山岡政紀 書評集No.16


 『機械の知 人間の知』 辻井潤一・安西祐一郎著/東京大学出版会刊/19881025日発行/定価1800

 人工知能(AI)研究は、今や認知科学という新しい科学の主流となっている。人間の知識や知能や記憶などの認知構造の解明を目的とする認知科学に、AI研究がいかにして貢献するというのか。本書はその辺の事情がよく整理されている。AIは、情報の入力と出力との正確な計算処理を、とりあえず途中の処理過程を無視して模擬することを試みる。それを出発点として内的な計算機構のモデルの構成へと向かう。コネクショニズムと称される最新の理論はその代表である。もっとも、これとて完全な内的認知機構の解明に至っているわけではなく、あくまで他の方法論の無力さを背景としてのいわば途中経過なのである。例えば、チョムスキーの生成文法における「深層構造」は一般的な誤解に反して、人間の内的な言語計算過程に全く関心を払わない。このように、巨大な問題に対して学際的に行われている論争の先端部分を垣間見させてくれるのが本書である。


創価大学ホームページへ
山岡ホームページ