山岡政紀 書評集No.33


『豊かさとは何か』 暉峻淑子(てるおかいつこ)著/1989年9月20日発行/岩波書店刊/定価550円(本体534円)

 戦後の混乱期に、日本国民は危機感に追い立てられながらもそれを原動力に働き続けた。そして復興を通り越して、世界を驚嘆させる経済大国を築いた。しかしそれは、目標も価値観もない労働だった。無論、食えない時代には仕方のないことだが、金余りの現代でもなお、日本人は盲目的に働き続ける。金余りがもたらした地価の高騰。福祉など公共サービスの貧しさ。人々は住宅ローンや老後の生活のために、敢えて企業戦士となって働く。経済大国であるが故に日本人の心はゆとりを失った。
 一方、筆者が西ドイツ滞在中に見たものは、地価の安い都会に大きな家を持ち、すぐ近くに職場もあれば、森や湖もある、理想的なゆとりある暮しだった。また、経済効率の悪い老人福祉などにも十分な金をかけ、駅や空港では旅行者を気遣った数々のサービス。自由主義ではあるが経済至上主義ではない西独社会に、かつてガルブレイスが提起した真の意味での豊かさを感じたと吐露している。


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