国立民族学博物館の名館長として知られる梅棹忠夫氏は、八六年の三月に突然視力を失った。以来、約四年間の闘病と著述業の再開に至る経緯などを綴った随筆集が本書である。氏は一貫して、光を失うことの苦しさを、ためらいなく吐露している。快復への期待と現実との隔たりからくる絶望感が「夜はまだあけていない」、「長い夜だ」、「おとなは泣き叫ぶわけにいかない」と絶えず繰り返される。痛みを伴わぬ肉体の病がいかに精神を苦しめるかという、一つの内的経験の告白である。
そんな中で音楽鑑賞、楽器演奏への挑戦を開始するなどの意欲を示すが、その夢もまた現実の暗黒の前に、実に悲壮な結論をしかもたらさない。唯一の光明となるのは、進行中の著述を数冊完成させたことだが、筆者の人徳、学徳ゆえの多くの協力に支えられてのことで、失明者としてはまれな恵まれた条件による。望むらくは、自己の宿命と使命を達観して蘇生されることを信じたい。