山岡政紀 書評集No.48


認知科学選書21『認識と文化 色と模様の民族誌』 福井勝義著/1991225日発行/東京大学出版会刊/定価2472


 認識人類学という耳慣れない分野が、人間に関する重要な事実を提示してくれることを示す好著である。
 筆者福井氏は、連続である色彩を分断して命名する認識行為を追求することによって、人間の認識世界の分断の有様を明らかにしようとした。そして、研究対象としてエチオピアの奥地のボディ族を選び、夫人とともに現地に住み込んで調査した。
 ボディ族は文明との接触を一切持たない牧畜民族である。彼らの色彩識別能力、分類能力は極めて鋭敏で的確だったが、その調査の過程で、彼らが幾何模様に対しても同様な能力を持つことを発見。さらに、それらが牛の毛色に由来することをつきとめ、牛とともに送る彼らの人生のあり方と、彼らの認識の世界との相関関係が鮮やかに描き出されている。
 
また一面、本書で描かれるフィールドワークの模様は壮大なドラマでもある。彼らの警戒心を解き、現地語を習得し、調査に入るまでの労作業、調査の過程での発見等、学術書としては異例なほど感動的である。


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