二十世紀末の科学史の流れを、丸山氏は二つの視点から整理する。一つは氏の持論で、コトバは対象への記号ではなく、コトバによって対象が発生するというもの(実体論から関係論への視座の転換)。今一つは自然科学というイデオロギーが、構造からはみ出したものとして無視した無意識を、人間を人間たらしめるものとして復権させること。両者は、無意識こそコトバであるとしたラカンの説を媒介に連続し、なおかつ丸山氏の新たな展開として、意識と無意識の二項対立を否定した円環運動説が述べられる。
これまでの丸山論考を文明批判であるとする誤解に対しては、本書は全く否定している。人間存在そのものの意識と無意識を含めた総体がコトバであるからこそ、狂気や精神病もまた一貫してコトバの意味作用の喪失から説明されるとし、故に人間はその欲望すらも言分けられており(欲動と呼ぶ)、それ以前の自然に戻ることはできないと論じている。