山岡政紀 書評集No.31


『学問の現在』 山口昌哉・坂本賢三・佐和隆光・富永茂樹著/1989425日発行/駸々堂刊/定価3000

 近代科学が登場する十七世紀以前には、すべての科学が哲学だった。その目で科学の現在を見直してみるならば、あまりにも細分化され、専門化されていることに気づく。そこで、一冊であらゆる科学の最先端の概略を専門外の読者にもわかりやすく紹介しようという贅沢な試みが本書である。特に、バイオエシックス、経済人類学、生物物理学など、異なる領域にまたがる分野についても一つの項目を設け、分野間の隙間を埋めようとしている点が評価されよう。
 しかしながら、各項目の筆者により、その説明の丁寧さ、視点等にばらつきがあり、編者の哲学的な一貫性が感じられないのは残念である。現代の科学こそ、かつてとは違った意味で、共通の哲学的基盤が要求されている。理論の成立以前に前提化されている対象の実在や方法論、さらにその前提たる人間の認識、経験等に対する一貫した視点こそが、諸分野を再び全体観から統一的に展望するために必要ではなかろうか。


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