山岡政紀 書評集No.34


『倒錯 幼女連続殺人事件と妄想の時代』 伊丹十三・岸田秀・福島章著/1990年1月26日発行/NESCO刊/定価1500

 1989年日本中を震撼させた、幼女連続殺人事件を題材とする本は、今や書店に溢れているが、本書は、異常・犯罪心理に一家言を持つ三氏による対談であり、欲望論、さらに人間論へと発展する興味深い一書である。
 岸田氏によると、人間の性行動は肉体的衝動によってのみ起こるのではなく、自我の安定(自分とは何かという物語)を求めることによる。そもそも人間は、正常人でさえ、妄想に基づいて自我を構成する不安定な存在であり、倒錯した性行動とは、最後まで安定が得られず、エスカレートしていったものだという。
 また、多くの犯罪者の精神鑑定を手掛けた福島氏の発言も興味深い。例えば、生と死の関係と、セックスを似たものと考え、日常は越えられない死との境界を性交の瞬間越えてしまうとし、倒錯した性衝動が殺人へと到るプロセスを論じている。
 本書を通じて三氏の意見は概ね一致するが、それは同時に読者の内省にも共感を喚起するであろう。


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