時間の謎に迫る、というテーマを持つ本書だが、ブラックホールや宇宙の膨張についてのわかりやすい説明もあり、宇宙物理学の入門書としても読める。
ニュートンからアインシュタインに至る物理学の進歩が意味するものは、きわめて特殊な世界における経験であるところの人間の日常から敢えて離れ、現象を一般化、普遍化していく、ということだった。自然科学は常に人間の日常を相対化してしまう。
逆に言うと、本書のような入門書でさえ、その物理学の理論の説明の大半は我々の通常の経験の外にある。基礎方程式ですら、時間のすべてを平面化してしまうため、現在、未来、過去という区別を消滅させる。また、タイムマシンを可能にするというワームホールの説明などは極端に抽象的で、我々の経験の中の時間概念に翻訳することはまず不可能であろう。結局、「時間」は本質的には人間の主観世界の産物であり、哲学的議論を欠いては何の解決も無いことを、本書ははからずも明らかにしているとは言えまいか。