\\01
語法指南(日本文法摘録)
柹 假名 音
○五十音圖 平假名 片假名
五十音圖
平假名の表
片假名の表
あ、い、う、え、おノ縱[タテ]ノ行[ギヤウ]ヲ阿行[アギヤウ]ト名ヅケ、か、き、く、け、こノ行を加行[カギヤウ]ト名ヅク、其以下、左行[サギヤウ]、多行[タギヤウ]、奈行[ナギヤウ]、波行[ハギヤウ]、末行[マギヤウ]、也行[ヤギヤウ]、良行[ラギヤウ]、和行[ワギヤウ]、皆、之ニ傚へ。
あ、か、さ、た、な、は、ま、や、ら、わノ横ノ段ヲ阿段[アノダン]ト名ヅケ、い、き、し、ち、に、ひ、み、い、り、ゐノ段ヲ伊段[イノダン]ト名ヅク、以下、宇段[ウノダン]、衣段[エノダン]、於段[オノダン]、皆、之ニ傚へ。
\\02
○單音、母韻、發聲、熟音 阿行[アギヤウ]ノ五音ハ、喉ヨリ單一ニ出ヅ、コレヲ單音[/タンオン]ト名ヅク。 加行[カギヤウ]以下、九行ノ諸音ハ、其行[ギヤウ]毎ニ、各、其音ヲ呼ビ發[オコ]ス一種ノ聲アリテ、コレヲ發聲[/ハツセイ](Consonant.)ト名ヅケ、單音、ソノ韻[ヒビキ]トナリ、發聲ト單音ト、相熟シテ、始メテ音ト成ル、此ノ故ニ、加行以下ノ九行四十五音ヲ、熟音[/ジユクオン](Syllable.)ト名ヅク。 單音ハ、斯ク發聲ノ韻トモナルガ故ニ、亦、母韻[ボヰン](Vowel.)ノ稱アリ。
○單音、熟音、又ハ、發聲(子音トモイフモノ)ノ名稱、及ビ、假名ト洋字トノ發聲、母韻、ノ辨、委シクハ、文典ニ讓ル。
○發聲ノ、喉、舌、齒、鼻等ニ關スル解モ、辭書ニ用ナケレバ、此ニ畧ス。
五十音圖ノ中ニ、阿行ノい、う、えト、也行ノ、い、えト、和行ノうト、同形ノ字、重出ス。 此ノ各二音ハ、各、甚ダ相近ケレバ、古來、字ヲ相通ハシテ用ヰ來レリ。 サレド、阿行ナルハ、單音ニテ、也行、和行、ナルハ、別ニ、其各行ノ發聲アル熟音ナレバ、各、相異ナルベキ理アリト知ルベシ。(其證例ノ委シキコトハ、文典ニ讓レリ)
又、今世口語ノ發音ニテハ、和行ノゐ、ゑ、をハ、其發聲、默シテ、韻ノミ發シ、單音ノい、え、おニ異ナラズ。 然レドモ、古ヘハ、明ニ其發音ヲ別テリ、サレバコソ、別ニ、其假名モアルナレ。
半母韻 然レドモ、也行ノ音ノ發聲ハ、甚ダ單音ノいニ似テ、和行ノ音ノ發聲ハ、甚ダ單音ノうニ近ク、更ニコレニ母韻ヲ添ヘテ、二母韻、相重ナリテ發スルモノノ如シ、サレバ、拗音ノき-や、し-ゆ、ち-よ、く-わ等(下ニ詳ナリ)ノ韻トモナル。 此故ニ、也行、和行ノ音ヲ、半母韻[/ハンボヰン](Semi vowel.)トモ名ヅク。
○鼻聲、促聲 五十音ノ外ニ、二ツノ聲アリ、ん(平假名)ン(片假名)ト、-つ(平假名)-ツ(片假名)トナリ。 んハ、鼻ヨリ出デテ、撥[ハ]ヌルガ如キ聲ナレバ、鼻聲[/ビセイ]ト名ヅク、此聲、獨リ出デズ、必ズ、他ノ音ノ下ニ附キテ、出ヅ、ねんごろ(懇)ぬきんづ(抽)ぶんてん(文典)ノ如シ。 -つハ、口ニ促[ツ]マルガ如クシテ出ヅル聲ナレバ、促聲[/ソクセイ]ト名ヅク、此聲モ、獨リ發スルコト
\\03
能ハズ、必ズ、他ノ二音ノ間ニ挟[ハサ]マリテ發ス、も-つとも(最)う-つたへ(訴)ま-つたし(全)ノ如シ。 此-つ、-ツハ、多行ノ音ノつ、ツト、形、相似タレド、其聲、全ク異ナリ、右肩ニ標シテ、コレヲ分ツ。
○濁音、半濁音 五十音ノ外ニ、又、一種ノ熟音アリ、コレヲ、濁音[/ダクオン]、及ビ、半濁音[/ハンダクオン]トイフ、是亦、其各行ニ、一種ノ發聲アリテ、母韻ト相熟シテ發ス。 然レドモ、之ヲ記スベキ假名ナクシテ、濁音ハ、他ノ假名ノ右肩ニ、二點ヲ加ヘテ用ヰル、其數、二十アリ。 半濁音ハ、圈點ヲ加ヘテ用ヰル、其數、五ツアリ。 左ノ如シ。
濁音{加行 が、ぎ、ぐ、げ、ご 左行 ざ、じ、ず、ぜ、ぞ、
半濁音 波行 ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽ
{多行 だ、ぢ、づ、で、ど 波行 ば、び、ぶ、べ、ぼ
濁音、半濁音ニ、對シテ、標點ナキ時ノ假名ノ音ヲ、清音[/セイオン]トイフ。 濁音ヲ發スルヲ、「濁[ニゴ]ル」トイヒ、ソレヨリシテ、清音ヲ發スルヲ、「清[ス]ム」トイフ。
濁音、半濁音ニ、本濁[/ホンダク]ト、連濁[/レンダク]ト、ノ別アリ。 本濁トハ、此音ノ自然ニ發スルモノナリ、みづ(水)かぜ(風)にじ(虹)ばんや(斑枝花)ノ如シ。 連濁トハ、二語、相連ルトキ、下ノ語ノ、此音ニ變ズルコトアルニイフ、即チ、やま(山)ト、かは(川)、ト連レバ、やま-がはトナリ、さと(里)ト、ひと(人)ト、連レバ、さと-びとトナリ、おもひ(思)ト、はかる(量)ト、連レバ、おもん-ぱかるトナルガ如シ。
今世ノ口語ニテハ、濁音ノじ、ずト、ぢ、づト、別無クナレリ。 然レドモ、其相異ナルベキ理ハ、其同行中ノ他ノ音ノ發聲ニ比シテ知ルベシ。(今モ、四國、九州、邊ニハ、其別ヲ存セリ)
○拗音 拗音[エウオン]モ、亦一種ノ熟音ニシテ、亦、清濁アリ。 此音モ、記スニ字無クシテ、假名二字ヲ連ネ用ヰテ記ス。 尋常ニ記スモノ、下ノ如シ。
\\04
此拗音ノ「き-や、き-ゆ、き-よ」ぎ-や、ぎ-ゆ、ぎ-よ」、又ハ、「し-や、し-ゆ、し-よ」じ-や、じ-ゆ、じ-よ」等ト相對セシメテ、「か、く、こ」が、ぐ、ご」又ハ、「さ、す、そ」ざ、ず、ぞ」等ノ音ヲ、直音[/チヨクオン]ト稱ス。(其他ハ準ヘテ知ルベシ) 拗音ハ、發聲ト、半母韻ト、相合シテ成ル、而シテ、其各行ノ發聲ハ、其直音ノ發聲ニ同ジ。 此音ハ、二字相連ネテ寫スガ故ニ、書記ノ上ニテ、動モスレバ、直音ノ二字ナルト、紛ヒ易シ、因テ、字間ノ右旁ニ、小線ヲ付シテ別ツ、いし-や、(石屋)い-しや(醫者)ノ如シ。
○以上、鼻聲、促聲、濁音、拗音、ノ事ニツキテハ、古今ニ變アリ、中外ノ音ニ異ナル所アリ、且、假名ノ成形等ニ至リテモ、大ニ辨ズベキ事アレド、辭書ニ用無ケレバスベテ略セリ。
加行 {き-や き-ゆ き-よ
{ぎ-や ぎ-ゆ ぎ-よ
左行 {し-や し-ゆ し-よ
{じ-や じ-ゆ じ-よ p.03
多行 {ち-や ち-ゆ ち-よ
{ぢ-や ぢ-ゆ ぢ-よ
奈行 に-や に-ゆ に-よ
波行 {ひ-や ひ-ゆ ひ-よ
{び-や び-ゆ び-よ
{ぴ-や ぴ-ゆ ぴ-よ
末行 み-や み-ゆ み-よ
良行 り-や り-ゆ り-よ
和行 {く-わ
{ぐ-わ(餘ハ畧ス)
○轉呼音 假名ヲ、其本分ノ音ニ呼バズシテ、他ノ音ニ轉呼スルコトアリ、コレヲ轉呼音[テンコオン]トス。
○はノ假名ヲ記シテ、わノ如ク轉ジテヨブコトアリ、又、ひ、ふ、へ、ほヲ記シテ、い、う、え、おノ如ク呼ブコトアリ、是ハ、發聲、默シテ、母韻ノミ、發スルナリ。 左ノ如シ。
いは[ワ](岩) いひ[イ](飯) くふ[ウ](食) うへ[エ](上) かほ[オ](顔)
くは[ワ](桑) かひ[イ](貝) すふ[ウ](吸) はへ[エ](蠅) しほ[オ](鹽)
あは[ワ]し(淡) あたひ[イ](價) ゆふ[ウ]べ(夕) かなへ[エ](鼎) ほのほ[オ](焔)
かは[ワ]る(變) たひ[イ]ら(平) あやふ[ウ]し(危) かへ[エ]る(歸) おほ[オ]し(多)
以上ノ轉呼音ハ、他ノ音ノ後ニアリテ發ス、開口ニ發スルコトナシ。
\\05
○阿ノ段ノ音、衣ノ段ノ音ハ、(清、濁、共ニ)下ニ、う、又ハ、ふ(轉呼音ノ)ヲ承クレバ、於ノ段ノ音ノ如ク轉呼スルコトアリ、是ハ、發聲ヲ存シテ、母韻ヲ變フルナリ。 此轉呼音、開口ニモ發シ、他ノ音ノ後ニテモ發ス。 左ノ如シ。
あ[オ]うむ(鸚鵡) あ[オ]ふみ(近江) …… え[ヨ]う(要) え[ヨ]ふ(葉)
か[コ]うべ(首) さか[コ]ふ(逆) きや[ヨ]う(京) け[キヨ]うし(教師) け[キヨ]ふ(今日)
さ[ソ]うし(草紙) さ[ソ]ふらふ(候) し-や[ヨ]う(性) せ[シヨ]うと(兄人) せ[シヨ]ふ(妾)
た[ト]うげ(峠) た[ト]ふとし(貴) ち-や[ヨ]う(町) て[チヨ]うづ(手水) て[チヨ]ふ(ト云)
な[ノ]う(腦) そな[ノ]ふ(備) …… ね[ニヨ]うはち(鐃鈸【鉢】) ……
は[ホ]うむる(葬) は[ホ]ふ(法) ひや[ヨ]う(評) へ[ヒヨ]う(瓢)
ま[モ]うす(申) ま[モ]ふ(舞) みや[ヨ]う(明) め[ミヨ]うが(蘘【茗】荷) ……
や[ヨ]うか(八日) …… …… …… ……
ら[ロ]う(牢) と[ロ]らふ(捕) り-や[ヨ]う(兩) れ[リヨ]うり(料理) うれ[リヨ]ふ(憂)
わ[ヲ]う(王) …… く-わ[ヲ]う(光) …… ゑ[ヨ]ふ(醉)
○其委シキコトハ文典ニ讓ル、尚、後ノ索引指南ノ條ヲ見ヨ。
連聲 又、む、及ビ、つ(音便[オンビン]ニテ促聲ト爲リ)ぬ、(音便ニテ鼻聲ト爲リ)ノ音ハ、其發聲ヲ、下ニ來レル他ノ母韻、又ハ、半母韻、ト合ハセテ、轉呼セシムルコトアリ、コレヲ連聲[/レンセイ]トイフ。
さむ-ゐ[ミ](三位) おむ-やう[ミヨ]-じ(陰陽師)
ほ-つ-い[チ](發意) けつ-い[チ]ん(厥陰) け-つ-え[テ]き(闕腋) ぜつ-お[ト]ん(舌音)
\\06
ぜん-あ[ナ]く(善惡) ぎん-あ[ナ]ん(銀杏) えん-い[ニ]ん(延引) うん-う[ヌ]ん(云云)
いん-え[ネ]ん(因縁) まん-え[ニヨ]ふ(萬葉) くわん-お[ノ]ん(觀音) さん-よ[ニヨ]う(算用)
げん-わ[ナ](元和) しん-わ[の]う(親王) りん-ゑ[ネ](輪廻) あんーを[ノ]ん(安穏)
又、き、く、ノ音ヲ、促聲ノ如ク轉呼スルコトアリ、亦、連聲ナリ。
せき[]-けう(石橋) せき[ツ]-かう(石膏) せき[ツ]-こく(石斛)
はく[ツ]-か(薄荷) かく[ツ]-け(脚氣) がく[ツ]-かう(學校) にく[ツ]-けい(肉桂)
○轉呼音ハ、元ト、一種ノ音便[オンビン]ナルベケレド、書ニ筆スル上ニテ、音便ハ、音ヲ變フレバ字ヲモ變フルニイヒ、轉呼音ハ、音ヲ變フレド字ヲ變ヘヌニイフ、是レ、相異ナル所ナリ。
○右ノ外ニ、通音、通韻、ノ事、音便ニ、聲音ノ延、約、略、加、轉、等ノ事アリ。 然レドモ、是等ハ、音ヲ變フレバ、字ヲモ變ヘテ記スモノニテ、各一個ノ語ト見做スベク、即チ、辭書ニハ、各自ニ掲ゲ出スモノナルニ、今、其理由ノミ説カムモ、不用ナルベシ、因テ、爰ニハ略セリ。
○漢字ノ字形、音韻等ノ事、一切不要ナレバ、畧セリ。
言語
此篇ニハ、八品詞ノ目ヲ、名詞、動詞、形容詞、助動詞、副詞、接續詞、天爾遠波[テニヲハ]、感動詞、ト立テタリ。 此他ニ、接頭語、(Prefix.)接尾語、(Suffix.)アリ、又、國語ニ、一種特別ナル發語、枕詞アリ、次ヲ逐ヒテ説クベシ。
國語ノ代名詞、數詞ハ、文中ニアリテ、其位置用法、正ニ名詞ト異ナラザレバ、名詞ニ附屬スベキモノナリ。 又、國語ノ形容詞ハ、語尾ノ變化モアリ、法(Mood.)モアリテ、文章ノ末ヲモ結ブコト、恰モ動詞ノ如ク、西洋ノ形容詞トハ、甚ダ異ナルモノナリト知ルベシ。 又、助動詞モ、語尾ノ變化ヲモ法ヲモ具ヘテ、而シテ、其状ノ動
\\07
詞ノ如キアリ、形容詞ノ如キアリ、サレバ、固ヨリ、舊説ノ如ク、天爾遠波ノ中ニ混ゼシムベキニアラズ、サレバトテ、コレヲ動詞ニ附屬セシメ難キコトモアリ、因テ獨立セシメタリ。 分詞ハ、動詞ノ法ノ中ニアリ。 洋語ノ前置詞トイフモノ、我ニアリテハ、多クハ名詞ノ後ニアリテ、位置正ニ相反セリ、即チ、名詞ノ後ニ付クベキ同趣ノ語ト共ニ、天爾遠波ノ中ニアリ。 國語ニ冠詞無シ。
洋語ニ、名詞ノ格(Case.)トイフモノ、我ガ、が、の、に、を等ニ當ルガ如クナレドモ、我ガ、が、の、に、を等ハ、同語ノ上ニモ、所用ノ塲合ニ因リテ、種種ノ意義ヲ起シ、彼ノ謂ハユル格ニ當ルモアリ、當ラヌモアリ、サレバ、が、の、に、を等ヲ取リテ、概シテ格ナリト定ムベキニアラズ、故ニ、天爾遠波トテ、別ニ一門ニ立ツナリ。
又、我ガ名詞、代名詞ニハ、洋語ニ謂ハユル男女中ノ性(Gender.)無シ。 又、單複ノ數(Number.)モ、種種ノ接頭語、接尾語、ナド添ヘ、或ハ、同語ヲ重ネナドシテ、其別ヲ示スコトナキニシモアラネド、各語ノ用法、區區ニシテ、サラニ一定ノ通則ナク、又、區別セズシテモ、前後ノ文勢ニテ、單複ヲ意解シ、且、區別シテモ、コレニ應ズル動詞、形容詞等ニ、其影響ヲ及ボスコトナシ、故ニ特ニ説クコトヲ要セズ。 動詞、形容詞ニモ、性モ、數モ、人稱(Person.)モ、無シ。
○一箇ノことば(Word.)ニ、名詞、動詞ナドイフ如ク、詞ノ字ヲ當ツルハ妥當ナラズ、從來、體言、用言、ナド呼ベル言ノ字、正ニ相當レリ、サレド、今ハ姑ク本文ノ如シ。
名詞(體言)
名詞[/メイシ]ハ、有形無形ノ事物ノ名稱ヲイフ語ナリ。 例ヘバ【初版ハ】、日、月、牛、馬、聲、色、黒、白、禍、福、憂、樂等ノ如シ。 其中ニ、人名、地名、其他、一事一物ニ限レル名稱ヲバ、固有名詞[/コイウメイシ]ト名ヅク、頼朝、義經、池月、磨墨、髭切、膝丸、武藏、相模、富士、利根等ノ如シ。 コレニ對シテ、固有ナラヌ其他ノ一切ノ名詞ヲ、普通名詞[/フツウメイシ]トイフ。
○普通、固有、ノ別、英語ノ如キハ、書記ノ上ニ、頭字ヲ用ヰルト、用ヰザルト、ナドノ定メアレド、國語ニテハ、サル事モナシ。 但シ、辭書ノ採集ニ區別シ、又、地名、姓氏等ニ、(松林、遠山ナド)普通ト紛レ易キモノナドモアレバ、注意シテハアルベキナリ。
○國語ノ名詞ニハ、洋語ノ如キ男、女、中ノ性モ無ク、單複數ノ別ニモ、一定ノ則無ク、又名詞ノ格トイフモノノ意義モ、別ニ天爾遠波アリテ、其語ニ存スレバ、本文
\\08
ノ外ニハ、別ニ説クベキ事モナシ。 但シ、熟語トナルトキ、希ニ、其語尾、或ハ、全體ヲ變ズル者アリ、たけ-むら(竹叢)ノたか-むらトナリ、ふね-ばた(舟端)ノふな-ばたトナリ、き-かげ(樹陰)ノこ-かげトナルガ如シ、然レドモ、斯ク變ズル語、甚ダ少キノミナラズ、其變ズベキ語モ、アラユル場合、皆變ズルニアラズ、慣用スル所ニ定マリアリテ、一般ノ通則ナラズ、而シテ、其變化シ、慣用スルホドノモノハ、皆一熟語トシテ辭書ニ擧ゲタリ、サレバ、今ハ、別ニ説カズ。
○代名詞 代名詞[/ダイメイシ]ハ、名詞ノ一種ニテ、事物ノ名ニ代ヘテ、其レヲ指シテイフ語ナリ。 例ヘバ、人、事、物、地位、方向、等ノ、各其名アルニ代ヘテ、「我」汝」是レ」夫レ」此處[ココ]」彼方[カナタ]」ナドイフガ如シ。
○人ニ就キテ用ヰル代名詞ヲ、人代名詞[/ジンダイメイシ]トイフ。 而シテ、其稱スル人ノ位置ニ因リテ、別ヲ起ス、コレヲ人稱[/ニンシヨウ]トイフ。 其人稱ノ第一ナルヲ自稱[/ジシヨウ]トス、話ス人、自ラ、己ガ名ニ代ヘテ用ヰルモノナリ、即チ、「我[ワレ]、行カム」ノ我ノ如シ。 第二ナルヲ對稱[/タイシヨウ]トス、我ト相對シ我ガ話シ掛クル人ノ名ニ代ヘテイフモノナリ、即チ、「我、汝[ナムヂ]ト倶ニ行カム」ノ汝ノ如シ。 第三ナルヲ他稱[/タシヨウ]トス、二人ノ間ニ話シ出ス他ノ人ノ名ニ代ヘテイフモノナリ、即チ、「我、汝ト倶ニ彼[カレ]ヲ訪ハム」ノ彼ノ如シ。 又、別ニ、不定稱[/フヂヤウシヨウ]アリ、他稱ノ中ニテ、其レト定メヌ人、又ハ、其名ヲ知ラヌ人ノ名ニ代ヘテイフモノナリ、即チ、「誰[タレ]ヲカ訪ハム」、誰ニカアラム」、ノ誰ノ如シ。
人代名詞ノ尋常ナルモノハ、右ノ如シ。 此外ニモ、古今、雅俗、尊卑ニ用ヰ分クルモノ、尚甚ダ多シ。 左ニ、其中ノ若干ヲ擧グ。
(自稱)吾[ア]、(吾ガ妻)吾[ワ]、(吾ガ君)吾[アレ]、(妹とあれといるさの山)麿、朕、妾[ワラハ]、僕[ヤツガレ]、己レ、某[ソレガシ]、余、身、ナド。
\\09
(對稱)汝[ナ]、(汝が待つ君)汝[ナレ]、(なれをしぞあはれと思ふ)汝[イマシ]、汝[ミマシ]、吾主[ワヌシ]、御身、御事[オコト]、吾殿[ワドノ]、御邊[ゴヘン]、君、其許[ソコ]、ナド。
(他稱)彼[カ]、(彼[カ]ハ誰[タレ])そやつ、かやつ、あやつナド。
(不定稱)誰[タ]、(誰ガ、誰ソ、)某[ソレガシ]、何某[ナニガシ]ナド。
右ノ外、漢文、書状文、口語ノ上ナドニハ、尚多シ、委シクハ文典ニ讓レリ。
○事、物、地位、方向、等ニ就キテ用ヰル代名詞ニハ、近稱[キンシヨウ]、中稱[チユウシヨウ]、遠稱[ヱンシヨウ]、不定稱[フヂヤウシヨウ]ノ別アリ。 近稱ハ、最モ近キニイフ、是[コレ]、此處[ココ]、此方[コナタ]、ノ如シ。 中稱ハ、稍、離レタルニイフ、其[ソレ]、其處[ソコ]、此方[ソナタ]、ノ如シ。 遠稱ハ、遠キニイフ、彼[アレ]、彼處[アソコ]、彼方[アナタ]、ノ如シ。 不定稱ハ、其レト定メヌ、又ハ、知ラヌニイフ、何[イヅレ]、何處[イヅコ]、ノ如シ。
○凡ソ、代名詞ハ、名詞ノ地位ニ代リテ立ツモノナルニ、こ、そ、あ、か等ヲ天爾遠波ノのト連ネテ用ヰルトキニハ、別ニ一種ノ意義ヲ起シ、其名詞ニハ代ハラズシテ、其名詞ノ上ニ立チテ、唯、其名詞ヲ指シ示スコトアリ、コレヲ指示代名詞[/シジダイメイシ](Demonstrative.)トイフ。 例ヘバ、常ノ代名詞ナレバ、「人ハ」花ヲ」ナドノ「人」物」ニ代ハリテ、「是ハ」其ヲ」トナルニ、指示代名詞ハ、其「人」物」ヲ存シテ、更ニ、其上ニ立チ、「此ノ人ハ」其ノ花ヲ」ト、其
\\10
「人」物」ヲ指シ示ス意ヲナス、而シテ、是レニモ、近稱、中稱、遠稱、不定稱、ノ別アリ。
○數詞 數詞[/スウシ]ハ、名詞ノ一種ニテ、事物ノ數ヲイフ語ナリ、其用法、文中ニアリテ、正ニ名詞ニ同ジ。
ひとつ ふたつ みつ よつ いつつ むつ ななつ やつ ここのつ
とを はたち みそぢ よそぢ いそぢ むそぢ ななそぢ やそぢ ここのそぢ
又、語末ノつ、ち、を、等ヲ去リテ、接頭語(末ニ説ケリ)ノ如ク用ヰルコトアリ。
一夜[ヒトヨ] 二路[[フタミチ] 三筋[ミスヂ] 四時[ヨトキ] 五枚[イツヒラ] 六言[ムコト] 七種[ナナクサ] 八廻[ヤメグリ] 九返[ココノカヘリ]
十度[トタビ] 二十年[ハタトセ] 三十文字[ミソモジ] 四十年[ヨソヂ] 五十返[イソカヘリ] 八十氏人[ヤソウヂビト]
此他ニ、五[イ]、十[ソ]、五十[イ]、百[モモ]、百[ホ]、千[チ]、萬[ヨロヅ]、ナドアリ、重用シテハ、五十[イソ]、五百[イホ]、八百[ヤホ]、八千[ヤチ]、百千[モモチ]、五百萬[イホヨロヅ]、八百萬[ヤホヨロヅ]、千千[チチ]、千萬[チヨロヅ]、ナドアリ、然レドモ、是等モ、多クハ、熟語ニ用ヰル。
幾十[イクソ] 百年[モモトセ] 千種[チクサ] 萬世[ヨロヅヨ] 五百枝[イホエ] 八百重[ヤホヘ] 八千度[ヤチタビ] 百千度[モモチタビ]
又、漢語ナルハ一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、百、千、萬、億、兆、等アリ。
○數詞ノ原形ハ、元來、ひと、ふた、み、よ、ナドニテ、接頭語ノ如キモノナルベク、コレニ、箇[ツ]、或ハ、箇[チ]、ノ接尾語ノ加ハリテ、名詞ノ如クナリタルナラム、然レドモ、其原形ハ、一般ニ用ヰガタキ事モアリ、因テ、姑ク本文ノ如クニシテ、名詞ニ屬セシメタリ、他ノ百[モモ]、千[チ]、等、亦然リ。
○洋語ニ、順序數詞(Ordinal.)トイフモノ、我ガ數詞ニハ無シ。(第一、二號、三番、四ツ目、ナド、他語ヲ添ヘテ形作ルモノヲ以テ、之ニ當ツルモノアルハ、誤レリ、)
第一表 動詞の語尾變化……法<52KB>|
(第一表 動詞の語尾變化……法<大きいファイル/627KB>)
\\11
動詞(用言、作用言、活語)
動詞[/ドウシ]ハ、名詞ノ後ニ附キテ、其動作ヲイフ語ナリ。 例ヘバ、「花、飛ぶ、」蝶、驚く、」春、去る、」夏、來る、」ノ「飛ぶ、」驚く、」去る、」來る、」ハ、「花、」蝶、」春、」夏、」ノ動作ヲイフガ如シ。 又、希ニ、現象ヲイフモノアリ。 例ヘバ、「此ニ人あり、」志、其父ニ似る、」ノ「あり」ト、「似る」トハ、「人」ト、「志」ト、ノ現象ヲイフガ如シ。
○動詞ノ性 アラユル動詞ヲ、其性質ニテ別チテ、自動性[/ジドウセイ]ト、他動性[/タドウセイ]ト、ノ二種トス。
自動性 自ラ動作シテ、他ノ事物ヲ處分スルコトナキ意ノモノヲ、自動性トス。 例ヘバ、「花、飛ぶ、」蝶、驚く、」ノ「飛ぶ、」驚く、」ノ如シ、其動作、ソノママニテ通ズ。 自動性ノ動詞ヲ略シテハ、自動詞[/ジドウシ]トモイフ。
他動性 動作ノ、他ノ事物ヲ處分スル意アルモノヲ、他動性トス。 例ヘバ、「蠶ハ、絲ヲ吐く、」蜂ハ、蜜ヲ釀す、」ノ「吐く、」釀す、」ノ如シ。 コレヲ、唯、「蠶ハ、吐く、」蜂ハ、釀す、」トノミイヒテハ、其意、未ダ全ク通ゼズ、必ズ、「何を、」ト問ハルベシ、然ルトキハ、其處分スベキモノヲ擧ゲテ、「絲を、」或ハ、「蜜を、」ト答ヘズハアルベカラズ、而シテ後ニ、其意ヲ全ウス。 他動性ノ動詞ヲ、他動詞[/タドウシ]トモイフ。
○國語ノ動詞ニハ、自動ノ上ニモ、完了語(Complement.)ヲ要スルアリ、(父に似る、馬に乗る、ノ類)他動ノ上ニモ、完了語、一ツニテ足ルアリ、(絲を吐く、蜜を釀す、ノ類)二ツヲ要スルアリテ、(志を父に似す、物を馬に載す、ノ類)自、他ニ、各、單、複ノ別アリ。 然レドモ、是等ノ解、辭書ニ用ナケレバ、略セリ、詳ナルハ、文典ニ讓ル。
○語根、語尾、變化 動詞ハ、其動作ノ意ヲ、數樣ニ現ハサムトシ、又ハ、他ノ語ニ漣續セムトスルガ爲ニ、其語ノ末ヲ變フ。 例ヘバ、
ゆ-く(行) ゆ-け ゆ-か ゆ-き まか-す(任) まか-する まか-すれ まか-せ
\\12
此ノゆ、又ハ、まか、ノ如ク、變ハラザル部ヲ、語根[/ゴコン](Root.)トイヒ、く、け、か、き、又ハ、す、する、すれ、せ、ノ如ク、變ハル部ヲ、語尾[/ゴビ]トイヒ、而シテ、其變ハルコトヲ、變化[/ヘンクワ]トイフ。 又、一音ノ動詞ハ、其全體ヲ變フ。 例ヘバ、
う(得) え ふ(歴) へ く(來) こ き す(爲) せ し
○規則動詞、不規則動詞 アラユル動詞ノ變化ノ状、亦、種種ナリ。 其状ノ異同ヲ類別スレバ、八類トナル。 其中ノ四類ニハ、所屬ノ動詞多クシテ、他ノ四類ニハ、甚ダ少シ。 其多キ方ニ屬スルヲ、規則動詞[/キソクドウシ]ト名ヅケ、少キ方ニ屬スルヲ、不規則動詞[/フキソクドウシ]ト名ヅク。 其別、左ノ如シ。
規則動詞
第一類 六種 第二類 十種 第三類 六種 第四類 六種
第四類ノ中ニ變體ノモノアリ後ニ言フベシ。
不規則動詞
第一類 一種 第二類 一種 第三類 一種 第四類 一種
○規則第一類 此類ノ變化ニ屬スルモノハ、表ニ示セルガ如ク、六種ニ限ル。 此各種ノ動詞ハ、其語尾ノ變化ヲノミ唱フレバ、「く、く、け、か、き、け、」す、す、せ、さ、し、せ、」つ、つ、て、た、ち、て、」ナドナリテ、其變化ノ語路、口調、相似タレバ、同類トス。 以下、第二、三、四類ノ各種モ、スベテ、此規定ニテ、其語尾ノ變化ノ口調ノ相似タルニ因テ、類聚シタルモノナリ。 而シテ、表ニ擧ゲタル動詞ハ、其各種中ノモノヲ、一語ヅツ擧ゲタルナリ。 又、アラユル動詞ノ中ニテ、此第一類變化ニ屬スルモノ、最モ多シ、因テ、之ヲ第一トス。
規則第二類 此類ノ變化ニ、十種アリテ、其状ハ、「う、うる、うれ、え、え、えよ、」く、くる、くれ、け、け、けよ、」す、する、すれ、せ、せ、
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せよ、」ナドト、其口調ヲ同ジウス。 此變化ニ入ル動詞ハ、第一類ニ次ギテ多シ、因テ、コレヲ第二トス。
規則第三類 此類ノ變化ハ、六種ニ限ル。 其變化ノ状、上半ニテハ、「く、くる、くれ、」つ、つる、つれ、」ナドトナリテ、第二類ト相同ジケレド、下半ハ、いノ韻ニテ、「き、き、きよ、」ち、ち、ちよ、」ナドトナリテ、第二類ノえノ韻(け、け、けよ、」て、て、てよ、)トナルト異ナリ。 此類ノ變化ノ動詞、甚ダ多カラズ、故ニ、コレヲ第三トス。
規則第四類 此變化モ、六種ニ限ル。 此變化ハ、下半ニテハ、「き、き、きよ、」ひ、ひ、ひよ、」ノ如ク、第三類ニ似タレド、上半ニテハ、「きる、きる、きれ、」ひる、ひる、ひれ、」ナドナリテ、相異ナリ。 此類ノ變化ノ動詞ノ數、僅ニ十數語ニ出デズ、因テ、第四トス。
○第四類變化ハ、元來、語數モ極メテ少キノミナラズ、他ノ助動詞(らむ、らし、べしナド)ニ連續スルニモ、他類ト變則ナルコトアリ、或ハ、不規則動詞ニ入ルベキモノナラムカ、尚、委シクハ、文典ニ讓ル。
然レドモ、口語ニアリテハ、規則動詞第三類ノいく、(生)おつ、(落)しふ、(強)等ヲ、いきる、おちる、しひる、ナドトスルガ、定マリナリ。(關東、近畿ヲ初トシテ、全國六七分ハ然リ、次ノ變體モ同ジ、) サテ、此口調ニ從ヒテ、別ニ出來レリト覺シキあきる、(厭)かうじる、(増長)たいぢる、(退治)たりる、(足)ナドモアリ、是等ノ變化ハ、正ニ此第四類ノ變化ト同ジクシテ、其語モ、頗ル多シ。
變體 又、規則動詞第二類ノう、(得)うく、(受)まかす、(任)等ヲモ、口語ニテハ、える、うける、まかせる、トセリ。 此口調ニ從ヒテ、別ニ出來レルける、(蹶)いせる、(摺縫)はぜる、(裂)はねる、(放塲)もめる、(所揉)ナドモアリテ、其語、亦多シ。 此類ノ語尾ノ變化ハ、「ける、ける、けれ、け、け、けよ、」せる、せる、せれ、せ、せ、せよ、」ねる、ねる、ねれ、ね、ね、ねよ、」ナドトナリテ、其韻ニいトえノ差ハアレド、其變化ノ状ハ、不規則動詞ノ第四類ニ似タリ、因テ、其類ノ變體トス。
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○不規則第一類 此變化ハ、唯、一種ニテ、且、く(來)トイフ動詞一語ニ限ル。 其變化ハ、く、くる、くれ、こ、き、こよ、トナリテ、其状、頗ル、規則動詞第三類ナル(一)ノいく(生)ニ似タレドモ、下半ノ、き、き、きよ、トハナラデ、こ、き、こよ、トナルガ、不規則ナルナリ。
不規則第二類 此類ノ變化モ、唯、一種ニテ、其語モ、す、(爲)おはす、(御座)ノ二語ニ限ル。 此類ノ變化ハ、す、する、すれ、せ、し、せよ、トナリテ、規則動詞第二類ノ(三)ノまかす(任)ニ似タレドモ、下半ハ、「せ、し、せよ、」ニテ、「せ、せ、せよ、」ナラヌガ變ナリ。
不規則第三類 此變化モ、唯一種ニテ、亦、いぬ、(往)しぬ、(死)ノ二語ノミナリ。(但シ、助動詞ノぬ、コレニ同ジ、) 此變化ノ状ハ、上半、ぬ、ぬる、ぬれハ、規則動詞第二類ナル(五)ノかぬ(兼)ニ似タレドモ、下半ノな、に、ねハ、第一類變化ノ口調ニ似タリ。 又アラユル動詞中ニテ、六變化ヲ、殊體ニテ具備スルハ、此類ノ變化ニ限ル。
不規則第四類 此變化モ、亦一種ニテ、其語ハ、あり、(有)をり、(居)はべり、(侍)いまぞかり、(在)ノ四ニ限ル。(但シ、助動詞ノなり、たり、せり、けり、めり、ノ類、コレニ同ジ、) 此ノ類ノ語尾ノ變化ハ、甚ダ、規則第一類ノ(六)ノさる、(去)ニ似タレドモ、彼ハ、「る[○]、る、れ、ら、り、れ、」トナルニ、此ハ、「り[○]、る、れ、ら、り、れ、」ナルガ、異ナリ。 且、凡ソ、日本ノ動詞ハ、基本體、うノ韻ニ終ハルヲ通則トスルニ、此一類ノミハ、いノ韻ニ終ハルヲ、殊ニ異ナリトス。
以上、不規則四類ノ動詞ハ、合セテ九語ナリ。 アラユル動詞中ニテ、此不規則類ニ入ルベキハ、僅ニ此ノ九語ニ限ルト知ルベシ。 凡ソ、不規則動詞ハ、四類、共ニ、其變化ノ状、規則動詞ト異ナルコト、上ニ言ヘルガ如クナルノミナラズ、他ノ助動詞ト連續スル通則ニ至リテモ、皆、多少、規則動詞ト異ナル所アリ、尚、後ノ助動詞ノ條ニ説クヲ見ヨ。 又、不規則動詞ノ四類ノ順序ハ、五十音ノ順ニ依ル。
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○動詞ノ法 動詞ノ變化ニ因リテ、語氣ニ種種ノ態度ヲ生ズ、コレヲ法[/ハフ]トイフ。 其法、七種アリ、即チ、
(一)直説法[/チヨクセツパフ] (二)分詞法[/ブンシハフ] (三)接續法[/セツゾクハフ] (四)折説法[/セツセツハフ]
(五)熟語法[/ジユクゴハフ] (六)名詞法[/メイシハフ] (七)命令法[/メイレイハフ]
(第一表ト參照スベシ)
○此法ノ事ニ就キテハ、國語ト、洋語トノ間ニ、其趣ヲ異ニスルコトアリ、委シクハ、末ニ辨ズベシ。 又、法トイフモノハ、語氣ノ態度ナレバ、法ト稱セムヨリハ、態ノ字ヲ當テテ、直接態、命令態、ナドトセバ、妥當ナラム、然レドモ、今ハ姑ク改メズ。 又、從來、截斷言、連體言ナドト、言ノ字ヲ當テタルモ、妥當ナラズ、此事モ、後ニ言フベシ。
今、左ニ、規則動詞ノ四類中ヨリ、各一語ヲ出シテ、七種ノ法ヲ説明カスベシ、他ハ之ニ準ヘテ知ルベシ。
(一)直説法 動作ヲ、ソノママニ説キテ、文章ノ末ヲ結ブ法ニテ、コレヲ動詞ノ本體トス。 例ヘバ、
書ヲ讀む。 事ヲ勤む。 花、落つ。 月ヲみる。
尋常ハ、此ノ第一變化ノ直説法ヲ以テ、文章ノ末ヲ結ブ。 然ルニ、文中ニ、天爾遠波ノぞ、や、か、ノ入ルトキハ、第二變化ヲ直説法トシテ結ブ。 例ヘバ、
書ヲぞ讀む。 事ヲぞ勤むる。 花ぞ落つる。 月ヲぞみる。
書ヲや讀む。 事ヲや勤むる。 花や落つる。 月ヲやみる。
何ヲか讀む。 何ヲか勤むる。 孰レか落つる。 何ヲかみる。
又、天爾遠波ノこそノ入ルトキハ、第三變化ヲ直説法トシテ結ブ。 例ヘバ、
書ヲこそ讀め。 事ヲこそ勤むれ。 花こそ落つれ。 月ヲこそみれ。
右ノ如ク、ぞ、や、か、ヲ結ブニ、第二變化ヲ用ヰ、こそヲ結ブニ、第三變化ヲ用ヰルコト、諸ノ動詞、又ハ、形容詞、助動詞、スベテ然リ。
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○右ノ三種ノ結法[ムスビ]ノ事ハ、文章論ニテ説クコトトシタレバ、動詞ノ條ニテハ、委シクハ言ハズ、尚、文典ニ詳ニス。
(二)分詞法 他ノ名詞ノ上ニ連ル法ニテ、即チ、動詞ノ分レテ、形容詞ノ形容法(後ニイフ)ノ如クナルモノナリ。 例ヘバ、
己ガ讀む書。 我ガ勤むる事。 花、落つる時。 月ヲみる人。
或ハ、獨立ニモ用ヰテ、
讀む書。 勤むる人。 落つる花。 みる物。
此法ハ、其下ニアルベキ名詞ヲ含ミテ、(Understood.)直ニ名詞ノ如ク用ヰルコトアリ。 例ヘバ、
讀む(事)ト書く(事)トヲ學ブ。 人ノ勤むる(状)ニ傚フ。
花ノ開く(頃)ヨリ落つる(頃)マデ。 みる(事)ヲ好マズ。
(三)接續法 此法ハ、豫想ノ語句ヲ設ケテ、他ノ主トスル語句ニ、接續附加セシムル時ニ起ルモノニテ、ばヲ加フ。 而シテ、其中ニ、「已ニ然ル」ニイフト、「將ニ然ラムトスル」ニイフト、ノ別アリテ、コレヲ已然[/イゼン]、將然[/シヤウゼン]トイフ。(第一表ト參照スベシ)
已然 將然
多ク書ヲ讀めば、能ク、智識ヲ増ス。 多ク書ヲ讀まば、能ク、智識ヲ増サム。
事ヲ勤むれば、功、成ル。 事ヲ勤めば、功、成ラム。
花、落つれば、實、生ズ。 花、落ちば、實、生ゼム。
月ヲみれば、物ヲ思フ。 月ヲみば、物ヲ思ハム。
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此ノ已然ナルハ、意義、一轉シテ、「讀ムニ、」勤ムニ、」落ツルニ、」見ルニ、」ナドノ意ヲナスコトアリ、「善クみれば、誤ナリキ、」ナドノ如シ。 又、「讀ムニ因テ、」勤ムルニ因テ、」落ツルニ因テ、」見ルニ因テ、」ノ意ヲナスコトアリ、「智ヲ増スハ、書ヲ讀めばナリ、」ノ如シ。
(四)折説法 此法ハ、文章ノ間ニアリテ、其意ヲ暫シ言止[イヒサ]シ置キテ、其後ニ來ル他ノ動詞ノ法ニ照應シテ、其意ヲ共ニスルモノナリ。 例ヘバ、
書ヲ讀み、道ヲ學ブ。 事ヲ勤め、功ヲ成ス。 花、落ち、鳥、啼ク。 月ヲみ、且、古ヘヲ懷フ。
コレヲ、句毎ニ分タバ、「書ヲ讀む、又、道ヲ學ブ、」事ヲ勤む、又、功ヲ成ス、」ナドト直説スベキヲ、姑ク、「讀み、」勤め、」ト言止[イヒサ]シテ、下ノ「學ブ、」又ハ、「成ス、」ニ照應シテ、直説ノ意ヲ終フルモノナリ。
此法、又、數語、連用スルコトアリ、又、數語ヲ隔テテ照應スルコトアリ。 例ヘバ、
書ヲ讀み、(讀む、又、)事ヲ勤め、(勤む、又、)理ヲ究め、(究む、而シテ、)説ヲ立テ、(立つ、而シテ、)詳ニ、コレヲ文章ニ著し、(著す、)又、コレヲ印行し、(印行す、且、)弘ク、コレヲ世ニ示す。
其他、尚、種種ニシテ、凡テ、其下ニ來ル語ト意ヲ共ニス。 事ヲ勤め、(たる)功ヲ成し、(たる)能ク其名ヲ揚げたる人。 夙ニ起き、(て、)夜[ヨハ]ニ寐ねて、財ニ富み、(たれば、)且、學ニ長[タ]けたれば、
○此法、舊説ニテハ、連用言トシテ、次ニ説ク熟語法ト混ジタリ。 サレド、「勤め行フ、」落ち入ル、」ナド用ヰル「勤め」落ち」ト、「我ハ勤メ、彼ハ怠ル、」花、落チ、鳥、啼ク、」ナド用ヰル「勤め」落ち」トハ、其用法、太ダ異ナリ、一ハ、全ク熟シテ一語ノ如クナレド、一ハ、各自ニ動作シテ、「或ハ勤メ、或ハ怠ル、」此ハ落チ、彼ハ啼ク、」ノ意トナレバナリ。 又云、折説ノ字面ハ、直説法ニ對シテ付シタルモノナレド、未ダ此法ノ意ヲ盡サザルガ如シ、適當ナル語ヲ得バ改ムベシ。
(五)熟語法 他語ト組立テテ、一熟語トスル時ノ法ナリ。 例ヘバ、「落ツ」ト「入ル」トヲ組立ツルトキ、「落つ入
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ル」トハナラデ「落ち入ル」トナルガ如シ。
他ノ動詞ト組立ツルモノハ、
讀み果ツ。 勤め爲ス。 落ち入ル。 み渡ス。
又、數語ヲ連ヌルアリ。
讀み聞[キカ]せ奉ル。 飛び立ち去ル。 打ち連れ立ち給フ。
他ノ名詞ト合フモノハ、
讀み人。 勤め事。 落ち葉。 み物。
又、形容詞ト合フコトモアリ。
讀み憂シ。 勤め難シ。 落ち易シ。 み苦シ。
○此法ヲ、從來、連用言トイヘリ、他ノ用言(動詞)ニ連ル故ノ稱ナリ。 然レドモ、「讀み人」落ち葉」ノ如ク、名詞ト連リテ熟語トナルモノモ、全ク是レナレバ、(此ノ讀み、落ち、等ヲ、名詞ナリトイフハ、肯ハレズ、)必ズ、用言ニ連ルトノミモ言ヒ難シ、因テ今ハ別名ヲ下セリ。
但シ、不規則動詞ノ第三類ナルすト、第四類ナルありトハ、他語ヲ冠シテ熟語トナルコトナシ、「釣リす」、狩リす」、喜ビあり」、隔テあり」、ナドト連リテモ、其上ナルハ、名詞法ニテ、「釣リヲす」、狩リヲす」、喜ビノある」、隔テノある」、ノ意トナル。
○「隔テあり、」分チあり、」任カセあり、」ナドト、熟語法ニ用ヰルハ、誤ナリ、尚、其辨ノ詳ナルコトハ、文典ニ讓ル。
(六)名詞法 動詞ノ名詞トナル法ナリ。 例ヘバ、
讀みヲ覺ユ。 勤めヲ怠ル。 落ちヲ拾フ。 花みニ行ク。
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(七)命令法 此法ハ、他ニ動作ヲ命ズルモノナリ。 例ヘバ、
書ヲ讀め。 事ヲ勤めよ。 落ちよ。 みよ。
○此法ハ、變化ノ類ニ因リテ、よヲ添フルアリ、添ヘヌアリ、(讀め、ヲ「讀めよ、」讀めや、」ナドト用ヰルコトアルハ、感動詞ノよ、や、ヲ添ヘタルナリ、又、「讀みね、」ナド添フルハ、助動詞ノぬノ命令法ナリ、)又、今ハ、添フレドモ、古ヘハ添ヘザリシモアリ、(勤め、モロモロ、」馬、暫[シマ]シ止[ト]メ、」早ク手ニ居[ス]ゑ、」見ニ來[/コ]、」吉ク爲[/セ]、」ナド)委シクハ、文典ニ讓ル。
○
○洋語ノ動詞ニMood.(姑ク、英語ニテ記ス、下同ジ)トイフモノ、即チ、此篇ニイフ動詞ノ法ナリ。 然レドモ、彼我ノ語性ニ就キテ、頗ル其趣ヲ異ニスルコトアリ。 又、洋語ノ動詞ニハ、Voice.(口氣ト譯ス)Tense.(時ト譯ス)トイフモノアルガ、我ガ動詞ニテハ、是等ノ意義ハ、他ノ助動詞ト連帶關係シテ始メテ起ルガ故ニ、今ハ、助動詞ノ條ニテ説クコトトセリ。 左ニ、是等ノ異同ヲ辨ゼム。
Mood.トイフ語ヲ、辭書ニ據リテ其意義ヲ求ムルニ、「動詞ノ變化ニ因リテ生ズル語氣ノ態度ナリ、」トアリテ、一動詞ノ其語體ヲ變ジテ成ルモノナリ。
羅甸ノ動詞ニハ、直説法、可成法、(Potential.)接續法、命令法、不定法、名詞法、分詞法、等アリテ、其法ハスベテ、一動詞ノ語體ニ具備スルモノニテ、其語體ヲ變ジナドシテ、能ク衆法ヲ現ハシ、他ノ助動詞ナド添ヘテ成ルニアラズ。 而シテ、右ノ諸法ノ中ニテ、直説法、接續法、命令法、名詞法、分詞法、等ハ、我ガ動詞ニイフト、粗同ジク、共ニ、語體ヲ變ジテ成ル。 然ルニ、其不定法トイフモノハ、動詞ノ單行スル時ノ法ナルガ、我ガ動詞ニハ無シ、又、可成法トイフモノモ、事ヲ爲シ得ル意ヲイフ法ナルガ、亦、我ガ動詞ニハ無シ、但シ、助動詞ノる、らる(讀マる、勤メらるノ如シ)ヲ添フレバ、其意ニ充ツルコトヲ得ベシ。
西洋諸國ノ文法ハ、大率、羅甸ノ文法ニ傚ヒテ作リシモノナリト云フ。 英國ノ動詞ニモ、羅甸ノ如ク、直説法、可成法、接續法、命令法、不定法、及ビ、分詞法、名詞法、(此二法ハ、法トハセズシテ、單ニ分詞ト立ツルモノ、往往アリ、)等ヲ立ツ。 然ルニ、其可成法ハ、動詞ノ體ノ變化ニハアラデ、動詞ノ前[○]ニ、別ニ助動詞ヲ加ヘ、又、接續法モ、多クハ、動詞ノ前[○]ニ、別ニ接續詞ヲ加ヘテ、其意義ヲ成サシメ、其、可成、接續、ノ意義ハ、動詞ノ語體ニハ存セズシテ、添ヘタル助動詞、接續詞、ノ方ニ存スルモノノ如シ。(我ガ接續法ノ末ノばモ、他語ヲ加フルニ似タレドモ、尚、前[○]ニハアラデ、後[○]ニアリテ語尾ヲ補フモノニテ、且、變化スルコトモ無シ、猶、命令法ノ末ノよノ如シ、) サレバ、英ノ動詞ニイヘル可成法、接續法ハ、其語體ニ具ヘヌヲ、他語ヲ加ヘテ、羅甸ノ法ニ擬シテ作爲セルナリ、是等ハ、英ノ語學者ガ、無用ノ模擬トイフベク、既ニ、其國ノ學士中ニモ、コレヲ法ナラズト論ズルアリ。 然ルニ、今日、洋文法ヲ以テ、國文法ヲ論ズルモノ、「讀マる」勤メらる」等ヲ、可成法ヲ立ツルアリ。 亦、右ノ謬見ヲ遺傳セルナリ。 或云、英ノ助動詞ハ、動詞ト密着スルモノニテ、其前ニ居リ後ニ居ルヲ問ハズ、合シテ一語ト見ルベキナリト。 今、姑ク、英ノ動詞ハ、或ハ然ラムトストモ、我ガ助動詞ハ、大ニ異ナルモノニテ、變化アリ法アルコト、粗、動詞ニ同ジク、例ヘバ、「勤メらる」トイヘバ、直説法トナリ、「勤メらるる」トイヘバ、分詞法トナリ、「勤メらるれば」トイヘバ、接續法トナル。 サレバ、此ノらるヲ、助動詞ナラズトシテ、「勤メラル」ト密着セル「勤ム」ノ可成法ナリトセバ、其變化ノらるる、らるればヲバ如何ニカセム、法ニ法アリトイフコトヤアルベキ。 扨、又、我ガ動詞ニハ、熟語法トイフモノアリテ、彼ニハ絶エテ無キガ如シ。 凡ソ是等ノ事ハ、東西ノ語性ニ天
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然ノ差異アリテ存スルモノタルコトヲ覺ルベシ。
Voice.ハ口氣ト譯スベクシテ、辭書ニ據レバ、「動詞ノ一種ノ變體ニシテ、以テ文主[/サブゼクト]ト動詞ノ動作トノ關係ヲ指別セシムル別體ナリ、」トアリ、此口氣、二樣二分レテ能相[/ハタラキカケ](Active.)所相[/ウケミ](Passive.)トイヒ、羅甸語ニテハ、一動詞ノ語體ニ、此ノ二樣ノ變ヲ具セリ。 然ルニ、我ガ動詞ニテ、此ノ能、所、ヲ言ハバ、例ヘバ、「打ツ」傳フ」ノ能相タルハ論ナケレドモ、其所相ヲ寫シ出サムトスレバ、別ニ、助動詞ノる、らる(亦、變化アリ、法アリ、)ヲ添ヘテ、「打タる」傳ヘらる」ナドセズハアルベカラズ。 而シテ、其能相ノ意義ハ所相ニ對シテ生ズルモノナレバ、今ハ、助動詞ノる、らる、ノ條ニ至リテ説クコトトセリ。(英ノ動詞ニモ、所相ハ、前ニ助動詞ヲ添ヘテ言フガ多シ、)
Tense.ハ、時ト譯シテ、亦、動詞ノ動作ノ現在ナルト、過去ナルト、未來ナルト、ヲ示スニ就キテ起ル一種ノ轉化ニテ、是モ、羅甸ノ動詞ニテハ、其語體ニ、此ノ轉化ヲ具セリ。 我ガ動詞ニテモ、「打ツ」傳フ」ノ現在ナルハ論ヲ待タザレド、過去ヲ寫シ出サムトスレバ、助動詞ヲ加ヘテ、「打チたり」傳へき」ノ如クシ、未來モ、助動詞ヲ加ヘテ、「打タむ」傳ヘむ」ナドトスルナリ。(此たり、き、む等、亦、皆、變化アリ、法アリ、) 因テ、是、亦、助動詞ノ條ニ説クコトトセリ。(英語ノ如キハ、過去ノ轉化ヲ、動詞ノ體ニ具スルアリ、或ハ、前ニ助動詞ヲ添ヘテ示スモアリ、而シテ、未來ハ、率ネ、前ニ助動詞ヲ加フルガ如シ、)
畢竟ズルニ、單ニ、「打ツ」傳フ」トイフ語ヲ指セバ、一ノ動詞ト呼ブベキノミ。 扨、單ニ、「打ツ」傳フ」トイフ語ナルガ、所相ノ「打タる」傳ヘらる」ニ對スレバ、能相ノ名目ヲ生ジ、過去、未來ノ「打チたり」傳ヘむ」等ニ對スレバ、現在ノ名目ヲ生ズルナリ。 而シテ、其所相トイヒ、過去、未來、トイフ意義ハ、スベテ助動詞ノ方ニ存スルコトナレバ、是等ノ事ハ、動詞ノ語體ノ轉化ニ生ズルモノトハ見ズシテ、他ノ助動詞ノ條ニ説カムトスルナリ。
○
○從來、用言ノ活用ニ、四段、一段、中二段、下二段等ノ名稱アリ。(第一表ノ欄上ニ記セルモノ、) 其四段活用トイフハ、例ヘバ、ゆく(行)トイフ用言ハ、其語尾、か、き、く、けト活用シテ、五十音圖ニ照セバ、其圖ノ上ヨリ四段ノ諸音ニ當ルガ故ニ命名セルニテ、是レハ其理アリトセム。 然ルニ、き(着)ノ、きる、きれ、ト活用スルヲ、一段活用ト名ヅケ、いく(生)ノ語尾ノ、き、くる、くれ、ト活用スルヲ、中二段ト名ヅケ、うく(受)ノ語尾ノ、くる、くれ、けト活用スルヲ、下二段ト名ヅクルナドハ、妥當ナラザルガ如シ。 ソハ、「き、」又ハ、「き、く、」又ハ、「く、け、」ノ音コソ、五十音圖ノ一段、又ハ、中ノ二段、又ハ、下ノ二段ナレ、其他ニ、「きる、きれ」くる、くれ、」ナドトアル「る、れ、」ヲバ、如何ゾ措キテ言ハザル。 ソモ、此ノ「る、れ、」ハ、付屬物ノ如ク等閑ニ視ルベキモノナラザルベシ、凡ソ、用言ノ正格、變格、八種ノ活用ノ中ニテ、此ノ「る、れ、」ノ活用ナキモノハ、僅ニ、四段活用ト、良行四段一格ト、ノ二種アルノミ、其他ノ六種ハ、皆、此ノ「る、れ」ヲ以テ、要用ナル活用ヲ現ハシ、殊ニ、一段活用ニ至リテハ、此ノ「る、れ」無ケレバ、(古格ハ姑ク措キ)第一ニ、用言ノ本體タル截斷言ヲ形作ルコトヲ得ズ。(ぞ、る、」こそ、れ、」ナドト、概畧ニ「掛リ、」結ビ、」ヲ呼ブモ、用言ニ、此音ノ活用多キヲ知ルベシ、) 又、希求言ヲモ、活用ト見ルトキハ、よノ音ヲモ、活用中ニ加ヘザルヲ得ズ。(よ無ケレバ、希求言ヲ成サザルモノモ、少カラズ、) 此ノ如ク論ジテ、扨、從來命名ノ趣意ヲ奉ジテ、正シク稱呼セムトセバ、加行一段活用ノ、き、きる、きれ、きよ、ヲバ、「加行一段、良行下二段、也行一段活用、」ナドト呼ビ、良行下二段活用ノ、れ、る、るる、るれ、れよ、ヲバ、「良行下二段、重複顛倒、及ビ、也行一段活用、」ナドト呼バズバ、他ノ四段活用等ニ對シテ、其命名ノ釣合ヲ失ハム、サレバトテ、斯ル冗長ナル名稱ハ、採ルベクモアラズ。 此故ニ、今ハ、四段、一段、ナドイフ意味アル命名ニハ從ハズシテ、單ニ、第一類、第二類、第三類、第四類等ノ名ヲ命ゼリ。 又其順序モ、舊圖ナルハ、四段活用、最モ五十音圖ノ順ニ適當スルガ如ク、且、其所屬ノ用言モ數多ケレバ、之ヲ第一トシタルナルベク、而シテ、次下ハ、五
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十音順ニ據リテ次第セルナルベシ。 然レドモ、今ハ、四段、一段、等ノ名稱ヲ用ヰヌコトニモアレバ、其活用ニ所屬スル用言ノ多少ヲ以テ、順序ヲ改メ、四段活用ヲ第一類トシ、下二段活用ヲ第二類トシ、中二段活用ヲ第三類トシ、一段活用ヲ第四類トセリ。 又、既ニ、正格活用ノ名稱ヲ改メタル上ハ、變格活用モ、舊稱ヲ存シ難ケレバ、亦、第一、二、三、四類トセリ、但シ、其順序ハ、舊キニ從ヘリ。
從來ノ活用五階圖ハ、五十音圖ノ段ヲ標準トシテ、先ヅ、四段活用、一段活用、等ノ名ヲ定メ、扨、其活用ノ最モ博キ四段活用ノ音(か、き、く、け等)ヲ基本ト立テテ、他ノ活用ヲ、コレニ從ヘシメテ、製セシモノナルベシ。 サレバ、ゆか、(行)ヲ基トシテ、他のいき、(生)うけ、(受)等ノ將然言トイフモノ、第一階ニ居ルナリ。 然レドモ、凡ソ、用言ノ本體トイフモノハ、ゆく、(行)いく、(生)うく、(受)ニテ、即チ、截斷言トイフモノナレバ、先ヅ、某[ソレ]ノ用言トテ、取出シテ記サムニハ、截斷言ヲ第一ニ置クベキ理ナラム。 然ルニ、舊圖ニテハ、基本體タルベキモノ、第三階ニ居ルコトトナリテ、體裁宜シカラズ、是等モ、畢竟ズルニ、五十音順ヲ基トシ、四段活用等ノ目アルガ故ニ、之ニ從ハザルヲ得ザルニ起レルナリ。 然レドモ、本篇、既ニ、四段活用等ノ名稱ヲ用ヰザレバ、今ハ、其順序ヲ改メテ、截斷言ヲ第一ニ置ケリ、而シテ、後ノ形状言、助動詞、等ノ表モ、皆、之ニ傚ハシメタリ、殊ニ、活用ナキ助動詞ノなむ(願ノ)じ(不)ノ如キ、表ノ第一階ニ置キテ、下ヲ空白ニスル方、體裁好キヲ見ルナリ、(舊圖ノ體ニ製スレバ、第三階ニアリテ、上下、空白トナル、) 且、又、三種ノ「掛リ、」結ビ、」ヲ説カムニモ、其活用ノ第三、第四、第五階ニアラムヨリハ、第一、第二、第三階ニアラム方、太ダ善カルベケレバ、今ハ、連體言、已然言、トイフモノヲ、第二階、第三階ニ上ゲテ、截斷言ニ次ガシメ、而シテ、第一階、第二階ニアリシ將然言、連用言トイフモノヲ、ソノママ、下ニ下ゲタリ。 又、希求言ハ、舊圖ニハ、略ケルガ多シ、然レドモ、其活用ノ體ノ異ナルモノモアルガ上ニ、奈行變格(死ね)ノ如キ、甚ダ迷ヒ易キモノモアレバ、今ハ、下ニ一階ヲ加ヘテ載セタリ。 而シテ、第四、五、六階ノ順序ニハ、理由ナシ、唯、上ヨリ讀下諳誦セムニ、口調語路ノ好カラムニ從ヘリ。
又、從來、五階ノ名稱ヲ、將然言、連用言、截斷言、(又、終止言)連體言、已然言、トセリ。 是等ノ名稱、好カラヌニモアラネド、尚、論ズベキコトアリ。 先ヅ、其本語ニ、用言[○]トイフ名ヲ付シテ、又、其活用ニ、將然言[○]、連用言[○]、ナドト、言[○]ノ字ヲ付スルハ、言[○]中ニ言[○]アルコトトナリテ、甚ダ初學ノ迷ヒヲ惹キ易シ、本篇ニ用ヰタル法[○]ノ字トテモ、適當ナリトハ言ヒ難ケレド、(態[○]ノ字當ラムトイフコトハ、前ニ説ケリ、)尚、迷ヒヲ避クルニ足ラム。 又、文ノ「掛リ、」結ビ、」ノ如キモ、「ぞ、や、か、ノ掛リハ、連體言ニテ結ビ、こそ、ノ掛リハ、已然言ニテ結ブ、」ナドイフコトトナルモ、不都合ナリ、既ニ、連體トハ、他ノ體言ニ連ル[○○]語ナリト釋キテ、又、ぞ、や、かノ「掛リ」ヲ結ブ[○○](截斷ス)トイヒ、已然ハ、過ギ了レル意[○○○○○]ヲイフト釋キテ、又、こそノ「掛リ」ヲバ、現在ノ意ニテ結ブコトトモナル、齟齬極マレリ。 又、第二階ハ、連用言トモナリ、體言トモナルニ、連用言ト定稱スルトキハ、差支ヘアルベシ。 又、舊圖ニハ、各階ノ欄内ニ、助動詞、天爾遠波、等ヲ一一插入シタレド、用言ノ活用ノミ説カム塲合ニハ、甚ダ錯雜ヲ起スヲ覺ユ、サルハ、將然言ノ下ニ、「ゆかず」ナドアリテハ、唯、ゆくトイフヲ現在ニ打消ス意ノモノナレバ、將然トイフ命名ニ違ヒ、截斷言ノ下ニ、「ゆくべし」ナドアリテハ、連ル所アリテ、截斷[キルル]トイフ意ニ合ハズ、連體ハ、體言ニ連ルトイフニ、「ゆくなり」ナドアリテハ、助動詞ニモ連ル意トナリテ、初學ヲシテ、甚ダ惑ハシム。
右ノ如クナレバ、此篇ノ表ノ各階ニハ、一切意義アル名稱ヲ付セズ、階ノ名稱トシテハ、單ニ、第一變化、第二變化、第三、四、五、六變化、ト稱呼セシムルコトトセリ。 而シテ、「ぞ、や、かノ掛リ」ハ、第二變化ニテ結ビ、「こそ、ノ掛リ」ハ、第三變化ニテ結ブ、トヤウニ稱ヘシメムトス。 又、各變化ト、助動詞等トノ、連續ノ則ニ至リテハ、下ニ、別表ニ掲ゲテ、唯、某助動詞ハ、動詞ノ第幾變化ニ連續ス、トノミ説キ、此塲合ニハ、絶エテ動詞ノ變化ノ意義ヲ言ハズ。 而シテ、直説法、(截斷言)分詞法、(連體言)ノ如キ意義アル稱呼ハ、階ノ稱呼ノ外ニ立テテ、其階ヲ、直ニ何何法(何何言)ナリトハ言ハズシテ、直説法ニハ、第一變化ヲ用ヰ、接續法ノ已然ニハ、第三變化ヲ用ヰ、將然ニハ、第四變化ヲ用ヰ、或ハ、折説法ニハ、第五變化ヲ用ヰ、熟語法ニモ第五變化ヲ用ヰル、ナド稱ヘシメムトスルナリ。
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第二表 形容詞ノ語尾變化……法<17KB>|
(第二表 形容詞ノ語尾變化……法<大きいファイル/322KB>)
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形容詞(形状言)
形容詞[ケイヨウシ]ハ、名詞ノ後ニ附テ、其形容、性質、情意等、ヲイフ語ナリ。 例ヘバ、「山、高し」海、深し」ノ「高し」深し」ハ、其形容ヲイヒ、「是レ、善し」「彼レ、惡し」ノ「善し」惡し」ハ、其性質ヲイヒ、「會フハ、嬉し」別ルルハ、悲し」ノ「嬉し」悲し」ハ、其情意ヲイフガ如シ。
○語尾ノ變化 形容詞モ、亦、語尾ヲ變化シテ、文章ノ末ヲモ結ブ。 然レドモ、其變化ノ状、動詞トハ甚ダ異ニシテ、二類ニ別ル。
第一類 一種 第二類 一種
○第一類變化 此類ノ變化ハ、唯、一種ニシテ、其状、し、しき、けれ、く、く、ト變化ス。 表ニ擧ゲタル三語、皆、同種ナリ、第二類ナルモ然リ。
○第二類變化 此類ノ變化モ、唯、一種ニシテ、其状、し、しき、しけれ、しく、しくト變化ス。 第一類ノ語根ヲ疊用スルモノハ、率ネ變ジテ、第二類變化トナル。 例ヘバ、とほし、(遠)こはし、(強)かろし、(輕)等ハ、第一類變化ナルニ、「とほどほし、」こはごはし、」かろがろし、」トナレバ、第二類變化トナルガ如シ。 其他、いまいまし、(忌)うやうやし、(恭)くだくだし、(煩縟)ををし、(男)めめし、(女)ナド、疊ミテイフ語モ、率ネ、然リ。
○おほきし(大)トイフ形容詞ハ、おほきき、おほきけれ、ト用ヰタルヲ見ズ、又、すむやけし(速)ヲすむやけけれ、ト用ヰタルヲモ見ズトイフ、是等ハ、變化ノ闕ケタル不成語ナルカ、或ハ、古書ニ、偶、其用例ノ存セザルモノカ。 又、副詞ノすこし(少)ヲ、すこしき、すこしく、ナドト、形容詞ノ如ク用ヰルコトアルハ、誤用ナラム、サルハ、すこし、ヲ直説法ニ用ヰタルヲ見ザレバナリ。(すこしけれとトイフベクモアラズ) 其他、尚、委シキコトハ、文典ニ讓ル。
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○法 形容詞ノ法ハ、動詞ノ法ト、大ニ似テ、少シ異ニシテ、分詞法、名詞法、命令法、無クシテ、別ニ形容法[/ケイヨウハフ]、副詞法[/フクシハフ]アリ。(但シ、形容法ハ、分詞法ト、粗、同ジキモノナリ、) 即チ、
(一)直説法 (二)形容法 (三)接續法
(四)折説法 (五)副詞法 (六)熟語法
左ニ、形容詞ノ法ヲ、大略ニ説カム。 ソノ動詞ノ法ト同ジキモノハ、相準ヘテ知ルベシ。
(一)直説法 文章ノ末ヲ結ブ法ニテ、コレヲ形容詞ノ本體トス。 例ヘバ、
行ヒ、善し。 名、高し。 謗ルハ、惡し。 見ルハ、樂し。
尋常ノ直説法ハ、右ノ如シ。 若シ、文中ニ、天爾遠波ノぞ、や、か、又ハ、こそ、ノ入ルトキハ、第二變化、又ハ、第三變化ヲ用ヰルコト、亦、動詞ノ如シ。 例ヘバ、
香[カ]ぞ好き。 聲ぞ高き。 謗ルぞ惡しき。 見ルぞ樂しき。
香や好き。 聲や高き。 謗ルや惡しき。 見ルや樂しき。
何レか好き。 何レか高き。 何レか惡しき。 何レか樂しき。
香こそ好けれ。 聲こそ高けれ。 謗ルこそ惡しけれ。 見ルこそ樂しけれ。
(二)形容法 他ノ名詞ノ上ニ連ル法ナリ。 例ヘバ、
色ノ好き花。 峰ノ高き山。 行ヒ、惡しき人。 心、樂しき時。
或ハ、獨立ニモ用ヰテ、
好き色。 高き山。 惡しき心。 樂しき時。
\\25
又、下ニアルベキ名詞ヲ含ミテ、直ニ、名詞ノ如クニモ用ヰル。 例ヘバ、
香ノ好きヲ愛ヅ。 山ノ高きニ登ル。
善きト惡しきトヲ別ツ。 樂しき、悲しき、樣樣ナリ。
(三)接續法 動詞ノ接續法ト全ク相同ジキモノニテ、亦、已然、將然ノ別アリ、其意味モ、相準ヘテ知ルベシ。 例ヘバ、
已然 將然 已然 將然
善ければ 善くば 惡しければ 惡しくば
高ければ 高くば 樂しければ 樂しくば
其他ノ用法、率ネ、動詞ノ接續法ノ如シ。
(四)折説法 文章ノ中間ニテ、其意ヲ言止[イヒサ]シテ、下ノ語ニ照應スルコト、動詞ノ折説法ニ同ジ、相準ヘテ解スベシ。 例ヘバ、
性質、善く、品行、修マル。 山、高く、海、深シ。 惡しく、且、賎シ。 樂しく、又、喜バシ。
是、亦、句毎ニ言ハバ、「性質、善し。品行、修マル。」山、高し。海、深し。」ナドイフベク、或ハ、「品行、修マリ、性質、善し。」海、深く、山、高し。」トモイフベキナリ。
數語、相連リ、又、數語ヲ隔テテ、他ノ種種ノ語ニ照應スルコトアルモ、動詞ノ折説法ニ同ジ。 例ヘバ、
心、善く、(善し。 又、)行ヒ、正しく、(正し。 又、)其功モ、甚ダ高し。
丈、高く、(高き、又、)骨、逞しき人。 幅、廣く、(廣ければ、又、)丈、長ければ、
\\26
○舊説ニテハ、此法、並ニ、次ノ副詞法ヲ、共ニ、連用言ト稱シテ、相別タズ。 然レドモ、副詞法ハ、「善く修マル」樂しく思フ」ナド、「修マル」思フ」ニ副ヒテ、其意ヲ言添フレドモ、折説法ハ、各自、獨立ノ意ヲ言ヒテ、文、句、ヲ結バヌマデノモノナリ、混ズベキニアラズ。
(五)副詞法 形容詞ノ變ジテ副詞トナルモノナリ。(副詞ノ事、後ニ擧グ、)例ヘバ、
善く修マル。 高く昇ル。 惡しく変ル。 樂しく思フ
甚しく寒シ。 全く無シ。 遠く遙ニ見ユ。 浅く平ニ流ル。
又、副詞法ハ、動詞ノあり(ある、あれ、あら)ト連ナリテ、例ヘバ、「善く-あり」惡しく-ある」善く-あれ」無く-あらむ」ナド用ヰラルルトキ、ソノくトあト約[ツヅマ]リテ、「善かり」惡しかる」善かれ」無かれ」善からむ」無からむ」ナドトナルコト、常ナリ。
扨、又、ソノ「善からむ」無からむ、」ナド更ニ約マリテ「善けむ」無けむ」トモナリテ、一種異樣ノ語尾ヲナシ、(けめト變化セズ)又、「善からば」善かれど、」ナドモ、再ビ約リテ「善けば」善けど」トモナル。 但シ、此用法ハ、古ク、且、稀ニシテ、形容詞一般ニ用ヰ難シ。
(六)熟語法 他語ト合シテ、熟語トナル法ニテ、語根ヲ用ヰル。 然レドモ、形容詞中、此法ヲ成サザルモノモ多シ。 左ニ、其例ノ若干ヲ擧グ。
第一類變化ニテ、
吉[/ヨ]詞[ゴト]。 長歌。 高山。 遠野。 淺瀬。
高光ル。 遠離[ザカ]ル。 近寄ル。 薄暗シ。 細長シ。
第二類變化ニテ、
惡し樣。 同じ事。 嚴[イカ]し鋒。 可憐[カナ]し妹[イモ]。 賢[サカ]し女[メ]。
\\27
顯[ウツ]し身。 空し車。 空し烟。 長長し夜。 嬉し涙。
又、「無シ」ハ、第一類變化ナレバ、「神無[/ナ]月」正無[/マサナ]言」ナドト用ヰルハ、尋常ナルニ、或ハ「友無し千鳥」根無し言」耳無し山」ナドトモ用ヰルハ、特例ナリ。(又、「空[/ムナ]車」可惜[/アタラ]事」ナドノ空、可惜ハ、生得ノ接頭語ナルベク、第二類變化ノ語根ノしヲ去リテ用ヰタルニハアラザルベシ、)
○語根 形容詞ノ語根ヲ、稀ニ、直説法ノ如ク用ヰルコトアリ。
アナ憂[/ウ]。(シ)世ノ中。 アナ畏[/カシコ]。(シ)人ニ語ルナ。 アナ尊[/タフト]。(シ) アナ憂[/ウ]。(シ)ヤ。 アナ畏[/カシコ]。(シ)ヤ。
○又、語根ヲ、稀ニ、名詞ノ如ク用ヰルコトアリ。 ソノ句ナルハ、句ヲ一團ノ語ト見ルナリ。(第一類天爾遠波ノのノ條見合ハスベシ)
面白ノ春ノ夜。 アラ難有[/アリガタ]ノ御心。 怨[ウラメ]しノ心。 口惜しノ事。 恥[ハヅカ]しノ事。
怪しノ法師。 アナ恐[オソロ]しノ事。 あさましノ世ヤ。
又、「無シ」ハ、「味氣無[/アジキナ]ノ世ノ中」暇無[/イトマナ]ノ身」面無[/オモナ]ノ状ヤ」ナドトモ用ヰ、又ハ、「來ル人無シノ宿ノ庭」御身モ甚[イタ]クノ甲斐無シニテハ無ケレド」ナドトモ用ヰルハ、異ナリ。
○又、語根ニ、さトイフ接尾語ヲ添ヘテ、文ノ末ヲ結ブコトアリ。 但シ、第一類天爾遠波ノの、がノ下ニ限ル。
音の清亮[サヤケ]さ。 人の無情[ツレナ]さ。 聞クが悲しさ。 言フが侘[ワビ]しさ。
以上、常ニ、和歌ニ用ヰル。 散文ニハ、多クハ、更ニ、よヲ添フ。
逢ヒタルコトの嬉しさよ。 捨テラレムコトのあさましさよ。
○又、語根ニ、みトイフ接尾語ヲ添ヘテ、副詞ノ如ク用ヰルコトアリ。
\\28
苫ヲ粗[アラ]み、我ガ衣手ハ露ニ濡[ヌ]レツツ。 瀬ヲ速[ハヤ]み、岩ニ塞[セ]カルル瀧川ノ。
名ヲ睦[ムツマ]しみ。 君ヲやさしみ。 月清み。 山高み。
其意ハ、「苫粗キガ故ニ濡ル、」瀬速キガ故ニ塞[セ]カル、」ナドナリ。(苫を、瀬を、等ノをハ感動詞ナリ) 但シ、此用法ハ、和歌ノ上ニ多シ。
○
○從來ノ語學書ニハ、多クハ、形状言ノ、「深-み」高-み」重[オモ]-げ」惡[ニク]-さ」善-さ」惡シ-さ」(名詞トナルモノ)ナドノ、み、げ、さヲ、形状言ノ活用ナリトシテ説ケルガ多シ。 サレド、是等ハ、一種ノ接尾語ノ、形状言ノ語根ニ添ハリテ體言トナルニテ、活用ニハアラジ。 サレバ、形状言ニハ限ラデ、「有リ-げ」物思ヒ-げ」思ハズ-げ、」或ハ、「逢フ-さ」離[カ]ル-さ」行ク-さ」來[ク]-さ」歸ル-さ」入ル-さ」ナド、作用言ニモ付ケリ、是等ヲモ活用ナリトハイハルマジ。 げハ、氣ナリ、さハ、状ナリ、みモ、状ヲイフ語ナリ。 又、「降リみ、降ラズみ」蹈ミみ、蹈マズみ」ナド用ヰルみハ、「試[ミ]ル」トイフ作用言ノ活用ナリ、混ズベキニアラズ。
○
○英語ノAdjective.ハ、大抵、名詞ニ冠ラセテ、其形状性質ヲイヘリ。 我ガ形容詞モ、名詞ノ形状性質等ヲイフハ、相同ジケレドモ、語ノ成立ニ至リテハ、甚ダ相異ナリテ、語尾ニ、變化アリ、法アルコト、動詞ノ如クニシテ、且、常ニ、名詞ノ後ニ居テ、文ノ末ヲモ結ベリ。(羅甸、佛、獨等ノ形容詞ニハ、變化アリ、且、或ハ名詞ノ後ニ用ヰルモアリ、然レドモ、共ニ、文ノ末ヲ結ブコトハ無キガ如シ、) サルヲ、彼ノ文法ヲ以テ我ガ文法ヲ論ズルモノ、彼ノ語法ノ、先入シテ主トナレルガ故ニ、之ヲ肯ハズシテ、徒ニ、「高キ」深キ」ハ、Adjective.ナリ、「高ク」深ク」ハ、副詞ナリ、「高シ」深シ」ノシハ、一箇ノ助動詞ノ如キモノナリトシテ、各自、別語ナリト誤認シ、一語ノ語尾ノ變化ナルコトヲ暁ラザルモノ多シ。 サレド、「高キ」深キ」ヲ獨立ニ用ヰテ名詞ニ冠スル時(即チ、形容法)ニコソ、Adjective.トモ言ハルレ、「日本ノ高キ山、」太平海ノ深キ處、」ナド言ヒ、又ハ、「山ゾ高キ、」海ゾ深キ、」或ハ、「山コソ高ケレ、」海コソ深ケレ、」ナド文ヲ結ブナドハ、如何ニカセム。 又、「高ク、」深ク、」ヲ、獨立ニ用ヰテ、「高ク昇ル、」深ク思フ、」ナドイフ時(即チ、副詞法)ニコソ、副詞トモイフベケレ、若シ、「山高ク、(即チ、折説法)海深シ、」ト言ハバ、如何ニカスベキ、「高ク」トイフ副詞ニテ、「深シ」ノ意ヲ調停[/モデハイ]ストイフベキカ、「高ク深シ」トイヒテ、爭デカ語ヲ成スベキ。 我ガ形容詞ハ、斯ル一種ノ特性アルモノナレバ、別ニ本文ノ如キ規定アルナリ、尚、本文ニ説ケル所ヲ玩味シテ覺レ。
○國語ニテ生得ノAdjective. ヲ求メバ、新[ニヒ]、初[ハツ]、眞[マ]、御[ミ]ナドイフ一類ノ語ナラム。 サレド、是等ノ語ハ、何レノ名詞ニモ冠ラスベキニアラズ、其慣用ニ限レル所アリ、且、獨立ニハ用ヰズ、必ズ熟語トナリテ文中ニ出ヅ、故ニ、今ハコレヲ接頭語トシタリ。
○又、洋語ノAdjective.ニイフ階級(Degree.)ハ、其語體ヲ變ジテ成ルモノナレド、我ガ形容詞ニハ、此事無シ、コレヲ譯セムニハ、「是ヨリ善シ」最モ善シ」ナドトモスベケケレド、ソノヨリ、最モハ、別語ヲ用ヰルナレバ、形容詞中ノ一則トシテ説クベキモノナラズ。
第三表 助動詞ノ變化……法
第四表 動詞ト助動詞トノ連續
第五表 助動詞ト助動詞トノ連續
\\29
助動詞
助動詞ハ、動詞ノ變化ノ、其意ヲ盡サザルヲ助ケムガ爲ニ、別ニ其下ニ附キテ、更ニ、種種ノ意義ヲ添フル語ナリ。 例ヘバ、「行キたり、」眠リぬ、」語ラず、」言ハむ、」打タしむ、」ナドノたり、ぬ、ず、む、しむ、ノ如シ。 又、他ノ助動詞ニモ附クコトアリ、「行キたりき、」打タしめらる、」ノき、らる、ノ如シ。 又、名詞、又ハ、形容詞、(其形容法ヲ名詞ト見ルモノ)或ハ、副詞ニ附クモノモアリ、「月なり、」花なり、」善キなり、」惡シキなり、」父たり、」子たり、」時雨せり、」紅葉せり、」強クせり、」詳ニせり、」ナドノなり、たり、せり、ノ如シ、是等ハ、一個ノ動詞ノ如キ意義ヲモ成セドモ、獨立シテ文ノ冒頭ニ用ヰラルルコト無ク、常ニ、必ズ、他語ノ下ニ附キテ文中ニ出ヅルモノナレバ、尚、助動詞タリ。
○「行キ交[か]フ、」爲難[シカ]ヌ、」言ヒ過[ソ]ス、」讀ミ止[サ]ス、」馴レ初[ソ]ム、」ノ「交フ、」難ヌ、」過ス、」止ス、」初ム、」ナドハ、獨立ニ用ヰタルヲ見ザレバ、助動詞ナルガ如クナレドモ、其意義、十分ニ動作ヲ言ヘバ、尚、動詞タルベシ。
助動詞ハ、其語、大抵、短縮ナレドモ、變化アリ、法アリテ、又、能ク、文章ノ末ヲ結ベリ。 而シテ、其意義變化ノ状ハ、動詞ニ似タルアリ、形容詞ニ似タルアリ、又、或ハ、感動詞ノ如キモアレド、尚、變化アリ、又、其一二ニ、無變化ノモノ(Defective.)モアレド、亦、尚、能ク、文章ノ末ヲ結ベリ。
助動詞ノ數、凡ソ、三十アリ。 第三表ニ於テ、其三十語ヲ載セテ、其意義ト變化ト法トノ状ヲ示セリ。 其變化ト法トノ趣ハ、動詞、形容詞、ノ變化ト法トニ異ナルコト無ケレバ、表中ノ名稱ノ相同ジキモノハ、相對照セシメ、相準ヘテ覺ルベシ、因テ、此ニハ複説セズ。 但シ、各助動詞ノ意義ニ至リテハ、後ニ、更ニ、逐條
\\30
ニ説クベシ。 又、動詞ト助動詞ト連続スル法則、又ハ、助動詞ト助動詞ト連續スル法則ハ、第四表、第五表、ニ就キテ知ルベシ。 (各表ニ附セル説明ヲモ見ヨ)
○使役ノ助動詞 尋常ニハ、「押ス、」受ク、」報ユ、」ナドイフヲ、他ヲ使役シテ此動作ヲ爲サシムルニハ、「押サす、」受ケさす、」報イしむ、」ナドイフ。 此ノしむ、す、さす、等ヲ、使役[/シエキ]ノ助動詞トス。
(1)しむ
(2)す
(3)さす 上ノ三語、使役ノ意ヲイフコト、相同ジクシテ、共ニ、動詞ノ第四變化ニ連ル。 但シ、しむハ、アラユル動詞ニ連レドモ、すハ、規則動詞ノ第一類ト、不規則動詞ノ第三類ト、第四類ト、ニ連リ、さすハ、其ノ他ノ各類ニ連ルコト、下ノ表ノ如シ。
「行カしめ畢ンヌ、」言ハせ盡ス、」受ケさせ侍リ、」ナド用ヰルハ、熟語法ナリ。 「使ハしめ、」(俗ニ、「見セしめ」懲ラしめ」)ナドハ、名詞法ナリ。 又、古クハ、「知ラしめ、」見しめ、」ナドト、よヲ添ヘズシテ、命令法トシタルモ見ユ。
○受身ノ助動詞 「押ス、」打ツ、」報ユ、」ハ、我ヨリ他ノ上ニ働キ掛クル動作ナルヲ、他ノ其動作ヲ起シテ、我レ受身トナルトキハ、る、らる、トイフ助動詞ヲ加ヘテ、「押サる、」打タる、」報イらる、」ナドイフ。 此ノ彼我ノ動作ヲ、働掛[/ハタラキカケ]、受身[/ウケミ]、或ハ、能相[/ノウサウ]、所相[/シヨサウ]、トイフ。
\\31
(4)る
(5)らる 上ノ二語、受身ノ意ヲイフコト、相同ジ、而シテ、共ニ、衆動詞ノ第四變化ニ連ル。 但シ、其中ニ、るハ、規則動詞ノ第一類ト、不規則動詞ノ第三類ト、第四類ト、ニ連リ、らるハ、其餘ニ連ルコト、表ノ如シ。
「言ハれ侍リ、」報イられ候フ、」ナドハ、熟語法ナリ。 又、「西光、切ラれノ事、」(平家)「其謂ハれ、無キニアラズ、」ナドハ、名詞法ナリ。
○西洋ノ動詞ニテハ、能相、所相ハ、他動詞ニノミアリテ、自動詞ニハ、無キガ如シ。 然ルニ、國語ノ動詞ニハ、自、他、共ニ、コレヲ用ヰル、委シクハ、文典ニ説クベシ。
又、己ガ心ヨリ、己レニ動作ヲ起シカケラルル意ヲナスコトアリ、「昔シ懷[シノ]バる、」行末ノ考ヘらるる」、ナドノ如シ、是等ハ、自所相[/ジシヨサウ]トモイフベシ。
○敬語 使役、受身、ノ助動詞ハ、絶テ使役、受身、ノ意無クシテ、唯、他ノ動作ヲ敬ヒ言フ語トナルコトアリ、コレヲ敬語[/ケイゴ]トイフ。 而シテ、使役ノ方ハ、大抵、「給[タマ]フ、」座[オハ]ス、」ナドイフ語ト共ニ用ヰル。 例ヘバ、「位ニ即カしめ給フ、」行カせ給フ、」起キさせ座[オハ]ス、」或ハ、「君ニモ殊ニ喜バる、」釋尊ノ言ハるるニハ、」師ノ考ヘらるるヤウ、」ナドノ如シ、是等、「即キ給フ、」行キ給フ、ヤ」起キ給フ、」喜ビ給フ、」言ヒ給フ、」考ヘ給フ、」ナドイフコト、太異ナシ。(書状ノ文ニ、被遊、被下、ナド用ヰルモノ、是レナリ、) 又、重ネテ用ヰルハ、一層重キ敬語ナリ、「行カせらる、」召サせらる、」棄テさせらる、」ノ如シ。 但シ、「殿より、使、隙なく、たまはせて、子安貝、とりたるかと、問はせ給ふ、」(竹取)ナ
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ドハ、「問はせ」ニ、使役ノ意アリ、或ハ、「猶、それ、舞はせさせ給へと、集て申まとひしかば、」(枕草子)ナド用ヰタルモ、「舞ハせ、」ニ、使役ノ意アリテ、其以下、敬語ナリ。
○或云、貴人ハ、何事ヲ爲ムニモ、自ラ手ヲ下スコト無ク、他ヲ使役シテ爲[セ]サセ、又ハ、他ニ爲[セ]ラルルヨリシテ、此ノ如キ敬語ハ出デタリトイフ。 然ルトキハ、自ラ使役、受身、ノ縁ナキニアラズ。
○又、生得ノ敬語アリ、「聞[キカ]ス、」聞[キコ]ス、」立[タタ]ス、」通[カヨハ]ス、」知[シラ]ス、」知[シロ]ス、」思[オボ]ス、」ナド、尚多シ、是等ハ、規則動詞ノ第一類(す、す、せ、さ、し、せ、)ニ變化スル語ニテ、辭書ニハ、既ニ、各自、一語トシテ擧ゲタレバ、爰ニ論ゼズ。
○能力ノ助動詞 尋常ニハ、「押ス、」讀ム、」受ク、」堪[コラ]フ、」ナドイフ動作ヲ、更ニ、「己ガ力、能ク爲シ得ル」意ニイフトキハ、る、らる、トイフ助動詞ヲ加ヘテ、「押サる、」讀マる、」受ケらる、」堪[コラ]ヘらる、」ナドイフ、其意ハ、「押スコトヲ得、」受クルコトヲ得、」ト言ハムガ如シ、コレヲ能力[/ノウリヨク](Potential.)ノ助動詞トス。(前條、受身ノ助動詞ト、形、全ク相同ジケレドモ、相混ズルコト勿レ、)
(6)る
(7)らる 上ノ二語、能力ノ意ヲイフコト相同ジ、共ニ、動詞ノ第四變化ニ連ル。 但シ、るハ、規則動詞ノ第一類ト、不規則動詞ノ第三類ト、第四類ト、ニ連リ、らるハ、其餘ノ各類ニ連ルコト、表ノ如シ。
○指定ノ助動詞 次ニ擧グルなり、たり、べし、等ハ、事物ヲ指シ定ムル意アレバ、コレヲ指定[/シヂヤウ]ノ助動詞トス。
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(8)なり 指定解説スル語ニテ、「にて、あり」ノ意ナリ。(語源ハ、「に、あり」ノ約[ツヅマ]レルナルベシ、) 此語、動詞ニ連ルトキハ、必ズ、其第二變化ニ連ル。 例ヘバ、「押スなり、」受クルなる、」報ユルなれ、」爲ルなれば、」ナドノ如シ。
○此語ハ、詠歎ノ意ヲイフ助動詞ノ(22)なりト、混ジ易シ。 指定ノなりハ、口語ニ寫セバ、「押スぢ-や、」行クぢ-や、」ナドノ意ヲナシ、詠歎ノなりハ、「押スわい、」行クわい、」ナドノ意ヲナス、因リテ、「ヂ-ヤなり、」ワイなり、」トモイヒテ、コレヲ分ツ。 且、他ノ動詞ト連ル規定モ、此條ノなりハ、其第二變化ニ連リ、詠歎ノなりハ、第一變化(不規則動詞ノ第四類ノミハ、其第二變化ニ)ニ連ル、尚、前ノ第四表ヲ見テ瓣別スベク、後ノ(22)なりノ條ヲモ見ヨ。
此語、又、獨立動詞ノ如ク、直ニ、名詞、副詞、ニモ伴ヒテ、指定解説ノ意ヲイフ、「月なり、」花なり、」是レなり、」夫レなり、」宜[ウベ]なり、」然[シカ]なり、」ノ如シ。
此語、又、形容詞ノ第二變化ニモ連ル、「善キなり、」惡シキなり、」ノ如シ【初版 加シ】。(是ハ、其第二變化ナル形容法ヲ、名詞トシテ連ヌルモノノ如シ、)
○又、「靜なり、」明なり、」詳なり、」ナドイフなりハ、此條ノなりト、似テ異ナルモノニテ、「靜ニ、」明ニ、」詳ニ、」ナドイフ副詞ノ末ノにニ、動詞ノありノ約マリテなりトナレルナリ。(此事、尚、副詞ノ條ニ言フベシ、) サレバ、ソノなりハ、尋常動詞ノありト、勢力[ハタラキ]同ジクテ、「靜ならシム、」ナド、使役ノ助動詞ニモ連ヌベク、又、「いつよりも、今宵の月は、さやかなれ、秋のゆふべも、たどるばかりに、」(仲文)ナド命令法ニモ用ヰルベシ。 サルニ、此條ノなりハ、然ルコト能ハズ、尚、第三表、第五表ヲ見テ知ルベシ。 因ニ云、助動詞ノ、ごとしニモ、「ごとく、なり」ト、連ネテ用ヰルコトアリ、是モ、「ごとく、に、あり」ノ約マレルナルベシ。
(9)たり 此語ノ意義モ、「にて、あり、」ト指定スルモノナリ。(語源ハ、「と、あり」ノ約マレルナルベシ) 此語ハ、名詞ニノミ連リテ、動詞ニハ屬[ツ]カズ。 例ヘバ、「あくれば、五日のあかつきに、せうとたる人、外よりきて、」(かげろふ日記)其他、「父たり、」子たる、」君たり、」人たる、」ナド、常ニ用ヰル。 又、漢籍讀ニ、「峨峨たり、」寂莫たり、」ナド用ヰルモ、「と、あり」ノ約マレルニテ、亦、此語ナリ。
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(24)べし 心ニ推シ量リテ定ムル意ノ語ナリ、「斯クアルべし、」我レ行クべし、」ノ如シ。 又、強ク指定シテ、命令スル意ヲモナス、「疾ク行クべし、」速ニ來[ク]べし、」ノ如シ。 此語ハ、衆動詞ノ第一變化ニ連ルヲ規定トスレド、不規則動詞ノ第四類ニノミハ、其第二變化ニ連ル。
○又、此ノべし及ビ、(20)らむ、(30)らし、等ハ、規則動詞ノ第四類ニ連ルトキ、尋常、其第一變化ニ、「見ルべし」居[ヰ]ルらむ」煮ルらし」ナド連ルニ、又、或ハ、「見[ミ]べし、」居[ヰ]らむ、」煮[ニ]らし、」ナドトモ連ルコトアリテ、甚ダ異ナリ、尚、其委シキハ、文典ニ讓レリ。
○又、此語ハ、尋常ノ形容詞ト同ジク、「ベ、けむ、」べ、かり、」ナドトモ用ヰル、其用法ハ、形容詞ノ條ニ説ケルニ準ヘテ知ルベシ。
○打消ノ助動詞 「押ス、」受ク、」ナドハ、正面ニ説ク動作ナルヲ、其動作ヲ、反面[ウラ]ヨリ説キテ打消ス時ハ、「押サず、」押サざる、」受クまじ、」受ケじ、」ナドイフ。 其ノ正面ニ説クヲ、正説[/セイセツ]トシ、(Positive.)反面ヨリ説キテ打消スヲ、反説[/ハンセツ]、又ハ、打消[/ウチケシ]トス。 (Negative.)
(10)ず 動作ヲ、ソノママニ打消ス語ナリ、「押サず、」受ケず、」ノ如シ。 此語ハ、アラユル動詞ノ第四變化ニ屬[ツ]ク。 此語ハ、又、動詞、名詞、ヲ履[フ]ミテ熟語法ヲナス、「絶エず行ク、」飽カず思フ、」降リ試[ミ]、降ラず試[ミ]、」問ハず語[ガタリ]、」知ラず顔、」ノ如シ。 又、地名ニ、「親知ラず」ナドアルハ、名詞法ナリ。
○此語ノ變化ノぬ、ねヲ、過去ノ助動詞ノ(13)ぬ、ね、ト別チテ、打消ノぬ、ねトイフ。 又、古クハ、「飽カぬ、」得ぬ、」ナドヲ「飽カに、」言ヘバ「得に、」ナド用ヰ、又、「行カぬニ、」言ハぬニ、」ナドヲ「行カなくニ、」言ハなくニ、」ナド延ベテ用ヰタルアリ。(委シクハ、文典ニイハム、)
(11)ざり 前條ノずト、動詞ノありト、約マレモノニテ、他ノ動詞ニ連ル規定モ、ずニ同ジ、「押サざり」受ケざる」ハ、即チ、「押サず、あり、」受ケず、あり、」ノ約ナリ。 直説法ニ用ヰタルハ、「朱雀院は、御子たち、おはしまさざり、ただ、王女御と聞えたる御腹に、云云、」(榮花、月宴)ノ如シ。(此語ハ、一ノ助動詞トシテ擧グルマデモ無キ
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ヤウナレド、今、姑ク存ス)
(26)まじ 推シ量リテ打消ス語ニテ、ずノ豫定ナリ、「押スまじ、」受クまじ、」ノ如シ。 此語、衆動詞ノ第一變化ニ屬[ツ]キ、唯、不規則動詞ノ第四類ニノミハ、其第二變化ニ屬ク。
(27)じ 前條ノ語ト同ジクテ、其意、稍、強キガ如シ、諸動詞ノ第四變化ニ連ル、「押サじ、」受ケじ、」ノ如シ。 此語、希ニ、熟語法ヲモナス、「今夜[コヨヒ]のみ、相見て後は、逢はじものかも、」(万葉)「みだりに人を、寄せじものをや、」(後撰)其他、「負ケじ魂」ナドハ、常ニモイヘリ。 此語ハ、本體アルノミ、變化ナシ。(サレド、ぞ、や、か、又ハ、こそ、ノ結法[ムスビ]トハナルガ如クモ思ハル、其事ハ、文典ニ讓ル、)
○過去、未來、ノ助動詞 「押ス、」受ク、」トイフハ、其動作ノ最中[モナカ]ナルニイフ。 扨、其動作ヲ、既往ニ就キテイフトキハ、「押シき、」受ケたり、」ナドイヒ、又、其動作ヲ、未然ニ就キテイフトキハ、「押サむ、」受ケむ、」ナドイフ。 此ノ如キ動作ノ差違ヲ、動詞ノ時[/トキ]トイヒ、其差違、現在[/ゲンザイ]、過去[/クワコ]未來[/ミライ]、ノ三樣ニ分ル。
現在 現在トハ、現ニ、今、動作スルヲイフ、「押ス、」受ク、」生ク、」着ル、」ノ如シ。
過去 過去ノ意義、三種ニ分ル。
第一過去ハ、動作ノ方ニ終ハリタルヲイフモノニテ、つ、ぬ、たり、ノ三助動詞ヲ用ヰル。 即チ、「押シつ、」押シぬ、」押シたり」受ケつ、」受ケぬ、」受ケたり、」生キつ、」生キぬ、」生キたり、」着[キ]つ、」着ぬ、」着たり、」ノ如シ。 此三語ノ意、相同ジ。 又、コレト同意ナルニ、「押セり、」罪せり、」ナドイフり、せり、アリ、末ニ説クベシ。
第二過去ハ、動作ノ過ギテ程歴シヲイフモノニテ、助動詞ノけり、き、ヲ用ヰル。 例ヘバ、「押シけり、」押シき、」受ケけり、」受ケき、」ノ如シ。 此二語ノ意モ、相同ジ。
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第三過去ハ、第二ヨリハ、一層程歴タリシヲイフモノニテ、第一過去、第二過去、ノ助動詞ヲ重用ス。 即チ、第一ノつ、ぬ、たり、ノ第五變化ナルて、に、たり、ト、第二ノけり、き、トヲ、重ネテ、「押シて、けり、」押シに、けり」押シたり、けり、」押シて、き」押シに、き」押シたり、き」ノ如シ、而シテ其意モ、皆、相同ジ。
未來 未來ハ、未ダ起ラザル動作ヲイフモノニテ、助動詞ノむ、ヲ用ヰル、「押サむ、」受ケむ、」生キむ、」ノ如シ。 又、第一、第二、第三過去、共ニ、其動作ハ、過去ナルベキヲ、推測シテ未來ニイフコトアリ。 即チ、
第一過去ニテハ、つ、ぬ、たり、ノ第四變化ナルて、な、たら、ニ、未來ノむヲ重ネテ、「押シて、む、」押シな、む、」押シたら、む、」受ケて、む、」受ケな、む、」受ケたら、む、」ナドイフ。
第二過去ノけり、き、ニハ、別ニ、助動詞ノけむヲ用ヰテ、「押シけむ、」受ケけむ、」生キけむ、」ナドイフ。
第三過去ニテハ、第一過去ノつ、ぬ、たりノ第五變化ナルて、に、たり、ニ、前ノけむヲ重ネテ、「押シて、けむ、」押シに、けむ、」押シたり、けむ、」受ケて、けむ、」受ケに、けむ、」受ケたり、けむ、」ナドイフ。
以上、數樣ノ時ヲ、表ニシメスコト、下ノ如シ。
○表ニ掲ゲタル動詞ノ「押ス」ハ、規則動詞ノ第一類ナリ、「受ク」ハ、其第二類ナリ、「生ク」ハ其第三類ナリ、「着ル」ハ其第四類ナリ。 而シテ、現在ハ、皆、其動詞ノ第一變化ナリ、
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未來ニ接スルハ、皆、其第四變化ナリ、其餘ニ接スルハ、皆、其第五變化ナリ。 表ニ就キテ、其各變化ト助動詞トノ連續ノ則ヲ覺ルベシ、尚、前ノ第四表ニ照シテ見ヨ。 扨、又、不規則動詞ニテハ、ぬ、き、(し、しか)ノ連續ニ就キテ、異則アレバ、表ノ混雜セムヲ恐レテ、爰ニハ掲ゲズ、其異則ノ事ハ、次ニモイフベク、前ノ第四表ヲモ參考シテ覺ルベシ。
○又、此外ニ、古文ニテハ、「成リに、たり、」變ハリに、たり、」或ハ、「宮より、あす俄に御迎へにと、宣はせたりつれば、心あわただしくて、」(若紫)「打忘れたりつる古への御事をさへ、」(椎がもと)「年月歴たりぬれど、あかざりし夕顔を、つゆ忘れ給はず、」(玉葛)ナド、第一過去ナルヲ互ニ重用セルモアリ、或ハ、「けり、つる」ナド、第二過去ニ、第一過去ヲ連ネタルモアリ、或ハ、「けり、き」ナド、第二過去ヲ、互ニ重用セルモアリ。(此事、次ニイフベシ、) サレド、斯ル用法ハ、今ノ普通文ニハ、奇僻ナルベクヤ。
(12)つ 動作ノ果テテ止[トド]マル意ヲイフ語ナリ。(語原ハ、止[ト]ト、意、通フナルベシ、) 此語、アラユル動詞ノ第五變化ニ屬[ツ]ク。 但シ、此語ハ、多ク他動詞ニ屬キ、次條ノぬハ、多ク自動詞ニ屬ク、「暮ラシつ、」暮レぬ、」明カシつ、」明ケぬ、」ノ如シ。(つノ音ハ、鋭ニシテ、ぬノ音ハ、軟ナルガ故カ、) サレド、一定ニハ言ヒ難シ、先ヅハ概則ナリト知ルベシ。
○自動ニ、「鳴キつる」有リつる」來[キ]つる」ト連ネタルモアリ、或ハ、他動ニ、「浮寐爲[シ]つラム」トモ連ネ、「旅寐爲[シ]ぬベシ」トモ連ネタルナドモアレバ、一樣ニハ定メカヌレド、先ヅハ本文ノ如シ。 次次條ノたりハ、(此つノ變化ノてト、ありト、約マルナレド)自、他、共ニ連ル。
○「押シて、む」見て、む」ナドノ「て、む」ヲ、往往、一語トシテ説キタルモアレド、表ニモ掲ゲタルガ如ク、其てハ、つノ變化ニテ、コレニ、未來ノむヲ添ヘテ用ヰルモノナレバ、此篇ニハ、別ニ、一箇ノ助動詞トハセズ。
(13)ぬ 不規則動詞ノ「往ヌ」ヨリ變ジタル語ナルベク、(變化ノ不規則ナル状モ全ク同ジ)動作ノ往キ畢レルヲイフ語ニテ、其意、つニ同ジ。 此語モ、衆動詞ノ第五變化ニ連ナレド、(多クハ、自動詞ニ連ル、尚、前状ヲ見ヨ)不規則動詞ノ第三類ナル「往ヌ」死ヌ」ノミニハ、全ク連ナラズ、尚、前ノ第四表ヲ見ヨ。 此語
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ノ第六變化ナル命令法ハ、「押シね」受ケね」生キね」ナド用ヰルモノナリ。
○此條ノぬト「往ヌ」トハ、同根ヨリ生ジタル語ナレバ、連續セヌモ理ナリ。 又、「死[シ]ニぬる」ナドハ、連續スベキガ如クナレド、古書ニ用例アルヲ見ズ、希ニ、「死[シニ]ぬる」ナドトアルハ、「死[シ]ぬる」ナルベキヲ、僻讀シタルナルベシト云。
○此語ノ命令法ニ、過去ノ意ナシ、トイフ説モアレド、尚、微ニ、其意ヲ含メルガ如シ、「往キね」取リね」ノ如キ、口語ニ寫サバ、「行ツテシまへ」取ツテシまへ」ナルベシ。
○此語ノ變化ノぬ、ねヲ、打消ノぬ、ねト別チテ、「過去ノぬ、ね、」或ハ、「畢[ヲハリ]ノぬ、ね」トイフ。
○又、「押シな、む」受ケな、む」ナドノ「な、む」ヲ、一語トミルモノモアレド、然ラズ、此ぬノ變化ノなニ、未來ノむヲ連用シタルナリ、表ヲ見テ知ルベシ。 又、其「な、む」ハ、希望ノ(23)なむトモ混ジ易シ、過去ノ「な、む」トイフベシ。(天爾遠波ニモ、なむトイフ語アリ、混ジ思フコト勿レ、)
(14)たり 「て、あり」ノ約マレルニテ、「押シたり」受ケたり」ナドハ、「押シて、あり」受ケて、あり」なり、而シテ、其てハ、前前絛ノつノ變化ナレバ、スベテ、つト同意ナリト知ルベシ。 熟語法ニ、「爲[シ]たり顔」(俗ニ、似たり貝)ナドモ用ヰル。 此語モ、衆動詞ノ第五變化ニ連ル。
○此たりヲ、前ノ(9)たりニ別チテ、彼レヲ「指定ノたり」トシ、コレヲ「過去ノたり」トス。
(15)せり 「爲[シ]て、あり」トイフ程ノ意ニテ、亦第一過去ノ意ヲナス語ナリ。(語源ハ、「爲[シ]、あり」ノ約マレルナルベシ) 此語ハ、固ヨリ、爲[シ]トイフ動詞ノ意ヲ含メルモノナレバ、獨立動詞ノ如キ力ヲナシテ、他ノ動詞ニハ屬カズ、甚ダ餘ノ助動詞ト異ナリ。 例ヘバ、「蓋爾[キヌガサニ]爲有[/セリ]」殿造[トノヅクリ]せり」團居[マトヰ]せる夜ハ」家居[イヘヰ]シせれバ、」其他、「罪せり」導[シルベ]せり」歎息せり」工夫せり」烈シクせり」詳ニせり」ノ如シ。 サレド、尚、全ク獨立シテ文ノ冒頭ナドニ、用ヰラルルコト無ク、必ズ、他語ノ下ニ屬キテ文中ニ出ヅルモノナレバ、尚、助動詞タリ。
○此語、古クハ、「庵[イホリ]せり、けむ」何せり、き」何せり、つる」ナド、第一、第二過去ト重用セルモ見ユ。
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(16)り 此語ハ、規則動詞ノ第一類ニ限リテ屬[ツ]ク助動詞ニテ、且、其第三變化ニ屬[ツ]ク、即チ、「行ケり」押セり」別テり」ノ如シ。 是等ノ意義ハ、「行キ、て、あり」押シ、て、あり」ナド解スベクシテ、亦、「行ク」押ス」等ヲ、第一過去ニイフナリ。 規則動詞第一類ノ六種ノ語ニ連續セシメテ、左ノ表ヲ示ス。(尚、前ノ第三表、第四表ニ照シテ見ヨ)
○接續法ノ已然ニテハ、「難波邊に、人のゆければ、おくれゐて」將然ニテハ、「天の川、橋、亙せらば」滄浪ノ水、清[ス]メらバ以テ纓ヲ濯フベシ」ノ如シ。(忘貝、よせ來て置けれ」ナドハ命令法ナラムカ) 是等ノ用法、皆、古シ。
○此語、古クハ、「咲ケり、つる」咲ケり、き」給ヘり、き」讀メり、ける」ナド、第一、第二ノ過去ヲ重用シタルモ見ユ。
○此助動詞ハ、規則動詞ノ第一類ニ限リテ屬[ツ]クモノナリ。 サルヲ、誤リテ其第二類ナル「受ク」堪フ」終フ」ナドノ變化ニモ屬[ツ]ケテ、「受ケり」堪ヘり」終ヘり」ナド混用スルコト往往アリ、注意スベシ。 又、「立ツ」添フ」染ム」(自動)ナドハ、規則動詞ノ第一類ナレバ、「立テる家」松ニ添ヘる石」赤ニ染メる衣」ナド屬(ツ)クルコト、論無ケレド、規則動詞ノ第二類ナル「立ツル」添フル」染ムル」(他動)ヲ「家ヲ立テる」石ヲ松ニ添ヘる」衣ヲ赤ニ染メる」ナドイフコトアルハ口語調ニテ、文章調ニアラズ、混ジ思フコト勿レ。
(17)けり つ、ぬ、たりヨリ、一層、程、歴シ時ヲ示ス語ニシテ、(語原ハ、「來[キ]、あり」ノ約マレルナルベシ、)コレヲ
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第二過去トス。 此語、諸ノ動詞ノ第五變化ニ連ル。
此語、時トシテハ、過去ノ意ハ薄クシテ、唯、語氣ニ念ヲ入レテ言フ意ヲナス、「秋は來[キ]に、けり」天つ星とぞあやまたれける」ナドヲ、口語ニ寫セバ、「秋が來た、わい」まちがへられるわい」トイフマデノ意ナリ。 殊ニ、「心なりけり」我身なりける」ナド、「なり、けり」ト用ヰタルハ、唯、推シテ説明スル意ヲナス、古ク、「何何なりけりき」ナド用ヰタルアルモ、けりハ、説明ノけりニテ、きニ、過去ノ意アルナルベシ。
(28)き 前條ノけりト、語意同ジクシテ、第二過去ヲイフ語ナリ。 此語、ノ變化ハ、き、し、しかニテ、衆動詞ノ第五變化ニ連ルヲ通則トスルニ、唯、不規則動詞ノ第一類、第二類ノ於テハ、き、し、しか、相分レテ、其第四變化ニモ連ルヲ、殊ニ異則ナリトス。 左ニ表ニ掲ゲテ示ス、尚、前ノ第四表ニ參照スベシ。
表ニ掲ゲタルガ如ク、「來[キ]し」來[キ]しか」又ハ、「來[コ]し」來[コ]しか」ト、何レニモ連ル、而シテ、「來[コ]し」來[コ]しか」ト用ヰタル方、例、多シ。 扨、「來[キ]き」來[コ]き」ト用ヰタル例、サラニ見當ラズ。
又、「爲[シ]き」ト「爲[セ]し」爲[セ]しか」ト、相分レテ連リ、而シテ、「爲[シ]し」爲[シ]しか」又ハ、「爲[セ]き」ナド用ヰタル例、更ニ無シ。
○此ノき、し、しかハ、餘ノ動詞ニテハ、其第五變化ニ連ルヲ通則トス、サレバ、規則動詞第一類ノ「押ス」申ス」ナドノ第五變化ハ、「押シ」申シ」ナレバ、スベテ、「押シ、き」押シ、し」押シ、しかバ」申シ、き」申シ、し」申シ、しかバ」ナド、連ヌベキ規則ナリト知ルベシ。(尚、前ノ第四表ヲ見ヨ) サルヲ、「押ス」申ス」ノ第三變化ナル「押セ」申セ」ニ連ネテ、「押セ、し」押セ、しかバ」申セ、し」申セ、しかバ」ナドト誤用スルコト多シ、心ヲ付クベシ。(押セ、き」申セ、き」トハイフベカザルニテ覺レ、且、「痩セ、き」痩セ、し」失セ、き」失セ、し」ナド、第二類ナルハ、共ニ相連ルニ照シテモ見ヨ、)
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○且又、尋常直説法ニテ文ヲ結ブトキハ、「押シき」申シき」見き」ナドナルベキヲ、「押シし」申シし」見し」ナド結ブコトアルモ、誤ナリト知レ。
○又、此語ノ變化ノしニ、第二類天爾遠波ノか(歟)ノ添ヒタルト、又ハ、其第三類ノがノ添ヒタルトアルヲ、此きノ變化ノしかト混ジテ誤解スルコトアリ、注意スベシ。 即チ、「我コソ行キしか」ナドハ、此變化ノしかナリ。 「何時[イツ]ノ程ニ行キし、か、」(歟)或ハ、「行キし、が、逢ハザリキナドノか、がハ、天爾遠波ノか、がナリ、思ヒ分クベシ。
○「世の中に絶えて櫻の無かりせば」(古今)「夢と知りせば覺めざらましを」筑波根に我が行けりせば、霍公鳥」(万葉)吾妹ガ衣なりせば、下に着ましを」(万葉)ナドイフせアリ。 コレハ、此ノき、し、しかノ變化中ノモノニテ、即チ、「しかバ」ト「せバ」ト相對シテ、接續法ノ已然、將然ナラムト思ハル。 サラバ、此語ハ、き、し、しか、せト變化ス、トスベケム。 此事、先輩ノ論及、アリヤ、ナシヤ、姑ク、私案トシテイフ。
(18)む 未來ヲイフ語ニテ、アラユル動詞ノ第四變化ニ屬[ツ]ク。
○「行カま欲シ」聞カま欲シ」見ま憂[ウ]キ」ナド、未來ノ意ヲイフまアリ、此語ノ第五變化トシテ、熟語法ト見ルベキカ。(但シ、折説法、名詞法、トハナラズ、) 又、万葉集ニ、「戀ひまく思ふ」見まくちかけむ」吹かまくしらす」古今集ニ、「見まくほしさに」見まくのほしき」唐錦たたまく惜しき」伏見の里のあれまくも惜し」ナドアルまくモ、同意ニテ、此まヲ延ベタルマデノ語ナルベキカ。(義門師ハ、此ノま、まくヲ、推量ノ(26)ましノ轉ノ如ク説カレタレド、イカガ、尚ましノ條ヲ見ヨ、)
(19)けむ 第二過去ノけり、きヲ、未來ニ推測シテイフ語ナリ。(語原ハ、けりノ變化ノけらト、未來ノむトノ約マレルモノナラムカ) 此語、各動詞ノ第五變化ニ屬[ツ]ク。
○推量の助動詞 らむ、めり、まし、らし等ハ、事物ヲ推量スル意アリ、コレヲ、推量[/スヰリヤウ]ノ助動詞トス。
(20)らむ 未然ヲ推量スル語ナリ、「押スらむ」受クらむ」ノ如シ。 此語ハ、各動詞ノ第一變化ニ屬[ツ]キ、唯、不規則動詞ノ第四類ニノミ、其第二變化ニ屬[ツ]ク。
\\42
○此語、規則動詞ノ第四類ニ連ルニ、異則アリ、前ノ(24)べしノ條ヲ見ヨ。
(21)めり 語原ハ、「見[ミ]え、あり」ノ約マレルナルベク、事物ノ状態、然[シカ]見ユ、ト推量シテイフ語ナリ。(口語ニ、「あるとみえる」ないとみえる」ナドノ意) 此語、動詞ノ第一變化ニ連ル、「我おとらじとやうの事、爲[シ]出[イ]づ、めり」(宿木)紅葉亂れて流る、めり」(古今)濡[ヌ]る、める人に着せてかへさむ」(勢語)秋も往ぬ、めり」ノ如シ。 但シ、不規則動詞ノ第四類ニノミハ、其第二變化ニ屬[ツ]ク。
(26)まし 未來ヲ推シ定メ、又ハ、然セムトスル意ヲイフ語ニテ、まハ、未來ヲイフむノ轉ナルベシ、サレバ、むト同ジク、各動詞ノ第四變化ニ連ル。 此語ノ接續法ナル「ましかバ」ノ出ヅルトキハ、其末ヲ、又、ましト結ブヲ、概則トス、「まして,龍[タツ]を捕へたらましかば、又、こともなく、我は害せられなまし、」(竹取)「人知れず、絶えなましかば、わびつつも、無き名ぞとだに、言はましものを、」(古今)ノ如シ。
○「飛鳥川、しがらみ渡し、塞[セ]かませば、流るる水も、のどかに【初版 にか】あらまし」(万葉)「大舟に、妹のるものに、有らませば、はくくみもちて、行かましものを、」(同)「斯くばかり、戀ひむとかねて、知らませば、妹をば見ずぞ、あるべかりける、」(同)ナドノませハ、此ましノ變化中ノモノナルベク、ませノせハ、ましノしト、同趣ノ音ニモアリ、即チ、「ましかバ」ト「ませバ」ト相對シテ、接續法ノ已然、將然ヲナスモノナラムカ。(義門師ハ、「行カま欲シ」ナドイフまニ、爲[セ]ノ添ハレルナラム、ト言ハレタレド、此ノせニ、「爲[ス]ル」トイフ力アリトモ思ハレズ、又、「知ラま爲[/ス]ル」有ラま爲[/ス]レバ、」ナド用ヰタル例モナシ。)
(30)らし 輕ク推量スル語ナリ、「押スらし」受クらし」ノ如シ。 此語ハ、不規則動詞ノ第四類ニノミハ、其第二變化ニ連ナレド、其他ノ動詞ニハ、スベテ、其第一變化ニ連ル。 此語ニ、變化ナシ。
○但シ、此らしハ、一體ニテ、ぞ、や、か、又ハ、こそノ結法ヲナス、委シキコトハ、文典ニ説カム。 又、規則動詞ノ第四類ニ連ルニ、異則アリ、前ノ(24)べしノ條ヲ見ヨ。
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○詠嘆[/ヱイタン]ノ助動詞
(22)なり なトイフ感動詞(後ニイフベシ)ニ、語尾變化アルモノニテ、動作ヲ言ヒ終ヘタル餘意ニ添ヘテ發スル語ナリ。 此ノなりハ、動詞、助動詞ノ第一變化ニ屬[ツ]クコト、「秋の野に、人まつむしの、聲爲[/ス]、なり」小夜深き、雲居の雁も、音[オト]爲[/ス]、なり」やがて鹿の音、聞ゆ、なり」今とては見えず、なるを」花の衣になりぬ、なり」ノ如クニテ、前ノ「指定ノなり」(其條ヲ見ヨ)ノ、第二變化ニ屬クト、異ナリ、一文中ニ用ヰ分ケタルハ、「男も爲[/ス]、なる日記といふものを、女もして試みむとて爲[/ス]る、なり」(土佐)ノ如シ、詠歎ナルハ、「爲[ス]」(第一變化)ニ連リ、指定ナルハ、「爲[ス]ル」(第二變化)ニ連ル。 但シ、不規則動詞ノ第四類ニテハ、此ノなりモ、其第二變化ニ連ル。
○サレバ、不規則動詞ノ第四類ニテハ、詠歎ナルモ、「有ルなり」(有ルわい)ト連リ、指定ナルモ、「有ルなり」(有ルぢや)ト連リ、又、規則動詞ノ第一類、第四類ニテモ、其第一變化、第二變化、形、相同ジケレバ、詠歎ノ「行クなり」着ルなり、」(行クわい、着ルわい)指定ノ「行クなり」着ルなり、」(行クぢや、着ルぢや)共ニ同ジ姿ナレバ、善ク其意義ヲ考ヘテ相別ツベシ。
○希望[/キバウ]ノ助動詞
(23)なむ 願ヒ、又ハ、吩咐[アツラ]フル意ヲイフ語ニテ、「押サなむ」受ケなむ」生キなむ」有ラなむ」ナド用ヰル、是レナリ。 此語ハ、語尾變化ナキノミ、ナラズ、古クハ、「行カな」言ハな、」トノミモイヒタレバ、願フ意アル感動詞ナルベクモ思ハルレド、尚、文ノ末ヲ結ベバ、助動詞タルベシ。 此語、動詞ノ第四變化ニ連リ、而シテ、「希望ノなむ、」或ハ、「願[ネガヒ]ノなむ、」又ハ、「あつらへノなむ」ナドイヒテ、過去ノぬノ變化ニ起ルな、む(動詞ノ第五變化ニ連ルモノ)ト別ツ。
○サレド、規則動詞ノ第二類、第三類、第四類ハ、其第四變化、第五變化ノ形、共ニ相同ジケレバ、「受ケなむ、」生キなむ、」着なむ、」何レモ、「願[ネガヒ]ノなむ」トモ解セ
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ラレ、「過去ノなむ」トモ解セラルルコトアリ、能ク、其意義ヲ分チテ、解スベシ。
○比况ノ助動詞
(25)ごとし 比ブル意ヲイフ語ニテ、多クハ、天爾遠波ノの、がノ下ニ連ルコト、他ノ助動詞ト異ナリ、「山のごとし」海の、ごとき」此[カク]のごとき」聞クが、ごとく」善キが、ごとし」ノ如シ。 又、古クハ、「見ルが、ごと思フ」秋の、ごと凉シ」ナドト、副詞法ニ用ヰタルアルモ、異ナリ。
○此語ノ變化ハ、形容詞ノ變化ノ如クナレド、其第三變化ニ「ごとけれ」ト用ヰタルヲ見ズ。 又、「ごとく、に」ごとく、なり」ナド用ヰルコトアルモ、他ノ形容詞ニ無キコトナリ。(疾く、に」ナドモ、希ニハアルカ、)
○
○凡ソ、此篇ニ助動詞トシタルモノ、從來ノ語學書中ニハ、スベテ天爾遠波ノ中ニ混ジテ説ケリ。 然レドモ、是等ノ語、皆變化ヲ具シ、法ヲ具シ、或ハ、希ニ變化ナキモノモアレド、其語、皆、能ク文章ノ末ヲ結ブ。 既ニ變化アリ、法アリ、又、能ク文章ヲ結ブモノ、コレヲ天爾遠波ノ中ニ混ズベキニアラズ。 サレド、是等ノ語、變化アリ、法アリ、又、能ク文ヲ結ベドモ、獨立ニハ用ヰラレズ、必ズ他語ノ下ニ就キテ、其意ヲ補助スル用ノモノナレバ、固ヨリ、動詞ニハアラズ、因テ今ハ、助動詞トシテ、一門ニ立テタリ。 而シテ、が、の、に、を、も、ぞ、こそ等ノ變化モナク、言語ノ間ニアリテ、上下ヲ承接スルモノノミヲ存シテ、天爾遠波ノ一門トセリ。 又云、助動詞ハ、洋文典ニテハ、動詞ノ條中ニ附説スルモノ多シ、然レドモ、邦語ノ助動詞ハ、變化ト法トヲ具シテ、其數モ多ク、其規定モ繁ナルモノナレバ、一門ニ立ツベキ價直アリ、且、別門ニ立テテ説ク方、學ブ者ニモ便ナラムト思ハル、因テ今ハ此ノ如シ。
○
○前ノ動詞ノ條末ニ於テモ、國語ト洋語トノ間ニ、動詞ニ天性ノ異同アルコトヲ論ジタリ。 サルニ、世ノ洋文法ニ據リテ國文法ヲ作ルモノ、動モスレバ、速了ノ見ヲ以テ、此ニ助動詞トシテ説ケル「打タる」遂ゲらる」打チつ」教へき」打タむ」遂ゲむ」等ノる、らる、つ、き、むナドヲ、動詞ノ語尾變化ト斷定シ、動詞ノ Voice, Mood, Tense,等トシテ説キテ、確ク執リテ動カザルガ多ケレバ、今、反覆シテ其説ノ理ナキヲ辨ゼム。
右ノ助動詞ドモヲ、動詞ノ語尾變化ト見ルトキハ、第一ニ、其變化ノ稱呼ニ就キテ、甚ダ辨別ニ苦ムコトアリ。 ソハ、先ヅ、「打つ」トイフ動詞ノ變化ハ、つ、て、た、ちナリ、ナドトシテ、更ニ、又、其ノ Passive voice ノ「打たる」ニ、る、るる、るれ、れノ變化ヲ起シ、又、其ノ Potential mood ノ「打たる」ニモ、る、るる、るれ、れノ變化ヲ起シ、又、其ノ Past tense ノ「打ちつ」ニモ、つ、つる、つれ、てノ變化ヲ起シ、又、其ノ Future tense ノ「打たむ」ニモ、む、めノ變化ヲ起スナド、其他、尚、幾多ナルコト、擧
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グルニ堪ヘズ。 是等ヲ、スベテ、一動詞ノ語尾ノ變化ナリトスルトキハ、一動詞ニ、數十百樣ノ變化ヲ起スニ至ル。 而シテ、右ノ諸變化ハ、皆、各自ニ、直説法、接續法、命令法等ノ諸法ヲ成スガ故ニ、(前ノ第三表ヲ見ヨ)「打たれよ」トイヘバ、 Passive voice ニ、 Imperative mood ヲ起シ、「打たるれば」トイヘバ、 Potential mood ニ、 Subjunctive mood ヲ起シ、「打ちてよ」トイヘバ、 Past tense ニ、 Imperative mood ヲ起ス等、其餘、皆然リ。 然ノミナラズ、各助動詞ハ、又、各自ノ變化ヲ以テ、他ノ助動詞ニモ、互ニ連續スルガ故ニ、(前ノ第四表ヲ見ヨ)其連續スルモノヲモ連ネテ、一動詞ノ變化ト見ザルヲ得ズ、(一連續ハ語尾ナリ、二連續以上ハ語尾ナラズ、ト區別スルハ、難カラム)サレバ、「打たれしめよ」打たれしめられたりしかば」打たれしめざるべからず」ナド、層層重用スルモノニ至リテハ、如何ニカコレニ命名スベキ。
右ノ如クナレバ、 Mood ニ、 Voice ヲ生ジ、 Voice ニ、 Mood ヲ起シ、 Tense ニ、 Mood アリ、 Mood ニ、 Mood ヲ重ヌルニ至ル、豈ニ亦解スベカラザル極ナラズヤ。 既ニ動詞ノ條末ニモ論ジタルガ如ク、英文法ノ如キハ、羅甸文法ノ模擬ニ出デタルモアレバ、重複變化ノ不都合モアレド、羅甸文法ノ如キハ、一動詞ノ變化ニ、法[/ムード]モ、口氣[/ボイス]モ、時[/テンス]モ、具備スルモノナレバ、然[サ]ル紊亂ノ不條理無ク、又、初ヨリ、其國語ノ天性ニ隨ヒテ立テタル文法ナルベケレバ、然[サ]ル不條理ノ起ルベキ謂ハレモ無カルベキナリ。 畢竟ズルニ、國語ノ特性ヲ善クモ推究セズシテ、唯徒ニ此ヲ彼ニ合ハセムトスレバコソ、サル牽強説モ起ルナレ、況ヤ、其説ノ如クストモ、 Mood, Voice, Tense. トイフ語原ノ意義ニ於テ、既ニ其大本ヲ失ヘバ、強ヒテコレヲ立ツトモ、洋文法ノ忠臣トモ爲リ難カラムヲヤ。
此ノ故ニ、國語ニハ、國語特性ノ制ヲ立テテ、動詞ト助動詞トヲ甄別シ、扨、國語ノ助動詞ハ、變化ト法トヲ具シ、且、助動詞ト助動詞ト相疊用スル定則モアリ、而シテ、受身トイヒ、打消トイヒ、過去トイヒ、未來トイフガ如キ意義ハ、助動詞ノ其語體ニ生得ス、ト説キ去ラバ、何ゾ然[サ]ル紛絲ノ紊レヲ起サム、各國天然ノ言語ニ、各、差違アルベキハ、理ノ應ニ然ルベキ所ニシテ、其間ニ惑ヒヲ入ルルニ足ラズ、唯、其國語天然ノ性ニ隨ヒテ語法ヲ制定スベキナリ、彼ニアレバトテ、我ニ模擬捏造シ、彼ニ無ケレバトテ、我ニ甄表セザルハ、其見、亦陋ナラズヤ。
○和蘭人、初メ、佛語、獨逸語ヲ混用シテ、基本ノ國語無カリキ、百十數年前、其國ノ學者相集リ、既ニ獨立國タル上ハ、一定ノ國語無カルベカラズト議シテ、乃チ、羅甸文法ニ據リテ、新ニ文法ヲ定メ、名詞ノ格ヲ、六格ト建テテ、施行セリ、サルニ、コレヲ實際ニ使用スルニ至リテ、不都合ナルコトドモ多カリシカバ、更ニ審議セシニ、全ク、蘭語ニハ、六格ヲ具ヘヌモノト再議シテ、因テ、減ジテ、四格トシタリトナリ、此事、和蘭ノ某[ソレ]ノ辭書ノ序ニ見エタリト、往年、某學士ニ聞ケルコトアリキ、洋文法ヲ以テ國文法ヲ論ズル者、留意スベキコトナリ。
副詞
副詞[/フクシ]ハ、常ニ動詞ニ副[ソ]ヒ、又、形容詞に副ひ、又、或ハ、他ノ副詞ニモ副ヒテ、其意味ヲ種種ニ言ヒ添フル語ナリ。 例ヘバ、「只管[ヒタスラ]、思フ」暫し、留ル」甚だ、高シ」最も、遥ニ、見ユ」ナドノ、「只管」ハ、思フ状態ヲ示シ、「暫し」ハ、
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留ル程ヲ言ヒ、「甚だ」ハ、高キ度ヲ指シ、「最も」ハ、「遙ニ」ノ距離[ヘダタリ]ヲ定ムルガ如シ。
○副詞ノ種類 本體ノモノハ、上ニ擧ゲタル外ニ、「必ず、有リ」既に、成レリ」嘗て、聞ケリ」許多、見ユ」恰も、好シ」最[/イト]、麗ハシ」頗る、詳ニ、知ル」ナド、擧ゲ盡シ難シ。
副詞ニハ、疊ミタルガ如キ語多シ、しばしば(屡)つらつら(熟)ほとほと(殆)なかなか(却)やうやう(漸)ノ如シ。 殊ニ、形状、聲音ヲイフモノニ多シ、「戸ヲほとほとと叩ク」涙ヲはらはらと落ス」からからと笑フ」さめさめと泣ク」ノ如シ。 又、同語ヲ重用スルコト有リ、かくかく(斯斯)しかじか(然然)いといと(最最)いよいよ(彌彌)げにげに(實實)ノ如シ。
副詞ニハ、に、らに、かに、らかに、やかにナドイフ接尾語ヲ用ヰルモノ多シ、「既に」終に」夙に」豈に」更に」殊に、」或ハ、つばらに(詳)つぶらに(圓)のどかに(長閑)しづかに(靜)たひらかに(平)あきらかに(明)すみやかに(速)すこやかに(健)ノ如シ。
又、にニ終ハルモノノ中ニ、不規則動詞ノ「有リ」ニ連レルトキ、にトありト約マリテ、なりトナルモノアリ、「新[アラタ]なり」明なり」靜なり」詳なり」ノ如シ、是等ノ語尾ノ變化ハ、即チ「有リ」ニ同ジ。
○名詞ヲ副詞ニ用ヰルモノハ、「今、來ム」今日[/ケフ]、行ク」明日[/アス]、來ラム」半[/ナカバ]、成レリ」二日[/フツカ]、待チテ」ノ如シ。 其下ニにヲ添ヘテ用ヰルハ、「常に」時に」故に」誠に」日に」月に」ノ如シ。 又重用スルハ、「時時」夜夜[ヨルヨル]」數數[カズカズ]」又ハ、「年年[トシドシ]に」日日[ヒビ]に」ノ如シ。
漢語ヨリ入レルハ、「大抵、成レリ」一切、知ラズ」終日、勤ム」再三、問フ」ノ如シ。 其下ニにヲ添フルハ、「切に」別に」丁寧に」專一に」ノ如ク、又、重用スルハ、「年年[ネンネン]」日日[ニチニチ]」度度[ドド]」次第次第に」ノ如シ。
○形容詞ノ副詞法ハ、皆、副詞ニ用ヰらる。 「高く、昇ル」疾ク、走ル」惡しく、ナル」樂しく、思フ」ノ如シ。 此類ニテ、「能く」輙[タヤス]く」夙[ハヤ]く」甚[イタ]く」宜しく」ノ如キハ、全ク副詞ノ如クナレリ。 又、重用スルハ、「善く善く」疾く疾く」ノ
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如ク、或ハ、語原ヲ重用スルハ、「細細[コマゴマ]」久久」深深」ノ如シ。
○動詞ヲ副詞ニ用ヰルハ、「曰はく」宣[ノタマ]はく」願はくは」恐らくは」疑ふらくは」思ふに」(顧)「打付けに」亂りに」(妄)「頻りに」詮ずるに」案ずるに」絶えて」敢へて」總べて」返りて」(却)「譬へば」(例)「言はば」言はむや」(況)ノ如シ。 又、重用スルハ、「行く行く」泣く泣く」益す益す」代る代る」返へす返へす」取り取り」次ぎ次ぎ」取り取りに」次ぎ次ぎに」ノ如シ。
○熟語ヲ副詞ニ用ヰルハ、「元より」(固)「何れか」(孰)「如何でか」(爭)「何處[イヅク]にぞ」(焉)「一重に」(偏)「殊更に」(故)「身づから」(躬)「己[オノ]づから」(自)「餘りさへ」(剩)「請ひ願はくは」(冀)「欲しいままに」(恣)「無いが代に」(蔑)「稍もすれば」(動)ナドナリ。
○副詞ノ用法 同語ヲ重用シテ、「最最[/イトイト]、好シ」疾く疾く、行ケ」ナドイフハ、其意ヲ強クスルナリ。 又、「尚、暫し、待ツ」唯、只管に、頼ム」夙ニ、早く、起く」嘗て、屡、見タリ」雪ノ間[マ]無ク、時無ク、降ル」月に、日に、關守無クバ」ナド重用スルハ、其意、二ツナガラ、下ノ動詞、形容詞ニ係ル。
又、間ニ他ノ語句ヲ隔テテ係ルハ、「熟[/ツラツラ]、事ノ由ヲ考フルニ」暫し、時ノ移ルヲ待チテ」ノ如シ。 又、動詞ノ下ニ用ヰルモノハ、「待ツコト暫しナリ」行クベキカ(問)否[/イナ]」我ヲ恨ム勿[/ナ]」色ニ出ヅ勿努力[/ナユメ]」ノ如シ。 此ノ勿[/ナ]ハ、必ズ、動詞ノ第一變化ニ屬[ツ]ク、「我ヲ恨ムな」人ヲ忘ルな」色ニ出ヅな」來[ク]な」爲[ス]な」ノ如シ。 但シ、不規則動詞ノ第四類ノミハ、其第二變化ニ屬ク、「有ルな」居ルな」ノ如シ。
○此ノなハ、感動詞ノなト迷ヒ易シ、心スベシ。 又、「恨ムル勿レ」忘ルル勿レ」出ヅル勿レ」來[ク]ル勿レ」爲ル勿レ」ナド用ヰル勿レハ、「無クアレ」ノ約マレルモノナリ、混ズルコト勿レ。
又、{な、そ」トイフ二語ニテ動詞ヲ挟ミテ、禁止スル意ヲイフ副詞アリ、「な行キそ」な受ケそ」な落チそ」ノ如シ。 或ハ、「努力[/ユメ]な語リそ」現[/アラハ]にな言ヒそ」甚[/イタ]くな侘ビそ」ナド、他ノ副詞ト共ニ用ヰ、或ハ、「人な甚[/イタ]く侘ビサセ奉ラセ給ヒそ」(竹取)ナドトモ用ヰ、或ハ、熟語ヲ中斷シテ、「吹キな散ラシそ」ナドトモ用ヰル。 此ノ副詞ハ、スベテ、
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動詞ノ第五變化ヲ挟ムヲ通則トスルコト、上ノ諸例ノ如シ。 然ルニ、不規則動詞ノ第一類、第二類ニテハ、其第四變化ヲ挟ミテ、「な來[コ]そ」な爲[セ]そ」ト用ヰルヲ異則ナリトス。(第五變化ニテ、「な來[キ]そ」な爲[シ]そ」ナドトハ用ヰズ、)
○古クハ、「雲な棚引キ」人モな忘レ」吾無シトな侘ビ」ナド、そ無クモ用ヰタルヤウナリ。
又、上ノ意ヲ承ケテ下ニ移スモノアリ、「齡ハ老イヌ、然[/シカ]ハアレド」ナドナリ、其他、「斯く」抑[ソ]も」さて」ナド、皆、然リ。 又、元來ハ、上ノ意ヲ承クベキモノヲ、意、輕ク、文首ニ用ヰルモノアリ、「夫れ」抑[ソモソ]も」凡そ」ノ如シ。
又、副詞ニハ、其生得ノ意味ヲ、其下ノ語ニ移シテ、反應セシムルモノアリテ、反語、打消ノ語、推量ノ語、疑問ノ語等、各、一定ノ用法ヲ起サシム。 是等、慣用ノ法ニ據リテ用ヰルベキナリ。 例ヘバ、
「え行カジ」いさ知ラズ」をさをさ見エズ」よも思ハジ」さらさら無シ」豈知らむや」縱ひ行クトモ」よし見ルトモ」盖し是ナラム」若し行カバ」寧コレヲ取ラム」如何ハセム」爭で知ラム」幾何アラム」疑ふらくは是レナラム」焉ぞ取ラム」ノ如キ、枚擧スベカラズ。
○以上、副詞ノ解、稍、繁ニ渉リテ、他ニ比スレバ、不倫ナルガ如シ、然レドモ、副詞ニハ、迷ヒ易キモノモ多ケレバ、今ハ、此ノ如シ。
○此ノ副詞トイフモノ、從來、國學諸哲ノ論及セルモ、ヲサヲサ見エズ、サレバ、此一類ノ語ニハ、某[ソレ]ノ言[コトバ]ト、名稱ヲモ付セズシテアリ、唯、富士谷成章氏が「かざし抄」ニ、かざしト名ヅケタル一類ノ語中ニ、住住、此副詞ヲ混ジテ論ジタルアレド、尚、甚ダ詳悉ナラズ、サレバ、此條ハ、先哲ノ説ノ據ルベキナクシテ、創定ニ係レルコト多シ。
接續詞
接續詞ハ、語、句、又ハ、文、ノ間ニ入リテ、ソレヲ續[ツ]ギ合ハスル語ナリ。 例ヘバ、「月、又、花」春過ギタリ、さて、
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夏、來ル」ノ如シ。
漢籍讀ニ用ヰルハ、「コレヲ求ムルカ、抑、コレヲ與フルカ」秦カ、漢カ、將[/ハタ]、近代カ」多クシテ、且、旨シ」ナドアリ、書状ノ文ニ、尤、旁、將又ナド用ヰルモノモ、是レナリ。
動詞ヨリ來レルニハ、及び、並に、尋[ツイ]でナドアリ、亦、漢籍讀ノ用法ナリ、書状文ニ、就て、隨て、依てナドモアリ。 熟語ヲ用ヰルハ、「或は」(有ル謂[イヒ]ハ)「斯くて」然[サ]れば」然して」(而)「若しくは」さりながら」然のみならず」(加之)「かるがゆゑに」(故)「何となれば」是に於て」ノ如シ。 是等モ、漢籍讀ノ用法ナルガ多シ。
○「月と日と」山も川も」蝶や花や」ナドノと、も、や、ナドモ、其用法ニ因テハ、接續詞ノ意ヲナスコトモアリ、然レドモ、今ハ、類ヲ以テ天爾遠波ノ部ニ収メタリ。
○此接續詞トイフモノ、舊説ニテハ、スベテ天爾遠波ノ中ニ雜ヘタリ。 然レドモ、別ニ一種ノ意義アルモノニテ、混ジ難キ事アリ、因テ、今ハ、別門ニ立テタリ。
天爾遠波
天爾遠波[テニヲハ](畧シテ、天爾波)ハ、言語ノ中間ニ居テ、上下ノ語ヲ承接シテ、種種ノ意義ヲ逹セシムル語ナリ。
例ヘバ、「宇治山の僧喜撰は、詞、幽[カスカ]にして、初め、終り、確[タシカ]ならず、言はば、秋の月を見るに、暁の雲に逢へるが如し、」ノの、は、て、ば、を、に、がノ如シ。
○古クハ、漢文ヲ譯讀スルニ、後世ノ如ク、送リ假名ナド付クルコトハ無クシテ、文字ノ四方、四隅、中央等ニ、點ヲ付シテ、其點ニ、一定ノ則ヲ立テテ、譯讀セシナリ。 下ノ圖ハ、其一則ニテ、例ヘバ、人ノ字ノ左肩ニ點アレバ、「人ニ」ト讀ミ、右肩ニアレバ、「人ヲ」ト讀ミシナリ。 其右肩ノ二點ノ訓語ヲ採リテ、コレヲ「ヲ、コト、點」ト概稱セリ。(今モ、「返リ點」ナド、點[○]トイフコトアルハ、其遺ナリ、)
又或ハ、其四隅ノ訓語ヲ、左脚ヨリ左肩ヘ、右肩ヨリ右脚ヘ循リテ讀メバ、「テ、ニ、ヲ、ハ」トナルヲ採リテ其概稱トモセリ、是レ、天爾遠波トイフ語ノ起因ナリ。
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天爾波ハ、其形、多クハ短小ニシテ、且、獨立シテハ用ヲ成サズ。 然レドモ、常ニ、文中所在ニ居テ、上下ノ語ヲ連絡セシメ、互ニ呼應シテ其意義ヲ通ジ、他語ノ方向ヲ示シ、意旨ヲ導キ、自他ヲ區別シ、彼此ヲ分合シ言語ノ位置、顛倒ストモ、其所在ニ就キテ指示ノ任ヲ盡スナド、關節ノ筋ノ如ク、門戸ノ樞ノ如シ。
アラユル天爾波ヲ、其用法ニ因テ、三類ニ大別シ、而シテ、逐次ニ其意義ヲ説クベシ。
第一類 名詞ニ屬[ツ]クモノ。
(A)が の (B)の が つ (C)に (D)を (E)と と (F)へ (G)より から より (H)まで
第二類 種種ノ語ニ屬[ツ]クモノ。
(I)は ば (J)も (K)ぞ し (L)なむ なも (M)こそ (N)だに (O)すら (P)さへ (Q)のみ (R)ばかり (S)や (T)か
第三類 動詞ニ屬[ツ]クモノ。
(U)と とも (V)ど ども (W)が に を (X)て (Y)で (Z)つつ
○第一類 此類ノ天爾波ハ、名詞ニノミ屬ク、コレヲ名詞ノ天爾波トイフベシ。
(A)が の 上ニ名詞ヲ承ケテ、下ハ動詞ニ係リ、其動作ヲ起ス所ノ名詞ヲ、特ニ擧ゲ示ス意ノモノナリ。 例ヘバ、「斯くと誰が言ふ」我をば君が思ひ隔つる」白雪のかかれる枝に鶯の鳴く」行交ふ人の花をたむくる」ノがのノ如ク、「言ふ」思ふ」鳴く」手向く」ノ動作ヲ起スハ、「誰」君」鶯」人」ナルコトヲ、特ニ指示ス。 又、下、形容詞ニ係リテ、「待つ人の無き」空ののどけき」聞くが樂しき」無きが多し」ナドイフモ、用法同ジ。
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○コレヲ、羅甸ニ謂ハユル名詞ノ Noiminative case.(主格)ナリトスルハ、恰當ナラズ。 國語ニテ、彼ノ主格ニ相當スベキ純粹ナルモノハ、「鳥、啼キ」花、落ツ」ナド、天爾波無クシテ用ヰル「鳥」花」等ノ位置、是レナリ。 コレニがのヲ加ヘテ、「鳥が啼ク」花の落ツル」トイヘバ、がのヲ加ヘタル程ノ意味ハ、隨テ起ルナリ、即チ本條ニ説ケル所ノ如シ。 尚、委シクハ、文典ノ文章論ニ讓ル。
(B)の が 共ニ、名詞ト名詞トノ關係ヲ示スモノナリ。 而シテ、其意義モ、種種ナリ。
(一)所有ノ意ヲ示スモノハ、「人の物」君が世」ノ如シ。 或ハ、下ノ名詞ヲ畧シテ、「萬葉集に入らぬ古き歌、みづからのをも、奉らしめ給ひ」此歌は、柹【柿】本の人麿がなり」ナドモ用ヰル。
(二)由ル所、係ル所、ヲ示スモノハ、「櫻の花」梅が香」世の中」天が下」ノ如シ。 是モ下ノ名詞ヲ省キテ用ヰル、「世の常のとや思ふらむ」今の主人[アルジ]も、前[サキ]のも、手取交はして」ノ如シ。
○以上ノ二ツハ、英、又ハ、羅甸ノ Possesive, 又ハ、 Genitive case.(持格)ニ當ルガ如クナレド、次下ナルハ、又、種種異樣ノ意義ヲナス。
(三)「にて、ある」ノ意ヲ示スモノハ、「これの歌卷」それが人人」ノ如シ。
(四)「に、ある」ノ意ヲ示スモノハ、「越[コシ]の白山」蝦夷が千島」ノ如シ。
(五)「と、いふ」ノ意ヲ示スモノハ、「富士の山」佐渡が島」ノ如シ。
(六)「の如き」ノ意ヲ示スモノハ、「花の顔」露の命」父が俤あり」ノ如シ。
又、「結ぶの神」行かむの心」思ふが中に」重きが上の」ナド用ヰルハ、上ノ語ノ分詞法、形容法ヲ、名詞トシテ用ヰルナリ。 又、「都よりの音信[オトヅレ]」明日[アス]までの命」君への諫」行きての後」これのみの事」多くの人」面白の夜」口惜しの事」忘れじの行末、」或ハ、「君や來[コ]む我や行かむの猶豫[イサヨヒ]に」待つ人の來[コ]むや來[コ]じやの定めなければ」是ハ、謀反ノ輩ヲ落サジが爲ノ謀ナリ」ナド、種種ノ語句ヲ名詞トシテ、接尾語ノ如ク屬[ツ]クコトモアリ。 而シテ、是等ハ、皆、其
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上下ノ係屬ヲ示ス意ヲナス。
○前條ノが、のハ、名詞ト動詞トノ間ニ立ツモノナリ、此條ノの、がハ、名詞ト名詞トノ間ニ立ツモノナリ、語形、同ジケレド、思ヒ紛フルコト勿レ。 又、第三類天爾波ニモ、が、のアリ、感動詞ニモ、がアリ、混ズベカラズ。
○つ のニ似テ、上下ノ語ノ係屬ヲ示スモノナリ。 然レドモ、用法古ク、且、慣用ニ局[カギ]レル所アリテ、一般ニ用ヰ難シ。 其例、左ノ如シ。
「天つ風」國つ神」上つ毛野[ケノ]」下つ總[フサ]」遠つ祖[オヤ]」近つ淡海[アフミ]」内つ國」中つ國」外[ト]つ國」沖つ風」種[タナ]つ物」澪[ミヲ]つ串[クシ]」
(C)に 動詞ノ動作ノ、移リ亙ル所ヲ示スモノナリ。 而シテ、其意義、數種ニ分ル。
(一) 相對スルモノヲ指スハ、「人に與フ」師に問フ」ノ如シ。
○コレハ、羅甸ノ格ノDative.(與格)ニ當ルガ如シ。 然レドモ、次ナルハ、又、種種ナリ。
(二) 地位ヲ示スモノハ、「机に載ス」都に住ム」山に近シ」水に遠シ」ノ如シ。
(三) 比ブル意ナルハ、「人に劣ル」我に優ル」昨日に増シテ」ノ如シ。
(四) 差抑ヘテイフとノ如キモノハ、「木、石に成ル」水ヲ湯にナス」花ヲ雲に見テ」ノ如シ。
(五) 接續詞ノ意ヲナスとノ如キモノハ、「日に月に」尾花が風に庭の月影」ノ如シ。
又、重用スル動詞ノ間ニ入リテ、またノ意ヲナスモノアリ、「降リに降ル」聞キに聞キ、語リに語ル」ノ如シ。
(六) 添フル意ナルハ、「月に村雲」花に嵐」ノ如シ。
(七) 「にて」に於て」ナドノ意ナルハ、「道に聽キテ途に説ク」朝に道ヲ聞きテ夕に死ストモ」ノ如シ。
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(八) 「の爲に」に因て」ナドノ意ナルハ、「花見に行ク」多キに驚ク」人手に死ヌ」人に撃タル」ノ如シ。
(九) 「に就きて」ナドノ意ナルハ、「行フに好シ」悟ルに易シ」ノ如シ。
○此外ニ、「明に」詳に」時に」遠クに」案ズルに」ナドノにハ、副詞ノ接尾語ト見タリ。 又、第三類ノ天爾波ニモ、にアリ。
(D)を 事物ヲ處分スル意ヲ示スモノニテ、必ズ、他動詞ニ係ル、「書を讀ム」字を記ス」飯を食フ」水を飮ム」ノ如シ。
○コレハ、羅甸ノAccusative,或ハ、英ノObjective case.(賓格)ニ當ツベキガ如シ。
又、自動詞ニ係ルモノハ、其意義、異ナリ、「國を去ル」人を別ル」ノ如キハ、よりノ意ヲナシ、「路を行ク」門を過グ」ノ如キハ、其動作ノ行ハルル地位ヲ示スマデナリ。(第三類天爾波ニモ、感動詞ニモ、をアリ)
(E)と 指ス所アル天爾波ニテ、其意義、數種アリ。
(一)指定スル意ヲ示スモノハ、「コレと定ム」ソレと思フ」ノ如シ。
又、一文、一句ヲ、名詞ト見テ承クルハ、「雪降ル、と見ル」人ハ無シ、とイフ」我ハ行カジ、と思フ」アリヤ、と問フ」無キカ、と疑フ」ノ如シ。
又、「此[ココ]ニ、と」是レヲ、と」我ハ、と」彼ゾ、と」斯く、と誰がいふ」忘草、何をか種、と思ひしに」ナド用ヰルハ、畧文、畧句ヲ承ケタルナリ。
(二) 「の如く」ノ意ナルハ、「雪と散ル」霜と消ユ」此川に、紅葉[モミヂ]と浮きて、さしかへる」月日のみ、流るる水と、早ければ」ノ如シ。
(三) 「として」ノ意ナルハ、「花と見ル」霜と置ク」ノ如シ。
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(四) 又、重用スル動詞ノ間ニ入リテ、またノ意ヲナスコトアリ「アリとアル」秋風の、吹きと吹きぬる」山の端に、入りと入りぬる、月なれば」ノ如シ。
此語、動詞、形容詞、助動詞ヲ承クルトキハ、其直説法、又ハ、命令法等ノ、意ノ切ルル所ヲ承クルヲ則トス。 サレバ、「落つ、とは見れど、音の聞えぬ「黒鳥の下に、白波を寄す、とぞいふ」海賊、追ひ來[/ク]、といふ」濡[ヌ]る、とは無しに」心憂し、と宣ふ」日は暮れぬ、と思ふは云云」ナド、尋常直接法ヲ承クルヲ通則トシテ、扨、又、「花ゾ落ツル、と」花コソ落ツレ、と」花落チヨ、と」ナド、ぞやかノ直説法、こそノ直説法、命令法等、皆、其意ノ切ルル所ヲモ承ク。(但シ、「恨みて歴る、と、人や見るらむ」出づる、とも、入る、とも見ゆる」一聲に、明くる、と聞けど、時鳥」ナド用ヰルハ、間ニアルベキ名詞ヲ畧ケル筆法ナリ、混ズルコト勿レ)
此語、又、上畧ノ筆法ニテ、語句ノ首ニ用ヰルコトアリ、「と見、斯[カ]ウ見[ミ]」トモスレバ」とニ斯クニ」とバカリ思フ」ノ如シ、是等、皆、上ニアルベキ語句ヲ畧ケルナリ。
○副詞ノ接尾語ニ用ヰル「ほとほとと叩ク」からからと笑フ」ナドノとモ、指定スル意アリ、此條ノとヨリ出デタルモノナリ。
○と 是ハ、指定スル意ハ、前項ノとニ同ジケレドモ、用法ハ甚ダ異ニシテ、語句ヲ並ブルコト、接續詞ノ如シ。(漢字ノ與ノ字ニ當レリ、) 而シテ、全ク上ノ語ニ附着シテ、下ニ、再ビ、第一類ノ天爾波ヲ履ム。 例ヘバ、「鄒と魯と戰フ」月と花とノ眺メ」内と外とニアリ」彼と此とヲ比ベテ」京と難波とヘ趣カムト」ナドノ如シ。 又、「書ヲ讀ムと字ヲ書クと」嬉シキと悲シキと」疾く明けぬると遲く暮るると」ナド用ヰルハ、例ノ名詞ヲ畧ケルナリ。 又、數語ヲ連ネテモ用ヰル、「流れ木と立つ白波と燒く鹽と」ノ如シ。
○此ノとハ、幾語重ナリテモ、必ズ加フルヲ則トス。 然ルニ、二語以上ナルヲバ、常ニ畧スルコトアルハ、非ナリ。 例ヘバ、「鹽酸と硫酸ノ鹽類ヲ注グ」ナド記ストキハ、「鹽
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酸と硫酸ノ鹽類とヲ注グ」ノ意トモナリ、「鹽酸ノ鹽類と硫酸ノ鹽類とヲ注グ」ノ意トモナリテ、大ナル誤ヲ生ズベシ。
(F)ヘ 方向[ムキ]ヲ示ス天爾波ナリ。 例ヘバ、「前ヘ進ム」左へ向フ」奥へ深シ」西へ長シ」ノ如シ。 此ヘハ、方向ヲ示スモノニテ、前ノにノ地位ヲ示スモノト別ツ。 一文中ニテ用ヰ分ケタルハ、「僧正遍昭が許に、奈良へまかりける時」但馬の國ヘまかりける時に、二見の浦トいふ所にとまりて」ノ如シ。
○此ノへトにトヲ混用スルコトアリ、心スベシ。 サレバ、「前に進ム」左に向フ」ハ非ナリ、「前ヘ進ム」左へ向フ」ナルベシ。(方向) 又、「山ヘ登ル」舟ヘ乗ル」ハ非ナリ、「山に登ル」舟に乗ル」ナルベシ。(地位) 然レドモ、にノ方ハ、方向ニ用ヰタルコト無キニシモアラズ、「東[アヅマ]の方に行きて住む所求むとて」陸奥[ミチ]の國にすずろに行き至りにけり」下野にまかりける女に」竹生島にまうで侍りける時に」ナドアリ。 サレバ、へハ、方向ニ限リ、にハ、地位ニモ、方向ニモ通ハシ用ヰルトスベキカ。
(G)より から 共ニ、二ツノ間ニ移リ行ク意ヲ示スモノニテ、地位ニモ時ニモイフ。(漢字ノ自從等ノ字ニ當ル、)
「人より受ク」敵より奪フ」彼方より來ル」後より襲フ」天より地ニ落ツ」夫レより程歴テ」去年[コゾ]より今年マデ打續キテ」ノ如シ。 又、下、名詞ニ接スルモアリ、「此處[ココ]より東ノ方ハ」咲き初めし時より後は」ノ如シ。
「明日[アス]からは若菜摘まむと」明けぬから船を引きつつ上れども」時鳥、まだ鳴かぬから待たるべらなる」ノ如シ。(ゆゑえにノ意ナルからハ、コレト異ナリ、ソハ、接尾語ノ中ニ収メタリ、)
○コレハ、羅甸ノ Ablative case.(奪格)ニ當ツベキカ。 次ナルハ、英ノ前置詞ノ Than ノ意ナリ。
○より 是ハ、比ベテ科[シナ]ヲ定ムル意ヲ示シテ、前ノよりト異ナリ、「山より高シ」コレより善シ」命より惜シ」彼より後ル」ノ如シ。 又、「かねてより」今までよりも」獨見むより人と見む」憂きはものかは戀しきよりは」ナド用ヰルハ、間ニ語句ヲ省ケルナリ。 又、下、名詞ニ接スルアリ、「花より先と知らぬ」我身は鳥より先に鳴き始めつる」ノ
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如シ。 又、意義、一轉シテ、其物事ニ限ル意ヲナス、「我より外に人あらじ」「風より外に訪ふ人も無し」ノ如シ。 更ニ、畧シテハ、「枕より、(外ニ)また、知る人も無き戀を」ノ如シ。
(H)まで 至リ及ブ意ヲ示スモノナリ。 例ヘバ「筑紫までまかる」都まで送りまうして」行先の事まで思[オボ]し知らして」ノ如シ。 又、意、稍轉ジテ、さへノ意ヲナスコトアリ、「天の川冬は空までこほるらし」跡まで見ゆる雪のむらぎえ」ノ如シ。 また、「至る程に」ノ意ヲナス、「斯くまで精しき」さまで思はば」花と見るまで雪ぞ降りける」月と見るまで降れる白雪」物や思ふと人の問ふまで」ノ如シ。(是ハ、間ニ、程トイフ語ヲ畧シタルニテ、即チ程ノ意ヲナスモノナルベシ。)
○第二類 此類ノ天爾波ハ、上ニ、各種ノ語ヲ承ケテ、其意ヲ、下ナル動詞、形容詞等ニ通ズ。 其承クル所ノ語、一定セザレドモ、亦、慣用ノ用法アリテ、妄リニ承クベカラズ。 左ニ、逐條ニ、其意義ヲ釋キ、且、其用例ヲモ、若干、掲グベケレバ、其承クル所ノ種種ナルヲ見ルベシ。
(I)は 事物ヲ、各自ニ差別スル意ノモノナリ。
「人は去リ、我は留ル」柳は緑ニ、花は紅ナリ」見ルは善シ」行キはセズ」善キは取ラム」樂シクは思フ」學バムは好シ」行カズはアルベカラズ」取リテは見ム」斯クマデは無シ」然はアレド」如何はセム」是ヨリは高シ」我コソは見メ」京ヘは行カム」我ノミはアリ」花トは見ム」(感動詞ニモはアリ、混ズベカラズ、)
○ば 音便ニテ、前項ノはヲ濁ルモノナリ。
「コレヲば取ラム、カレヲば捨テム」行カズンばアラズ」爲[セ]ズンばアルベカラズ」ノ如シ。(第三類天爾波ニモばアリ)
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(J)も 事物ノ同ジ状ナルヲ並列スル意ノモノニテ、接續詞ノ如シ。(漢字、亦ノ字ニ當ル)
「をととしも、こぞもことしも、をととひも、きのふもけふも、吾が戀ふる君」行クもアリ、歸ルもアリ」行キもセズ、歸リもスマジ」長キもアリ、短キも見ユ」善クもアラズ、惡シクもナシ」父トも思ヒ、師トも仰グ」寐テも思フ」我ニも許セ」家ヘも歸ラズ」東ヨリも來ル」(感動詞ニモもアリ)
(K)ぞ 多クノ中ニテ一ツヲ指ス意ノモノナリ。(「夫[ソ]」ト指シテイフ語ノ濁レルナラム、「誰[タ]そ、な行キそ」ナド清ミテイフ語モ、即チ是レナラム) 此語ノ文中ニ入ルトキハ、其文末ノ動詞、形容詞、助動詞等ノ結法[ムスビ](Conjugation.)ニハ、必ズ其第二變化ヲ用ヰルコト、左ノ用例ニ就キテ知ルベシ。(前ノ動詞、形容詞、助動詞ノ各條ノ表ヲ參見セヨ)
「花ぞ落ツル」月ぞ澄メル」行クぞ善キ」行キぞワヅラフ」長キぞ勝[マサ]ラム」早クぞ過グル」然[シカ]ぞ覺ユル」コレヲぞ取ルベキ」我ガ世トぞ思フ」見テぞ知ル」見テモぞ思フ」我ハぞ戀フル」西ヘぞ行カム」袖サヘぞ照ル」去年[コゾ]ヨリぞ見シ」
又、指シ示ス意ニテ、言語ノ末ニ居ルコトアリ。
「思ふがごとは、思ふらむや、ぞ」斯くあるは、世のつねぞ」物思ふころぞ」思ふばかりぞ」妹待つらむぞ」鳴きわたらむぞ」
又、同ジ用法ナレド、上ニ疑フ語アルトキハ、詰問スル意トナルアリ。
「誰れ聞けと、鳴くかりがねぞ」言フハ如何ニぞ」何トスルモノぞ」誰ガ子ぞ」(誰[タ]そ、ト清ムモ、コレナリ)
○し ぞニ似テ、指ス意アリ。 用法、古シ。
「神し知らなむ」道し無ければ」歎きしまさる」獨し寐[ヌ]レバ」猶し慕[シヌ]ばゆ」今し散るらむ」身にしあれば」散らでし止ま
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るものならば」國はしも、さはにはあれど」無きにしもあらず」待ちにし待たむ」舟をしぞ思ふ」音のみし泣[ナ]かゆ」かかれとてしも」我とし言へば」(過去助動詞ノきノ變化ノしト紛ヒ易シ、心スベシ)
但シ、其下ヲ結ブ動詞、形容詞、助動詞ハ、常ノ如ク、第一變化ヲ用ヰルコト、ぞニ異ナリ。(前ノ用例ヲ見ヨ) 又、「時しもあれ」今日[ケフ]しもあれ」ナド用ヰタルガアルハ、あれノ上ニ、こそヲ省ケルナルベシ。 又、「今しはし」斯くのみし戀ひしわたらば」ナド、重用セルモアリ。
○此ノしヲ、從來、「休メ詞」ナド稱シテ、意無キ天爾波トセルハ、誤ナラム、指ス意アリテぞニ似タルコト、前ノ用例ヲ味ヒテ知ルベシ。 歌ノ五文字ノ句ニ、「身にしあれば」ナド加フルコト常ナルガ、コレ、不用ノ語ナラバ、「字餘リ」ニ加フルニ及ブマジ、必ズ、其意義ヲ添ヘズシテハ、カナハヌ塲合ナレバ、加フルナルベシ。
(L)なむ ぞニ似テ、緩ク指ス意ノモノナリ。(此語、散文ニ多ク、歌ニハ少シ) 此語モ、文中ニ入ルトキハ、其末ヲ結ブ動詞、形容詞、助動詞、スベテ、其第二變化ヲ用ヰルコト、ぞニ同ジ。
「我なむ行くべき」これなむそれなる」無きなむまされる」善くなむ見ゆる」またなむ來[ク]べき」斯くなむある」風になむ散る」これとなむ定むる」人をなむ恨むる」遇はでなむ往[イ]ぬる」
○なも なむニ同ジ「神になもあるける」ナド用ヰル、是レナリ。
(M)こそ 多クヲ捨テテ一ツヲ取ル意ノモノナリ。(語源ハ、是[コ]ハ其[ソ]ナリ」トイフ程ノ意ナリト云、) 此ノ天爾波ノ、文中ニ見ハルルトキハ、其末ヲ結ブ所ノ動詞、形容詞、助動詞ノ直説法ハ、スベテ、其第三變化ヲ用ヰル。 左ノ用例ヲ見ルベシ。(尚、前ノ動詞、形容詞、助動詞ノ各條ノ表ヲ參見セヨ)
「人こそ見えね」路こそ無けれ」行くこそ好けれ」行きこそすれ」樂しくこそ覺ゆれ」貧しきこそ憂けれ」斯くこそ思へ」またこそ遇はめ」えこそ行かざれ」行きてこそ見め」花をこそ見れ」舟にこそ乗れ」ありとこそ見ゆれ」然[サ]もこそは見め」行\\59
かでこそあれ」さればこそ禁[トド]めつれ」相見むことをのみこそ思へ」人知れずこそ思ひそめしか」わか君をだにこそは形見とも見たてまつれ」
(N)だに 輕キヲ擧ゲテ、餘ノ重キヲ言外ニ引證スル意ナリ。(語源ハ、「唯ニ」ノ約ニモアラムカ)
「憂き身をば、我だにといとふ、いとへだた、そをだに同じ、心と思はむ」(新古)「夢のごと、なりにし君ヲ、夢にだに、今は見るだに、難くもある哉」(六帖)「母御息所は、かげだにおぼえ給はぬを」松の雪だに消えなくに」さらに、入れだに入れず」見だにおくり給へかし」今暫しだにおはせなむ」女御とだに言はせずなりぬる」鳥ニだに如[シ]カザルベケムヤ」
又、「蔓草だも猶除クベカラズ、況ヤ君ノ寵弟ヲヤ」ナドノだもハ、だにノ畧訛ナリ。
(O)すら やはりなほナドイフ意ナリ。(語源ハ、「夫[ソレ]」ノ轉ニテ、指ス意アルベシ」) サレド、中古ヨリハ、だにト同意ニモイヘリ。
「こととはぬ、木すらいもとせ、有とふを、ただひとり子に、あるが苦しさ」(万葉)「草木すら、春にはなべて、逢坂の」春日すら、長居しつると」我ガ身すら容レラレズ」
(P)さへ 重キガ上ニ、又、添ヒ加ハル意ニテ、(語源ハ、「添[ソヘ]」ノ轉カ、或ハ、「其上[ソノウヘ]」ノ約ナラムトモイフ)だにトハ、引證ニ、交互輕重ノ差アリ、混ズベカラズ。
「現[ウツツ]には、さもこそあらめ、夢にさへ、人目をもると、見るがわびしさ」(古今)「梓弓、おして春雨、けふ降りぬ、あすさへ降らば、若菜摘みてむ」(古今)「まけてはやまじの御心さへそひて」行交ふ人の、袖さへぞ照る」召[メシ]にさへおこたりつるを」涙をさへこぼして臥したり」
(Q)のみ 一アリテ二無キ意ヲイフ。
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「我のみ知ル」歎キのみシテ」思フのみナリ」好キのみ取ル」悲シクのみ思フ」サテのみアラムヤ」斯クのみアラバ」言ハデのみアルベキカ」家ニのみアリ」人ヲのみ頼ム」我トのみ知ル」前ヘのみ進ム」
漢籍讀[カンセキヨミ]ノ上ニ、「而已[ノミ]」耳[ノミ]」ナド訓ジテ言切ルハ、下畧ノ法ナリ、
(R)ばかり 意、粗、のみニ同ジ、(語源ハ、「量[ハカリ]」ニテ、量ノ限レル意ナラム)
「今日[ケフ]ばかりとぞ、田鶴も鳴くなる」我ばかりアリ」歎クばかりナリ」憂クばかり思フ」夫[ソレ]トばかり知ル」斯クばかりアラム」(ほどノ意ヲナスばかりハ、接尾語ニ入ル)
(S)や
(T)か 上ノ二語、共ニ指シテ疑フ意ノモノナリ。 此二語、文中ニ入ルトキハ、其下ヲ結ブ所ノ動詞、形容詞、助動詞ハ、共ニ、其第二變化ヲ用ヰルヲ定則トス。 左ノ用例ニ就キテ知ルベシ。(尚、前ノ動詞、形容詞、助動詞ノ各條ノ表ヲモ見ヨ)
「春や來[ク]る」花や咲く」月やは物を思はする」戀ひやわたらむ」行キやスル」惜しくやはあらぬ」白キや花ナル」知ラズやアル」斯クや思フ」花ヲや見む」人ニや遇ハム」生キモやスル」散ヲデやアルベキ」
「誰か見ルベキ」夫かアル」孰レか勝[マサ]レル」何處[イヅク]ニかアル」何處へか行カム」何ヲか取ル」何トかスベキ」四年[ヨトセ]バカリか歴ニケム」何時[イツ]マデか待タム」如何デか知ラム」
又、二語、共ニ、語ノ末ニ居テ言切ルコトアリ、多クハ、問掛クル意ヲナス。
「有リや」無シや」聲ハ聞[キコ]ユや」思ヒ出ヅや」夫ト言ハムや」來[コ]ムや來[コ]ジや」
「我か」人か」有ルか」無キか」聞ユルか」出ヅルか」
や、かノ、動詞、形容詞、助動詞ノ下ニ連ルトキハ、やハ、必ズ、其第一變化ニ連リ、かハ、必ズ、其第二變化ニ連ル
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ヲ定則トス。 前ノ用例、並ニ、下ノ表ニ因テ知ルベシ。 助動詞ハ、前ノ助動詞表〔第三表〕ニ就キテ、其第一變化ト、第二變化ト、ニ連子テ解スベシ。
○一言ノ動詞、助動詞ニハ、其別ヲ誤リ易シ。 「得[/ウ]や」得ルか」歴[/フ]や」歴ルか」來[/ク]や」來ルか」爲[/ス]や」爲ルか」行カずや」行カヌか」行キきや」行キしか」ナド、必ズ、其第一變化ト、第二變化ト、ヲ用ヰ分クベシ、「得ルや」歴ルや」來ルや」爲ルや」等皆非ナリ。 但シ、やノ第二變化ヲ承ケタルアラバ、ソハ、大抵、感動詞ノやナリト知レ。
○や、か、共ニ、感動詞ニ、同形ノモノアリ、注意スベシ。
又、や、か、共ニ疑フ意ノ語ナレド、上ニ、他ノ疑辭アルトキハ、例ヘバ、「畿何かアル」如何ニか思フ」何ヲか取ル」誰ナルか」何トスベキか」何處[イヅク]ニアルか」ナド、下ニ、更ニ、かヲ加フルハ常ナレド、斯ル場合ニ、やヲ加ヘタル用例、サラニ無シ、コレヲ異ナリトス。
○「幾何やアル」如何ニや思フ」何ヲや取ル」誰ナルや」何トスベキや」何處ニアルや」ナドハ、スベテ非ナリ。 但シ、「幾何ゾや」何カアラムや」ナドハ、感動詞ナリ、混ズベカラズ。
○第三類 此類ノ天爾波ハ、上、下、共ニ、動詞、或ハ、形容詞、助動詞ニ接ス、コレヲ動詞ノ天爾波ト泛稱スベシ。
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(U)と とも
(V)ど ども 此四語、共ニ、上ノ語ノ意ヲ翻スル天爾波ナリ。 と、ナルハ、「穗に出でたりと、かひや無からむ」あまたは寐ずと、ただ一夜[ヒトヨ]のみ」ノ如ク、どナルハ、「問へど答ヘず」逐へど去らず」ノ如シ。(皆、漢字雖ノ字ノ意ナリ) 此ノと、又ハ、どニ、もヲ合シテ、「穗に出でたりとも」あまたは寐ずとも」問へども」逐へども」ナド用ヰルコト、常ナリ。 此ノもハ、感動詞ノ如キモノナリ。 而シテ、とハ、今世、普通用ナラズ、一般ニハ、とも、ど、どもヲ用ヰル。
扨、此ノ天爾波共ハ、何レモ同意義ナレド、動詞ノ第一變化ニ連ルトキハ、清音ニテ、未定ノ意ヲ成シ、其第三變化ニ連ルトキハ、濁音トナリテ、既定ノ意ヲ成ス、是レ、其別ナリ。 例ヘバ、「受クとも」爲[/ス]とも」有リとも」ナドハ、未定ナルニイヒ、「受クレど」爲レど」有レども」ナドハ、既定ナルニイフガ如シ。 又、形容詞ニモ、其第四變化ト、第三變化トニ連リテ、未定ト既定トヲ別ツ而シテ、其意、全ク同ジ。 下ノ表ノ如シ。 又、助動詞モ、前ノ助動詞ノ條ノ第三表ニ於テ、其變化ノ動詞ニ似タルモノハ、(1ヨリ23マデ)其第一變化ニテともニ連リ、第三變化ニテどどもニ連リ、又、形容詞ニ似タルモノハ、(24以下)其第四變化ニテともニ連リ、第三變化ニテどどもニ連リテ、各、未定、既定、ノ別ヲ成スコト、正ニ、動詞、形
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容詞ニ同ジ。 第三表ニテ、連續セシメテ、解スベシ。
○「受クとも」爲[/ス]とも」有リとも」ナドナルベキヲ、動モスレバ、「受クルとも」爲ルとも」有ルとも」ナド用ヰルハ、非ナリ、或ハ、とヲ畧シテ、「受クルも」爲ルも」有ルも」ナド用ヰ、又、或ハ、「善クとも」惡シクとも」ナルベキヲ「善クも」惡シクも」ナド用ヰルハ、愈、非ナリ、注意スベシ、もノミニテハ、雖ノ字ノ意ヲ成サズ。
(W)が に を 三語、共ニ、思フニ違ヒテ意ノ反ル意ヲイヒ、皆、動詞、形容詞、助動詞ノ第二變化ニ連ル。
「四尺の屏風云云立てたるが、上より見ゆる穴なれば、のこるべくもあらず」(宿木)「春とはなりつるが、空はまだ寒きに」
「庭の面は、まだかわかぬに、夕立の、空さりげなく、すめる月哉」(新古今)「ただ後れじと思ひつるに、人目も知らずはしられつるを」(枕草子) 「つひに行く、道とはかねて、聞きしかど、きのふけふとは、思はざりしを」(古今)「行かじと思ふを、いかでさはいふぞ」かくまであるを、むげに失はむは本意ならず」
(X)て 事、終ハリテ、後ニ移ル意ヲイフ。 例ヘバ、「春過ぎて、夏來たるらし」雨降りて、地固マル」日暮レて、路遠シ」ノ如シ。(漢字ノ而ノ字ニ當ル) 此語ハ、過去ノ助動詞ノつノ第五變化ナルてナレド、稍、趣ヲ變ズル所アリテ、接續詞ノ如クニモ用ヰラルレバ、別ニ掲ゲテ、天爾波ニ列ネタリ。 又、形容詞ノ第五變化ニ連ネテ、「水、近クて、風凉シ」心、嬉シクて、獨リ笑ム」ナドイヒ、打消ノずニモ連ネテ、「君來[コ]ずて、年は暮れにき」ナドイフハ、皆、其間ニありヲ畧セルナルベシ。
○左ノ數語ハ、此條ノてヲ、他語ト重用スルモノナルガ、慣用、久シクシテ一ノ天爾波(或ハ接續詞)ノ如クナレリ。 類ヲ以テ、此ニ列ヌ。
にて 第一類天爾波ノにト、助動詞ノつノ變化ノてトニテ、其間ニ畧語アルナリ。 「に於て」ナドノ意ナルハ、「京にて遇フ」田舎にて見ル」 「に因て」ナドノ意ナルハ、「筆にて書ク」水にて洗フ」 「にアリて」ナドノ
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如キハ、「頭ハ人にて身ハ魚ナリ」家ハ昔にて人ハアラズ」 「に爲シて」ナドノ意ナルハ、「月影ヲ、色にて咲ケル、卯ノ花ハ」ノ如シ。
して 「ありて」て」ノ意ナルハ、「長クして細シ」斯クして別ル」巧ニして速ナリ」答ヘズして去ル」「もて」にて」ノ意ナルハ、「米[ヨネ]して返リ事ス」飯粒[イヒボ]して鯛釣ル」人ヲして送ラシム」二人して、結ビシ帶ヲ、一人して」
にして 「にありて」にて」ノ意ナリ。 「都にして遇ヒケル人」人にして鳥ニ如[シ]カザルベケムヤ」
とて 第一類天爾波ノとト、助動詞つノ變化ノてトノ間ニ、畧語アルナリ。 「と言ヒて」ナドノ意ナルハ、「サリとて」アレバとて」 「と思ヒて」ナドノ意ナルハ、「花見ニとて出デ立ツ」書ヲ讀マムとて机ニ凭ル」
(Y)で 打消ノ助動詞ノずト、前條ノてト約マレルナリ。 サレバ、動詞ノ第四變化ニ連ルコトずニ同ジ。 「行カでアリ」歸ラでアラナム」ノ如シ。
(Z)つつ 過去ノ助動詞ノつヲ重用スルモノニテ、動詞ヲ「行ク行ク」泣ク泣ク」ナド重用シテ副詞トスルト、用法同ジ。 例ヘバ、「行キつつ見ル」雪ハ降リつつアリ」ハ、「行キつ」行キつ見ル」降リつ降リつアリ」トイハムガ如シ。
○
第一類ナル名詞ニ屬[ツ]ク天爾波ハ、羅甸名詞ノ格トイフモノニ似タリ。 羅甸名詞ノ格ハ、語尾ノ變化ニテ成レリ、我ガ第一類天爾波モ、名詞ノ語尾ノ變化ト見テ、之ヲ格ト立テムモ可ナルガ如シ。 サレド、我ガ天爾波ニハ、意義ニ異樣ナルモノモアリテ、羅甸ノ格ト合ハヌモ多ク、縱ヒ合ハズトモ、我ハ我ニテ、名詞ノ格ヲ、特ニ數種ニ創制セムモ然ルベケレド、扨、其夥多ナル意義ノアル限リ、悉ク之ヲ格ト立テムモ、妥當ナラザルヲ覺ユ。 且、羅甸ノ格ノ變化ハ、名詞ノ種類ニ因テ、其體ヲ異ニスルモノモアリテ、固ヨリ離ルベカラザルモノナレバ、(殊ニ、餘國ノ名詞ノ、格ヲ示スニ形ナク、無形ノ地位ニテ、則ヲ立ツルモノノ如キハ、)名詞ニ就キテ、類ヲ以テ規定
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ヲ立ツルモ、其理ナレドモ、我ガ天爾波ニハ、特ニ一定ノ成形アリテ、且、何レノ名詞ニモ一樣ニ接スベク、コレヲ名詞ノ語尾變化ト見テモ、何レノ名詞モ、其變化ハ、が、の、に、を、と、へ、より、まで等ニテ、千篇一律、サラニ異樣アルコトナシ。 サレバ、羅甸ノ格ハ、足ノ如ク、其名詞ニ生得シテ、離ルベカラズ、我ガ天爾波ハ、履ク如ク、脱シテ衆ニ通用スルコトヲ得ベシ。 且、コレヲ別語トスル方、其意義ヲ説クニ、錯雜ヲ避クルコトヲ得テ、教フルニモ、學ブニモ、共ニ便捷ナルガ如ク思ハル、因テ、今ハ本文ノ如シ。
第二類天爾波ハ、洋語ニテ言ヘバ、副詞ニ似タルモアリ、前置詞、接續詞ノ趣ナルモアリ、或ハ、名状スベカラザルモアリ。 然レドモ、其文中ニ立チテ、上ニ種種ノ語ヲ承ケ、下ハ動詞、形容詞等ニ係リテ、其意義ヲ達スルコトハ、何レモ、畧、同趣ナルモノニテ、サラニ相別チ難シ。 此一類ノ語、實ニ、國語ノ言類中ニテ、一種殊樣ノモノタリ。
第三類ノ天爾波ハ、上下、皆、動詞、形容詞、助動詞ニ係ルモノニテ、スベテ、其接續法ト立テムモ、可ナルモノノ如シ。 然レドモ、尚分離シテ、何レノ動詞、形容詞、助動詞ニモ、通用連続セシムベキコトハ、第一類ノ如シ。(篇中、此類ノばヲ、獨リ別ニ接續法ト立テタルハ、動詞、形容詞、助動詞ノ其變化ニ着キテ、離ルベカラザル語姿ナレバナリ。)
扨以上三類ノ語ハ、皆、固ヨリ、獨立ニハ用ヰラレズ、而シテ、其他語ニ係ル規定ニ差異コソハアレ、其語姿ノ成立ヲ概見スルニ、三類共ニ、究竟、同臭味ノモノタリ、 因テ、今ハ、類ヲ以テ別チテ、天爾波ノ一部門ニ總ベタリ。
○本文、天爾波ノ外ニ、ながら、がてら、がてに等、從來、天爾波中ニアリシモノ、尚アリ、是等、本篇ノ類別ニ從ヘバ(種種ノ語ニ屬[ツ]クモノナレバ)第二類中ニ入ルベキニ似タレド、今ハ、甄別シテ、接尾語中ニ收メタリ。 サルハ、第二類ノ天爾波ハ、其語、全ク上下ノ語ニ粘合セズシテ、試ミニコレヲ文中ヨリ加除セムニ、唯、其語ニ有[タモ]テル意義ノ加除アルノミニテ、原文、サラニ移動スルコト無ク、上下、ソノママ連絡シ、依然トシテ文ヲ成スベシ、前ニ掲ゲタル例語例句中ニ就キテ、加除シテ、試[ミ]バ、必ズ其然ルヲ知ラム。 然ルニ、ながら、がてらノ類ハ、全ク其上ナル語ニ粘合シテ、語勢ヲ變ゼシメ、之ヲ加除セムトスレバ、原文ニ移動ヲ起サザルヲ得ズ、是レ其別ナリ、尚、後ノ接尾語ノ條ヲ見ルベシ。
感動詞(詠歎)
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感動詞[カンドウシ]ハ、喜怒哀樂等、凡ソ、人情、感動スル所アリテ發スル聲ナリ。 例ヘバ、「あら喜バシ」最[イト]モ畏[カシコ]シ」悲シキかな」ナドノあらもかなノ如ク、スベテ、其言ヲ述ブルノミニテハ、意ヲ盡サザルニ添ヘテ、發スルモノナリ。
感動詞ハ、汎[ヒロ]ク種種ノ感情ニ通ジテイフアリ、專ラ一感情ニ局[カギ]リテイフアリ。 其用法モ、言語ノ上ニ立ツアリ、中間ニ入ルアリ、下ニ添フアリ、而シテ、他語ニ連續スルニ就キテ、亦、各、一定ノ慣用法アリ。 左ニ感動詞ノ著キモノヲ擧ゲテ、其用例ノ若干ヲ示サム。
○言語ノ上ニ立ツモノハ、
あ ああ 「ああかしこしや」
あら 「あら熱[アツ]や」あら無慚[ムザン]や」
あな 「あなうらやまし」あな苦し」あなかしこ」
あはれ 「あはれあなおもしろ」あはれ、さも寒き年哉」
いで 思ヒ起ストキニ發ス。 「いで我を、人なとがめそ」いで御消息聞えむ」いで何ぞ、とて取りて見れば」
いざ 誘ヒ立ツルトキニ發ス。 「鏡山、いざ立寄りて、見て行かむ」いざ汲みて見てむ、山の井の水」いざ櫻、我も散りなむ」いざさせたまへ」
やよ 呼ビカクル聲ノやトよトヲ重ネテイフナリ。 「やよ如何に、行方[ユクヘ]も知らぬ」やよいづかたへ、行きにけむ」やよや待て、山時鳥、言傳[ことづ]てむ」
○言語ノ中間、或ハ下ニ入ルモノハ、
も 「からくも我は、老いにける哉」玉にもぬける、春の柳か」世ははやも、春にしあれや」ひとりかも寐む」雪かも降れる」移り
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も行くか」知らずもあるかな」いとも畏[カシコ]し」家やもいづく」花とやも見む」またも來[コ]む」時しもあれ」無きにしもあらず」
草のはつかに、見えし君はも」いやとほざかる、我身かなしも」三笠の山に、出でし月かも」人は來[コ]ぬかも」枕さびしも」忘れかねつも」行方[ユクヘ]知らずも」春立つらしも」
や 「花とかや見む」年はや歴なむ」否[イナ]や思はじ」取りやかはさむ」戀ひやわたらむ」夢路にさへや、生ひ茂る」我はもや、やすみこ得たり」
「ありがたの世や」あなあやにくの、春の日や」行きぬとかや」行きけるぞや」吾嬬[アヅマ]はや」立つを、暫しや。と召しよせて」大原や。をしほの山」更科や。姥捨山」難波津に開[サ]くや。この花」時鳥、啼くや。五月の」
いとやすらかなる御ふるまひなりや」耳馴れ侍りけりや。と聞え給ふ」いみじくぞあるや」にほひぞ人に似ぬや。と打ちささめきて」あじきなや」惜むともかたしや」恨みつべしや」思[おぼ]しやる方ぞ無きや」
○動詞、形容詞、助動詞ノ第二類天爾波ノや(疑ヒノ)ノ下ノ結法[ムスビ]トナルハ、必ズ、其第二變化ヲ用ヰ、又、之ニ反シテ、其やノ、動詞、形容詞、助動詞ノ下ニ屬[ツ]クトキハ、必ズ、其第一變化ニ屬クヲ規定トスルコト、前ニモ述ベタルガ如シ。 サルニ、此條ノやハ、其塲合ニ因リテ、種種ナリ、是レ、天爾波ノやト感動詞ノやトノ別ナリ。 尚、善ク用例ヲミテ覺ルベシ。
言ヒカクル意ナルハ、(よノ如し)「匂[ニホ]ふや馨[カヲ]るやと」みな人は、花や、蝶や。といそぐ日も」海賊や。といひて、扇を投げすて」行ケや」打テや」
接續詞ノ如ク用ヰルハ、「簫や琵琶や、笙の笛、篳篥など、吹きあはせたるは」
反語ニ用ヰルハ、「思ひきや」ひとり行かむや」況やコレヲ(言ハムヤ)ヤ」人ニシテ鳥ニダニ如[シ]カザルベケムヤ」
又、「行かば、や」見ば、や」ナドハ、間ニ「よからむ」ナドイフ語ヲ畧シタルニテ、即チ、希フ意ヲナス。
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を 古キ感動詞ナリ、「年頃を、住みし所を、名にし負へば」昔も今も、知らずとを言はむ」香をだににほへ」濡れてを行かむ」心にを思へ」苫をあらみ」瀬をはやみ」
「その八重垣を」妹待つ我を」月夜清きを」船わたせを。と呼ぶ聲の」
○言語ノ下ニ添フモノハ、
か 「玉にもぬける、春の柳か」空蝉の、よにも似たるか。櫻花」のどかにもあるか」
かな 前ノ「か」ニ、「な」ヲ重用シタルモノ。 「夜半の月かな」水の聲かな」年を歴るかな」見ゆるかな」樂しきかな」のどかなるかな」思はるるかな」 以上、動詞、形容詞、助動詞ニ添フトキハ、必ズ、其第二變化ニ添フ。
かし 念ヲ推シテイフ意ノモノ。 「さばかりぞかし」見ゆるぞかし」
見ゆかし」聞[キコ]ゆかし」いとよう覺えたりかし」難かるべしかし」あはれなりかし」さは思ひつかし」打ちひそみぬかし」行き給ひけむかし」知らずかし」さるけはひもありきかし」思ふ心の、殘るらむかし」おほやけの世繼とぞ言ひ侍りしかしな」斯くぞ覺え侍るかし」絶えずなむおはしますめるかし」えこそせざれかし」思ひ知れかし」疾[ト]く行[ユ]けかし」いざたまへかし」 三種ノ直説法[/ムスビ]、命令法等、スベテ、語句ノ切レタル後ニ添フ。
な 「彼ぞ聟の少將な」蝉の聲、聞けばかなしな」恨みつべしな」我は戀ひむな」忘れじな」知らずな」契りきな」移りにけりな」惡[ニク]しとこそ思ひたれな」心憂くてこそおはしたれな」いくそと問へな」老いにけるよな」去りたるよな」
は 「いかがはせむは」風、あらあらしう吹きたるは」かくるるまでに、かへり見しはや」
又、疑ヒノやかニ添ヘテ、反語ニ用ヰルハ、「我れ鶯に、おとらましやは」再びとだに、來[ク]べき春かは」思ひはつべき、涙かは」
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よ 呼ビカクル聲。 「月よ」花よ」我こそ、人よ」こころぼそさよ」行ケよ」鳴ケよ」物wo思ふよ」忘れで待ち給へよ」高砂うたひしよ」人の知らぬよ」忘れずよ、またかはらずよ」 又、「我はよ」妹はよ」夢かとよ」頃かとよ」ンドハ、間ニ語ヲ畧セルナリ。
が 專ラ希フ意ニイフ。 「老いず死なずの、藥もが」あな戀ひし、今も見てしが」伊勢の海、あそぶ海士[アマ]とも、なりにしが」
がな 前ノがニ、なヲ重用シタルモノ。 「妻呼ぶ聲を、聞きしがな」得てしがな」見る由もがな」長くもがな」無くもがな」
がも 前ノがニ、もヲ重用シタルモノ。 「常にもがもな」人にもがもや」
ゑ 古キ感動詞ナリ。 「我はさぶしゑ」我は待たむゑ」
感動詞ニハ、重用スルモノ多シ、「やよ」かな」がな」がも」等ハ、前ニ擧ゲタルガ如シ。 其他、「あなや」いざや」いでや」やよや」行けよや」いつはなも」見せばやな」老いにけるよな」常にもがもな」人にもがもや」かくるるまでにかへりみしはや」今更に雪降らめやも」ナド、擧グルニ勝ヘズ。
尋常ノ語モ、感情ニ發シテ、感動詞トナルコトアリ、「こは」こはそも」いかに」こはいかに」さても」ノ如シ。
○「行かばや」見ばや」ノ類ノ「ばや」ヲ、從來、別ニ一語トセリ、サレド、「行かば」見ば」ハ、接續法ノ將然ニシテ、其間ニ、「よからむ」ナドイフ意ヲ略シテ、希望ノ意ハ、其略セル語ニアルナルベシ、因テ、本篇ニハ、やノ條ニ収メタリ。 又、「おとらましやは」來[ク]べき春かは」ナドノ「やは」かは」ヲモ、一語トセルガ多ケレド、是等ノや、かハ、疑フ意ノ天爾波ノや、かニテ、其下ノは、もノ方ニ、反語トナル意アルモノナラム、又、「ひとりかも寐む」出でし月かも」ナドノかモ、疑フかニテ、もニ感情アルナリ、因テ、是等モ、皆、は、もノ條ニ入レタリ。
○副詞ノな、天爾波ノが、を、は、も、や、か等ニ、感動詞ト同形ノモノアリテ、動モスレバ混淆ス、注意スベシ。
○
○此篇ニ感動詞トイフモノ、從來ノ語學書ニハ、「詠嘆ノ詞」或ハ「ながめ」ナド稱シテ、スベテ、天爾波ノ中ニアリ、サレド、別ニ自ラ一類ノ語ナレバ、此ニ集メテ、一門ニ
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立テタリ。
○洋文典ノ譯語ニ、嘆息詞、(Exclamation.)或ハ、間投詞、(Interjection.)ナドイフモノ、即チ感動詞ナリ。 其間投トイフハ、言語ノ間、所在ニ投ゲ入ルベキモノナレバナリ。(投間詞[トウカンシ]ナルベシ) サルニ、我ガ感動詞ハ、言語ノ上ニ居リ、中ニ入リ、下ニ添フナド、其用法ニ、各、規定アリテ、而シテ、他語ニ移動ヲ及ボスコトモ少カラズ、宜シク慣用ノ法ニ從フベシ、妄リニスベキニアラズ。
枕詞
枕詞[/マクラコトバ]ハ、言語ヲ一種異樣ニ用ヰルモノニシテ、其用法ハ、某[ソレ]ノ語ヲ言ヒ出デムトスルトキ、他ノ某ノ語ヲ冠セシムルモノナリ。 例ヘバ、山、引く、黒き、ナドイフ語ヲ言出ヅルトキ、其上ニ、「足引の山」梓弓引く」ぬばたまの黒き」ナド置クガ如シ。
枕詞ハ、古代ノ用語ニシテ、其用ハ、專ラ歌ノ口調ノ足ラザルヲトトノヘムトスルニ起リテ、且ハ、言辭ヲ飾ルモノナリト云フ。 然レドモ、諸ノ言語、皆、枕詞ヲ、冠セシムベキニアラズ、諸ノ言語、皆、枕詞トシテ用ヰルベキニアラズ、某[ソレ]ノ語ニハ、某[ソレ]ノ語ヲ冠スト、自ラ局[カギ]レル所アリ、足引のトイフ枕詞ハ、山トイフ語ニ用ヰ、ぬばたまのトイフ枕詞ハ、黒きトイフ語ニ用ヰルナドニテ、其所用モ、唯、其冠スベキ語ニ係ルノミ、他語ニハ關セズ、又、之ヲ用ヰルト用ヰザルトハ、其塲合ニ因ルノミニシテ、一定ノ則アラズ。 而シテ、古代ノ用語ナルガ故ニ、其意義詳ナラザルモノモ多シ。
枕詞ノ意義ハ、解スベキト、解スベカラザルトアリ、「高光る日」天飛ぶや雁」刈菰の亂る」梓弓引く」玉櫛笥開[ア]く」管の根の長き」ナドハ、其意義知ラルベシトイヘドモ、「久方の天」玉鉾の道」足引の山」百敷の大宮」ナドハ、強ヒテ解キタルモアレド、諸説區區ニシテ、到底、定メ難ク辨ヘ難シ、サレバ、深ク意義ヲ求メズシテ、唯、某ノ枕詞ハ、某ノ語ニ用ヰルモノトノミ知リテ、先ヅハ事足リヌベシ。
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枕詞ハ、多クハ、上古ノ用ヰニ出デテ、降リテモ、奈良ノ朝ノ頃ニ、言ヒ出デタリト見ユルモ少シ。 今ニ傳ハルモノ、其數、數百アリ、而シテ、今世ニ在リテモ、和歌ニハ、專ラ之ヲ用ヰレドモ、文章ニハ、其體ノ古キモノニノミ用ヰル。
○枕詞ヲ冠スルハ、名詞、動詞、形容詞、副詞ニ限ルガ如シ。 名詞ニ係ルモノハ、「久方の天」あらがねの土」たらちねの母」ちはやぶる神」百敷の大宮」玉鉾の道」あらたまの年」ノ如シ。 動詞ニ係ルモノハ、「天雲のたゆたふ」刈菰の亂るる」篠の目の忍ぶ」梓弓引ク」玉櫛笥開[あ]ク」ノ如シ。 形容詞ニ係ルモノハ、「ぬばたまの黒き」眞木柱太き」管の根の長き」ノ如シ。 副詞ニ係ルモノハ、「しののめのほがらほがらと」つがの木のいやつきづきに」ノ如シ。 又、數語ニ通用スルアリ、梓弓ハ、引く、張る、射る、本、末、等ニ用ヰ、十寸鏡[/マスカガミ]ハ、照る、磨く、清き、等ニ用ヰ、玉櫛笥ハ、開[/ア]く、蓋[/フタ]、奥[/オク]、等ニ用ヰルガ如シ。 又、地名ニ係ルモノハ、「空見つ大和」鶏が鳴く東[アヅマ]、細波[/ササナミ]や滋賀」神風[/カムカゼ]の伊勢」あをによし奈良」ノ如シ、此類、尚、多シ。
○枕詞ハ、一語、五音ノモノ、最モ多ク、上ニ列擧セルモノニ就キテ知ルベシ、希ニハ、三音、四音、又ハ、六音ノモノアリ。 三音ナルハ、「千葉の葛野[カドノ]」ナドナリ、四音ナルハ、「空見つ大和」押照る難波」不知火筑紫」新治[/ニヒバリ]筑波」春日[/ハルビ]のかすが」名細[ナグハ]し吉野」ナド、尚、アリ。 六音ナルハ、「木[/コ]の暮闇[/クレヤミ]卯月」牡牛[/コトヒウシ]の三宅」櫂[/カヂ]の音[/オト]のつばらつばらに」ノ如シ。
かきくらし雨ふる川」、みなと入りの廬分小舟さはり多み」、波間より見ゆる小島ものはまひさ木久しくなりぬ」、足引の山鳥の尾のしだり尾の長長し夜」、ナド、十餘音ニモ餘レルヲモ、枕詞トスル説モアレド、是等ハ、詩ニ謂ハユル興比ノ體ニテ、枕詞ニハアラジ。 又、「吾妹子[ワギモコ]に、衣かすがのよしき川、よしもあらぬか、妹が目を見む」、是等モ、「吾妹子」ヲ枕詞ナリトイヒ、或ハ、「吾妹子に衣」マデヲ枕詞ナリトモイヘド、然ルトキハ、「よしき川」ヲモ、「よしもあらぬ」ノ枕詞トセズハアルベカラズ、是等
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○枕詞ヲ畧シテ用ヰルコトアリ、「久方の(天ノ)星」ぬばたまの(黒キ)夜」足引の(山ノ)木[コ]ノ間」足引の(山ノ)嵐吹く夜」ノ如シ。 また、「たらちねの母」百敷の大宮」ナルヲ、「たらちねは、かかれとてしも」百敷や古き軒端」ナド、其枕詞ヲ、直ニ母大宮トシテ用ヰタルモノアリ、是等、枕詞ヲ久シク言ヒ馴レテ、終ニハ直ニ其下ノ語ニ代ヘ用ヰルニ至レルナリ、「春日[/ハルビ]のかすが」飛鳥[/トブトリ]の明日香[/アスカ]」ナルヲ、枕詞ノ字ヲ取リテ、直ニ春日[カスガ]、飛鳥[アスカ]ト讀ムニ至レルモ、是レナリ。
○又、語路ニ因リテ、他語ニ移スコトアリ、「天飛ぶや輕[カル]の路」ハ、雁[/カリ]ヲ輕ニ轉ジ、「梓弓入る」は射るヲ入るニ轉ジ、津の國の何は思はず」ハ、難波ヲ何はニ轉ジ、「山城の常[トハ]に相見む」ハ鳥羽ヲ常ニ轉ジ「陸奥の忍ぶ」ハ、信夫ヲ忍ぶニ轉ズルガ如シ。
○又、語、句、ヲ隔テテ用ヰタルアリ、「ぬばたまの、甲斐の黒駒」梓弓、おして春雨、今日降りぬ」朝開き、入江艚ぐなる櫂[カヂ]の音[オト]の」足引キのこの傍山[/カタヤマ]ノ如シ。
○縣居ノ翁ノ冠辭考ニ云、こを、或人は、「まくら詞」といへるを、荷田大人は、「かうむりことば」といひつ、實に、枕詞とては、古きみやび言とも聞えず、(畧)物を上に置くことを、冠らすといふも、古へ今に通れる語なれば、これによれり、(畧)公望が日本紀私記に、かの「いすぐはし」ちはやぶる」などやうのことをば、發語と書て侍り、されば、枕詞てふ語は、延喜承平などの御時まではなくて、後にいひ出でしなりけり、源氏の物語に、「云云の事を枕ごととして」と書けるは、古ことを藉[シキ]もて、今の思ひをいふ故の語なり、此冠辭は、こを本として、下の意をいふにあらず、ただ、歌の調べのたらはぬをととのへるより起りて、かたへは、詞を飾るものにて、いはれ異なり、かの「枕ざうし」歌枕」などいふを思へば、その頃にいへりしなり。(下畧)
○枕詞ノ用法ハ、實ニ國語ニ特別ナルモノニテ、名詞、動詞、形容詞、副詞、等、其冠スベキ語モ、種種ニシテ、其所用モ、唯、其冠スル語ニノミ係リテ、他語ニ係ラズ、故ニ、文章上、言類ノ分解(Parsing.)ニ當リテハ、二語ヲ一熟語ト見テ解クベキモノトスベシ。
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接續語 發語
接頭語[/セツトウゴ](Prefix.)ハ、常ニ他語ノ頭ニ接[ツ]キテ、熟語トナリテ、其意義ヲ添フル語ナリ、サレバ、固ヨリ獨立ニハ用ヰラレズ。 接頭語ノ數、甚ダ多カラズ、又、一定ノ慣用法アリテ、何レノ語、皆、冠[カウム]ラスベキニアラズ。 今、左ニ、其著キモノヲ擧ゲテ、其用例ノ一斑ヲ示サム。
「初[/ハツ]春」初花」初音」初穗」 「初[/ウヒ]事」初冠[カウブリ]」初學」初立[ダ]ツ」 「新[/ニヒ]參リ」新枕」新墾[バリ]」 「小[/ヲ]車」小舟」小川」小篠[ザサ]」小止[ヤ]む」小暗し」 「小[/コ]家」小松」小路」小暗し」小高し」 「御[/ミ]代」御位」御心」御燈[アカシ]」(大御[オホミ/オホン]、御[オン]、御[オ]) 「眞[/マ]心」眞白」眞直中[タダナカ]」 「素[/ス]腹」素肌」素顔」 「生[/キ]絹」生紙」生藥」 「僻[/ヒガ]目」僻事」僻讀ミ」「曲[/クセ]者」曲舞」曲事」 「えせ物」えせ車」えせ法師」 「幾[/イク]年」幾世」幾久シ」 「異[/コト]國」異人」 「諸[/モロ]手」諸人」諸聲」 「彌[/イヤ]増す」彌遠し」彌高し」 「逸先[/イチサキ]」逸早し」 「ほの見ゆ」ほの聞ゆ」ほの暗し」 屡[/シバ]たたく」屡吹[ブ]く」ナドナリ
○漢語ノ「不義」不本意」無位」無慈悲」第一」第二」當年」當代」數人」數年」諸事」諸書」衆人」衆僧」ナドモ、接頭語ナリ。
發語[/ホツゴ] 某語ヲ言ハムトスルトキ、首ニ加ヘテ發スル語ナリ。 其聲、皆、一音ニシテ、大抵ハ、意義無ク、或ハ、稍、其下ノ語意ヲ強クスルガ如キモノアリ。 而シテ、其用例、亦、局[カギ]レル所アリ、左ニ、其著キモノヲ示ス。
「さ夜[ヨ]」さ衣[ゴロモ]」さ男鹿[ヲシカ]」さ渡ル」さ迷ふ」
「み吉野」み熊野」み山」み空[ソラ]」み雪」み坂」み岬[サキ]」
「を簾[ス]」を田[ダ]」を野」
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「け劣る」け亮[サヤ]ぐ」け壓[オサ]る」け短し」け長し」け近し」け恐[オソロ]し」け疎[ウト]し」
「い行く」い向ふ」い座[マ]す」い渡る」い通[カヨ]ふ」い觸る」
「た忘る」た比[クラ]ぶ」た謀[バカ]る」た走る」た徘徊[モトホ]る」た靡[ナビ]く」た弱[ヨワ]し」た易[ヤス]し」た遠し」
「か易し」か弱し」か黒し」か細し」
接尾語
接尾語[/セツビゴ](Suffix.)ハ、常ニ他語ノ尾ニ接[ツ]キテ熟語トナルモノニテ、他語ヲ名詞トスルアリ、動詞トスルアリ、形容詞トスルアリ、副詞トスルアリ、而シテ、亦、漫用スベカラズ、スベテ、慣用ノ例ニ據ルベシ。
○他語ニ接[ツ]キテ、名詞トスルモノハ、
ども(共)物事ノ數アルヲ總ベテテイフ。 次ノ二語モ同ジ。 「物ども」事ども」調度ども」馬ども」舟ども」男[ヲノコ]ども」
たち(達)專ラ人ニイフ。 「皇子[ミコ]たち」親たち」大臣たち」公[キン]だち」友だち」
ばら(儕)亦、人ニイフ。 「殿ばら」法師ばら」女ばら」奴[ヤツ]ばら」
どち 互ニ夥伴[ナカマ]ナル意ヲイフ。(俗ノどしハ、此轉ナリ) 「友どち」女どち」我れどち」思ひどち」思ふどち」思はむどち」若きどち」年歴ぬるどち」さるべきどち」さるまじきどち」(千代ノどち)
ら(等)「我ら」汝ら」是ら」夫ら」少女[ヲトメ]ら」成信重家ら、出家し侍りける比」
など 「月花などのながめに」貴[タカ]き賎しきなど、さまざまにて」院の御さじきより、千賀の鹽釜などやうの御消息[セウソコ]、をかしき物など、持[モ]てまゐりかよひたるなども、めでたし」(枕草子)
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○此語ハ、名詞ト合シテ、下ニのをも等ヲ履ムコト、他語ヲ副詞トスルなど(後ニ擧グ)ノ、直ニ動詞ニ係ルト異ナリ。 又、「など思ふらむ」ナドノなどハ、眞ノ副詞ナリ、混ズベカラズ。
以上二語ハ、物事ノ數アルヲ示シ、而シテ、其數ノ限リヲ列ネタルニモイヒ、(内等[ナイトウ])其外ニモアルヲ畧スルニモイフ。(外等[グワイトウ])
げ(氣)以下三語、皆、事物ノ形状、情態ヲイフ。 「人げ」外[ヨソ]げ」心ありげ」物思ひげ」思はずげ」惡[ニク]げ」重げ」惜しげ」
サ(状)「遠さ」深さ」善[ヨ]さ」惡[ア]しさ」悲しさ」嬉しさ」逢ふさ」離[キ]るさ」行くさ」來[ク]さ」歸るさ」入るさ」
み 「深み」高み」青み」赤み」重[オモ]み」輕み」無[ナ]み」
○此[ココ]ノさトみトニ就キテハ、形容詞ノ語根ノ條ニモ説ケルコトアリ、尚、其條ヲ見ヨ。
か(日)日[ヒ]ヲ數フルニイフ。 「二[フツ]か」五[イツ]か」二十[ハツ]か」三十[ミソ]か」五十[イ]か」百[モモ]か」幾か」
べ(邊)邊[ホトリ]ヲイフ。 「山べ」川べ」磯べ」
べ(部)群[ムレ]ヲイフ。 「忌[イム]べ」物のべ」下べ」
へ(方)方角ヲイフ。 「後[シリ]へ」行[ユク]ヘ」片[カタ]へ」
へ(重)重[カサナリ]ヲイフ。 「三[ミ]へ」十[ト]ヘ」二十[ハタ]へ」千[チ]へ」幾へ」
わ(曲)隱[ククマ]リタル所ヲイフ。 「浦わ」川わ」外わ」内わ」郭[クル]わ」
り たり(人)人[ヒト]ヲ數フルニイフ。 「一[ヒト]り」二[フタ]り」三[ミ]たり」四たり」幾たり」
て(人)人[ヒト]ヲイフ。 「射て」讀みて」爲[シ]て」
○漢語ノ「何輩[/ハイ]」何等[/トウ]」一箇[/コ]」二號[/ガウ]」三番[/バン]」四荷[/カ]」五匹[/ヒキ]」六枚[/マイ]」七帖[/デフ]」八束[/ソク]」九段[/タン]」十通[/ツウ]」ナド用ヰルモノ、皆、是レナル
\\76
ベシ。
○他語ニ接[ツ]キテ、動詞、又ハ、形容詞トスルモノハ、
めく 自動詞トシテ、「その如くなる」ナドイフ意ヲナス、變化ハ、規則第一類ナリ。 「今めく」時めく」春めく」唐めく」物化[モノノケ]めく」山里めく」時雨[シグレ]めく」ほのめく」
めかす めくノ他動ナリ、變化ハ、規則動詞ノ第一類ナリ。 「今めかす」時めかす」色めかす」物[モノ]めかす」ほのめかす」
ばむ 「状態[ケブリ]のそれとあらはるる」意ヲイフ、自動ニテ、規則動詞第一類ノ變化トナル。 「心ばむ」けさうばむ」老いばむ」けしきばむ」枯ればむ」由[ヨシ]ばむ」
がる 「と思ふ」ナドノ意ヲナス、自動詞、規則第一類ノ變化なり。 「嬉しがる」ゆかしがる」悲しがる」賢[カシコ]がる」寒[サム]がる」あはれがる」艶[エン]がる」情[ナサケ]がる」懇[ネンゴロ]がる」
ぶ 自動ニテ、「その如くにてあり」ナドノ意ヲナス、變化ハ、規則動詞第三類ナリ。 「大人[オトナ]ぶ」古[フル]ぶ」田舎[ヰナカ]ぶ」鄙[ヒナ]ぶる」都[ミヤ]びて」翁[オキナ]びて」けさうべて」尋常[ヨノツネ]びたり」ことさらびたる」
がまし 形容詞第二類ノ變化トナリテ、「の如し」に似る嫌ひあり」ナドノ意ヲイフ。 「隔てがまし」かごとがまし」烏滸[オコ]がまし」散樂[サンガウ]がまし」
○其他、尚、アルベシ、希フノ意ノ「行きたし」見たし」(形容詞第一類變化)其状ナル意ヲイフ、「男らし」女らし」(同第二類)其風[フリ]スル意ノ「學者ぶる」利口ぶる」(規則第一類)ノたしらしぶるナドモ、是レナリ。
○他語ニ接[ツ]キテ、副詞トスルモノハ、
がてら 語原ハ「糅[カ]テ雜[マジ]フル」ノ意、事ノ彼此ニ渉ル意ヲ示ス。 「秋の野も見給ひがてら、雲林院に詣で給へり」け
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しきも見がてら、雪を打拂ひつつ」山川を、導[シルベ]しがてら、まづや渡らむ」脱[ヌ]ぎかへがてら、夜こそは着[キ]メ」かたみがてらに、着なむとぞ思ふ」我宿の、花見がてらに、來[ク]る人は」御子日[ネノヒ]がてら、まゐり給へかし」
ながら 語原ハ、「長[ナガ]ら」ニテ、延ブル意アルベシ。
○「そのまま」それごめに」ノ意ナルハ、「一年[ヒトトセ]は、春ながらにも、暮れななむ」昔しながらの、山櫻哉」ここながら、かしづきすゑて」御簾[ミス]の内ながら、宣ふ」御子ども、六人ながら、引連れて」枝ながら、見よ」
○「なれども」(乍)ノ意ナルハ、「我心ながら、かかる筋におほけなく」心ながら、胸いたく」身ながら、心にえまかせまじくなむ」身の程にもあらずながら」春ながら、雪ぞ降りつつ」さりながら」思ひながら」しかしながら」
○「つつ」又ハ、「且[カツ]」ナドノ意ヲナスハ、「歩ミながら見ル」讀ミながら考フ」
がてに 「難氣[カタゲ]に」ノ約マレルニテ、事ノ成リ難クアル意ヲ示ス。 「白露の、溜[タマ]ればがてに、秋風ぞ吹く」泡雪の、溜ればがてに、砕けつつ」などか我身の、出でがてにする」時鳥、我宿をしも、過ぎがてに啼く」行きがてにのみ、などかなるらむ」歸りがてして、別れを惜む」
ばかり(許)「計[ハカリ]」ノ義ニテ、程限ヲイフ。(第一類天爾波ニ同語アレド、用法異ナリ)
○程[ホド]ノ意ナルハ、「ひえの山を、はたちばかり、重ねあげらたむ程して」我ばかり、物思ふ人は、またもあらじ」我ばかり、我を思はむ、人もがな」あかつきばかり、憂きものはなし」櫻ばかりの、花無かりけり」三年ばかり歴て」いかばかり」
「人に思はれむばかり、めでたき事はあらじ」泣きぬばかり言へば」よるべとすばかりに」死ぬばかりなる」死ぬるばかりに」人目に見ゆるばかりに」 動詞、助動詞、ノ第一變化、第二變化、何レニモ連續ス。
○頃[コロ]ノ意ナルハ、「宵打過ぎて、子の時ばかりに」今宵ばかりや、と待ちけるさまなり」その日ばかりに、御迎へにまゐり來[コ]
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む」八月十五日ばかりの月に」入相ばかり」何時[イツ]ばかり」
から 「故[ユヱ]ニ」ノ意ナリ、古言、故[カレ]ノ轉ナラム。(よりノ意ノからト異ナリ) 「いとふびんなる人から、仲忠の朝臣とひとしくなむ、形心身のさえ侍り」(うつぼ)「聞き馴れ侍りける耳からにや」をしむから、戀しきものを」吹くからに、なべて草木のしをるれば」相見むからに」取りしからに」さるからに」
ごとに(毎)語原ハ、「異に」ノ意カ、物事の、各、然ル意ヲ示ス。 「春ごとに咲く」咲くごとに見る」人ごとに言ふ」年ごとに」日ごとに」
づつ(宛)一箇[ヒトツ]二箇[フタツ]ノ箇[ツ]ヲ重ネタル語ナラム、各、宛[アテ]ノ意ヲ示ス。 「とりのこを、十[トヲ]づつ十は、重ぬとも」袈裟、衣、など、すべてひとくだりの程づつ、ある限りの大とくたちに賜ふ」下もみぢ、一葉づつ散る、木のもとに」かたはしづつ、見るに」少しづつ語り聞えたまふに」
まにまに 打任スル意ヲ示ス。 「任[ママ]ニ」ヲ重用シテ約メタル語ナレド、別ニ一種ノ用法ヲナス。 「秋霜の、晴るるまにまに、見渡せば」聲のまにまに、尋ぬるは」語るまにまに聞く」欲しきまにまに取る」山風の吹きのまにまに」
など(杯)「何[ナニ]と」ノ中畧ナラム、一ニ定メズ、大畧ヲ指シ示ス意ノモノナリ。(他語ヲ名詞トスルなどハ、前ニ擧ゲタリ) 「何事ぞなど問フ」行くべしなど言ふ」悲しなど言はむかたなし」馬になど乗りて」
がり(許)「ノ許[モト]に」ノ意ナリ。「文は、大輔がり遣[ヤ]れ、と宣ふ」紀の有恆がり行きたるに」若草の、つまがりとへば」妹[イモ]がり行けば」供の者具して、國司のがり向ひぬ」女のがり行[イ]きて」撫子を人のがりつかはしける」(伊豆の守の女にて居たりけるがりに、文やる」故左衛門がりに、後に物などつかはしたれば)
すがら 「盡[スガ]ルルマデ」ノ意ナリ。 「夜[ヨ]すがら、いをねず」春の日すがら、またぞ忘れぬ」夜[ヨ]もすがら眠らず」(夜[ヨル]ハすがらに、起
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き居つつ」秋の夜ヲ、聲もすがらに、あくる松蟲)
すがら 「ながら」ノ意ナリ。(直從[スグカラ]ノ約カ)「行くすがら、心もゆかず」秋霧の、立ちぬるすがら心あてに」路すがら」身すがら」佩[ハカ]セル太刀すがら」
○以上、其著キモノナリ。 又、「夜[ヨ]ノ明クルころ、起キ出デテ」元禄十年ごろ起リタル」老ユルほど壯[サカン]ナリ」牛ほど大ナル」足ルくらゐ取ル」馬グラゐ捷[ハヤ]シ」出來タルだけ送ル」是レだけアル」ナド用ヰル頃、程、位、丈モ、是レナリ。
○「明に」靜に」誠に」常に」丁寧に」心切に」頻りに」盛りに」案ずるに、」或は、はらはらと」ほとほとと」ナド、副詞ノ語末ニ用ヰルに又ハとモ、接尾語ナルベシ。
○右ニイヘル他語ヲ副詞トスル接尾語ノがてら、ながら、から、ばかり等ハ、天爾遠波ノから、だに、さへ、のみ、ばかりナドト、同趣ノモノナルガ如ク見ユレド、用法異ナリ、委シクハ、前ノ天爾遠波ノ條末ニ辨ジオケリ。
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右、語法指南ハ、日本文典中ノ、此辭書ヲ使用セムニ、要アリト思ハルル所ノミヲ、摘録シタルモノナリ。 サレバ、若シ、コレヲ一部ノ文典ト認ムルコトモアラバ、必ズ、事足ラズ思フ所モアラム、唯、善ク摘録ナルコトヲ察スベシ。 但シ、始衷終、條條ノ敍述ニ於テ、詳畧、釣合ハヌガ如ク見ユル所モアレド、助動詞、天爾遠波等ニ至リテハ、頗ル錯雜セルモノナレバ、叙述モ亦簡ナルコト能ハズ、言フベキホドノ事ハ、言ハザルヲ得ザルニ因レリ、又此意ヲモ諒セヨ。 (完)