山岡政紀 書評集No.29


『神経回路網モデルとコネクショニズム』 甘利俊一著/1989720日発行/東京大学出版会刊/定価1854

 コンピューター上で人間の認知行動を模擬させることでその機能的本質を解明しようという認知科学では、記号で構成されたプログラムをアルゴリズムに従って「直列処理」するのが主流だった。それに対し、脳が実際に行っているような、多数の情報の相互作用を複合的な処理によってダイナミックに計算する「並列処理」の立場が、神経生理学やハードウェア技術の発展を背景としてここ数年の間に急進的に台頭してきた。これがコネクショニズムと呼ばれる。
 本書はニューロンから神経回路網が構成される原理をもとに記憶や学習などにおける挙動を計算する数理的手順の基礎を解説したものである。
 一般の読者にとってはむしろ黒崎政男氏による補稿が興味深い。コネクショニズムでは刺激の集積が脳の構造自体を変化させ、刺激に順応させていくという可塑性が主張されるが、黒崎氏はこの刺激を経験と置き換えてイギリス経験論に類比させ、その哲学的意義を論じている。


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