山岡政紀 書評集


読後記『異端のススメ』 林修・小池百合子著/宝島社刊/20131228日 発行/定価1143円(+税)

 

「いつやるの?今でしょ!」でおなじみの林修が、東京都知事に就任する前の衆議院議員・小池百合子を対談相手に指名して実現した対談集である。その名も『異端のススメ』。自分から「異端」になろうと思ったわけでもないだろうが、社会の型にはまることをよしとせず、自分の生き方を貫いた林と小池。その結果を「異端」と言うのならば、それは人生の勲章なのかもしれない。それぞれの人生の興味深いエピソードが満載だが、小池が都知事となった今だからこそなおいっそうおもしろく読めるのではないだろうか。

小池にとって「異端」の始まりは何と言ってもカイロ大学への進学だろう。父の本棚にあった『中東・北アフリカ年鑑』にはエジプトの軍事、歴史、教育が紹介されていた。それを読んだ小池は、カイロ大学に行こうと閃いたのだという。そのこと自体普通の女子学生ではないが、それを許した両親ももはや普通ではない。父は石油会社に勤め、国際的な仕事をしていた(だからそんな本を持っていた)し、母も後にカイロで日本料理店を営むことになる自由人だったというから、「異端」の気風は両親から受け継いだDNAなのかもしれない。そして留学後、アラビア語と経済の知識を武器にキャスターに進出。テレビ番組で活躍している最中に、細川護熙氏の誘いを受け、まだ海の者とも山の者ともわからない結党直後の日本新党から参議院選挙に出ることを決意する。テレビ局には「小池は飛行機事故で死んだと思ってください」と告げたそうだ。まさに「異端」の真骨頂だった。

一方の林が歩んだ「異端」の道は、東大を卒業して長銀(現・新生銀行)に入り、エリートコースを歩み始めた矢先、わずか5か月でスパッと退職したことだ。ちょうどバブル経済の絶頂期で、その浮かれた気分についていけなかったのだという。高給を捨てて敢えて空白の充電期間に入る。そして、3年後、予備校講師の道に入り、現代文講師として実績を積んでいく。その後、例のCM出演をきっかけにブレークするわけだが、そこで学生時代、空白時代、予備校時代を通じて蓄積した知識量が活きて今や情報番組やクイズ番組に引っ張りだこだ。林も小池と同じく、敢えて安定を捨てて茨の道を選び、結果として成功した人だ。

本書には「東京都知事」という言葉はかけらも出てこないが、小池が政党の支援を受けずに議員の職を捨てて立候補に踏み切ったあの生き方も、その萌芽が既に表現されている。まさに「異端」の針が振り切ったのがあの立候補だったとも言える。林は小池にこう言っている。「僕は、小池さんには出すぎていただいて、一気に大きく変えてくれることを期待しています」(p.96)と。まるで未来を予見していたかのようなエールである。

都知事選の当初、正直に言うと私は小池氏にあまり好感が持てなかった。「出たい人より出したい人」という文化に慣れきっていたし、私が知る限りの経験から言えば、自分から出たがる人はたいてい自己中心的で、奉仕や貢献の精神が乏しい場合が多かったからだ。しかし、小池の都知事就任後の行動を見ると、情報公開や知事報酬削減など、都民目線に立った実行力に、印象が大きく変わったものだ。しかしそれも本書を読めば納得が行く。要は、小池百合子という人は日本人でありながら日本人離れした文化を自身の中に確立したグローバル人間なのだ。その結果が、日本文化の中では「異端」として現れるのだろう。

都知事となって進めている残業ゼロ、時間差通勤、在宅勤務といった働き方改革のアイデアも本書では既に披露しており、信念の一貫性と政治家としての実行力に感心する。そして対話のなかで二人の政治信条には親和性があることも次第に見えてくる。「まあ、林先生も気が変わったら連絡をください」との小池の誘いに対して林は言下に断ってはいるが。

小池が初の女性首相を狙っているとする見方もあるが、それも権力志向の男目線の論評のように思えてならない。都知事として伸び伸びと「異端」の真骨頂を発揮しているし、それを踏み台と考えてやれるような簡単な仕事でもない。ただ、今や予備校でも大学でも公務員試験でさえも、男子より女子の方が優秀だと二人は声を揃えて言う。だから、女性が実力を発揮できる社会を創ることにかけては、小池は全く遠慮がない。例えば、日本の旧帝大に未だに女性学長が誕生していないのはおかしいと。その信念と行動力が今後、どんな決断をもたらすのか、「異端」ではない凡人の私には予測不能かもしれない。

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2017.7.22


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