっています。都民の未来を支える市場の開場という慎重な問題であるだけに7月の都議選とは切り離して考えているのかもしれません。しかし私は、都政への関心が高まるこの時だからこそ、少し前倒ししてでも都議選前に移転判断を発表してほしいと思います。そうすることによって、争点が豊洲移転の可否から「どのようにして安全・安心を確保しながら豊洲新市場への移転を果たすか」に移り、都民の市場問題への意識も向上するように思われるからです。

 

そうなると、築地残留を主張する党派は論外として、同じ豊洲早期移転を主張する党派であっても主張の中味がかなり異なることがわかります。都議会自民党は小池都知事の延期判断それ自体を批判していますが、それは即ち、盛土問題に蓋をし、科学が示す「安全」を盾にして都民の不安を封印する態度のように思えます。

それに対して都議会公明党は都知事の延期判断とその後の努力を支持した上で、さらに豊洲への都民の安心確保のための方法を提案し、都知事の移転判断を後押ししようとしています。具体的には、豊洲市場を一般公開し、都民に見学してもらうことでその最新設備などに触れて安心の一助にしてもらうことや、市場内の大気汚染濃度を常に「見える化」する環境モニターの設置などを提案しています。いずれも都民への情報公開という小池都知事の都政方針に沿うものですから、知事がこれを採用して移転判断を前進させる可能性も十分にあると思います。

都民ファーストの会については、その中心的存在であるO都議が旧みんなの党時代から豊洲移転推進派の先頭で旗を振っていたことなどからも、潜在的には豊洲移転を目指しているのは疑いないところですが、先般、小池都知事が代表に就任したこともあり、都知事が移転判断を留保している以上、党としても態度留保せざるを得ず、メディアが移転可否を争点化する限りは不利のようにも思います。今は忍耐の時ではないでしょうか。

公明党は国政においても与党内野党として、党の主体性を持って政権運営にさまざまな実効性のある働きかけを行い、連立政権の効果を示す存在となってきたことを私は頼もしく見ています。一昨年の安保法制のときもそうでした。

都政においても長年にわたる都議会与党としての豊富な実績と経験がありますが、それを活かしながらも同時に都知事の改革精神と情報公開への姿勢とも歩調を合わせ、主体性を持って外から支える存在になりつつあります。そのような役割を十分に果たしてくれることを公明党の今後に期待したいと思います。


2017.6.11
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