山岡政紀 書評集No.40


『現代哲学の冒険J技術と遊び』  市川浩他編/199075日発行/岩波書店刊/定価2600

 現代の人々に科学に対する畏敬の念を抱かせるのは、科学理論が真実を明かしてくれているからではなく、科学を応用した「技術」と現代人の日常との関わりによるものであろう。ここに、価値としての科学の側面がある。
 そこで、現代人の日常なるものを内省していくときに、幻想と虚構の世界に満ちていることに気づく。本書はこれを「遊び」と呼び、現代という時代に技術と遊びという角度から切口を入れて、人間の隠された本質を探ろうとする小論集である。
 例えば、空を飛べないはずの人間が、「空を飛びたい」という幻想と欲求を抱く。幻想は人間のみの記号的行為とも言えよう。そして、現代の人々は飛行機という「技術」によって幻想を新たなリアリティーに換えて人間に与えた。それは単に人間の実用に供するのではなく、演劇性を持っている「遊び」なのだ。そして、人間のリアリティーがどこまで拡大しうるのかという潜在性を模索する中で、二十一世紀の自我のゆらぎなるものを探るのが本書である。


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