本書で主張される“生命学”なるものの存在をメタ科学的な眼から見た場合に、学際科学の見本をよくぞ呈示してくれた、との感激に堪えない。例えば、「他者の原理」と呼ばれる極めて認識哲学的な概念と、「生命圏の原理」という生態学的な概念を対立させて、その調和・融和を図ることを積極的に主張する。この論理の中に人文科学・自然科学・社会科学がすべて含まれてしまっている。
強いて言えば社会科学的な倫理学の色合いが最も濃い。なぜかならば、本書は「我々は何物だ」という問いを発することをやめて「我々はいかにすべきか」を問い始めているからである。
望むらくは、一見背反する二つの原理が人間の生命の中で連続しているということを、唯識思想や天台の九識論などの仏教の生命哲学の視座から一度見直してもらえれば、人間自身の実践を必要とはするものの、今少し人間存在を自然の一部として肯定的に見ることができるのではなかろうか。