山岡政紀 書評集No.38


『言葉・狂気・エロス』 丸山圭三郎著/1990615日発行/講談社刊(講談社現代新書)/定価550

  丸山氏の言語哲学は、以前のソシュール理論をもとにした合理的な記号学理論から、今やアナグラム研究批判にみられる、言語音と深層意識との関わりへと発展した。それに伴ってソシュール一辺倒からラカンの理論をも射程に入れるようになり、一見神秘的とも文学的とも言える方向へ展開している。その萌芽は同じ現代新書の『言葉と無意識』(87年刊)に見られたが、89年刊の『欲動』(いずれもこのコーナーで紹介)で決定的なものとなった。そして、本書では新丸山理論の中から特に一般の読者を意識した話題を扱っている。
 その大きなトピックは、言語が持つ記号的秩序の前段階として無意識の中にある、「混沌」であろう。特に、パラノイア患者シュレーバーの『回想録』に見られる狂気の言葉「基本語」と、詩という芸術とのアナロジーは、本書全体の思想を象徴している。詩が持つ言語音の感性的側面は、失語症患者の症例と非常に似通っている、というのである。そして、中観思想の「アラヤ識」をこれと同質のものと論じている。


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