書評集No.52


『心の計算理論』 徃住彰文著/1991322日発行/東京大学出版会刊/定価2300


 認知科学が活発に議論されるようになってまだ日は浅いが、その研究者の多くが、先行研究者が前提とする立場を無批判に受け入れているのを見かける。心の科学として、心理学や哲学(認識論)と共通の関心から出発した認知科学が、単に人工知能や統語論の研究であったりしないための整理が必要である。本書では、心理主義、認知主義等の基本的立場を概観し、過去の行動主義、慣用主義等も紹介しつつ、認知科学とは何であるかを巨視的に見せてくれる。
 諸々の立場は最終的に二つのパラダイムに整理されている。一つは生成パラダイムである。チョムスキーの言語理論の認知科学としての性格に関する記述が実に明快である。「言語の科学」と「心の科学としての言語研究」の質的な違いへの理解が実に行き届いている。
 
もう一方の計算パラダイムは、人間の認知活動を一貫して記号計算として見る立場で、今日の認知科学では最も主流だが、その方法論そのものが持つ”心”観を理解するのに本書は最適であろう。


創価大学ホームページへ
山岡ホームページ表紙へ