毎日新聞の同名の連載百回分が収められている。五部構成だが、大要、
@末期患者の臨床における信仰
Aキリスト教修道院で修行する禅僧
B企業の経営に生きる信仰心
C東南アジアの小乗仏教が民衆に根づく様子
D教育現場での信仰を通じての心の触れ合い
といった、いずれも短編ながら宗教がまさに生きている事実を報告したドキュメンタリーである。いろんな読み方が可能だが、第U部は現代日本社会に生きる人間自身の心の空隙を宗教が事実満たすことをもって、巨大社会の物質偏重を暗に批判しているとも読める。特に、死という誰もが避け難い現実に直面した人にとって、自己の存在を有意義たらしめる唯一の心の支えとして、宗教が果たす役割の大きさには胸を打たれる。
但し、本書での宗教が、あくまで“心”の次元でのそれに留まり、身体論にまで侵入して科学のパラダイムを換えつつある現代哲学に触れなかったのは、賢明であり、かつ若干物足りない。