池田・トインビー対談の開始と日中国交正常化――1972年にほぼ時を同じくして行われた二つの慶事が共に30周年を迎えた。
池田名誉会長(当時・会長)と20世紀を代表する歴史家トインビー博士との第1回の対談が行われた同年五月は、池田会長が68年に行った日中国交正常化提言がいよいよ結実しようとしていた最中のことであった。
時の一致は、決して偶然ではなかった。対談の中でトインビー博士は、中国が世界文明の平和的統一のために主導的役割を演じるであろうとの予測を述べる。池田会長もまた、中国の人々の平和主義を強調して賛同する。
中国が政治と経済の面で国際社会から孤立していた当時にあって、二人の偉人は人間と文化に着目した中国観をもっていたからこそ、その実像を見ることがで
きたのだ。この対談は、著作を通じてそのことを述べた歴史家と、行動を通じて実際の日中関係に変化をもたらそうとした実践家との出会いだった、とも言うこ
とができる。
昨年十二月、中国3億7000万人の青年組織である中華全国青年連合会(全青連)の代表が来日し、池田名誉会長と会見した。35歳の馬春雷団長は、学生時代に池田・トインビー対談の中国語版を読み、未来へのビジョンを教わったと述懐している。
人間と文化を基軸とする視点が、中国観のみならず人間社会のあらゆる分野に注がれ、さらに国境と民族を越えて人の生き方にまで影響をもたらしていた。馬
団長の「この本が私の一生における成長過程を大きく変えてくれた」との言葉は、この30年間に世界の多くの人々が共有した思いだったと言えるのではないだ
ろうか。
2002.6.27 (『聖教新聞』2002年6月27日付 文化欄コラム「智剣」より)