現代日本語で今なお多用される故事成語をパロディ化した4コマ漫画集。故事成語の出典・由来は高等学校の漢文で学習する比較的高度な教養と言えるが、本書の場合、故事成語が持つ格式を全く意に介さないマイペースな脱力感が、ある種の癒やしさえ漂わせて小気味よい。角張ったものをまんまるにして見せたような本と言えるだろう。そう言えば、漫画に描かれているキャラクターが、どれも今流行りの「ゆるキャラ」みたいに脱力している。
例えば、「矛盾」という熟語は、矛(ほこ)と盾(たて)を売る商人の売り文句をめぐる『韓非子』の故事に由来することはよく知られているが、本書の4コマ漫画では、こんなパロディが、ゆる〜いネコとウサギのキャラクターの会話で描かれている。
@ 「『矛盾』ってどういう意味か知ってるかい?」「はいはいはーい」
A 「最強の矛で、最強の盾を突くと……」
B 「二つの武器が合体して、攻守一体型の新兵器『矛盾』が誕生する」
C 「そういう話でしたよね?」「全っ然違うわ!」
もちろん、本来の故事成語の説明も隣のページにちゃんと記されている。
本書のもう一つの特徴は著者の人物像である。5編収録されているコラムによると、著者は私立大学四年在学中だが、既に27歳(本書執筆時)。高校卒業後の四年間、「一日も休まず自宅を警備」。大学入学後は「あまりの成績の良さに、通常より二年長く在学する特別待遇」を受けたとのこと。自虐的な自己紹介をユーモラスに軽やかに表現している。出版甲子園の入賞を「神様の手違い」、「日本の出版界の将来が心配です」と記すあたりは、「受賞して当然」と主張する某作家よりずっと好感が持てる。