山岡政紀 書評集


書評『拝啓川淵三郎殿』 小谷泰介著/モダン出版刊/2001110日 発行/定価1500円/ISBN 4-89633-302-0

 

サッカー・ジャーナリストの小谷泰介氏が、日本サッカー協会(JFA)の川淵三郎チェアマン(現名誉会長)に宛てて記した、日本プロサッカー界改革のための提言書簡集である。小谷氏は世界のトップチームの選手や監督に豊富な人脈を有するのみならず、世界各国のクラブチームの諸事情にも精通した人物であり、本書ではそうした豊かな背景知識をもとに、日本のサッカー界に対するクールな分析と、世界レベルへ発展させたいと願うホットな情熱とを、積極的に表現している。

一つ一つの提言の主旨は明快なもので、各書簡の見出しとなっている。代表的なものをいくつか挙げてみよう。

@外国籍選手は各ポジションひとりずつに限定を 日本人のFW(フォワード)が育たない一因として外国人選手がFWに集中する傾向を指摘し、これを抑制して日本人のFWを育てようというものである。

A協会内に代表チームをチェックする独立した組織を! Jリーグの振興という実績を挙げたJFAだが、代表チームの監督への評価や次期監督の人選は全く適切に行われていないと指摘。

BJ11012チームが妥当 Jリーグ公式戦のクオリティーを維持することを考え、チーム数を抑制すべきとの主張。

CJリーグの試合を世界各国で 欧州のトップリーグの試合は世界中でテレビ観戦できる。Jリーグの試合も海外で観戦できるよう配慮することが、Jリーグを世界水準に高めるために必要と主張。また、戦力外となったJリーガーには香港、マレーシアなどアジアのリーグへの移籍を斡旋することを提案している。

D延長Vゴール方式は廃止すべし 延長戦での得点をもって試合終了とするVゴール方式では、激しい攻め合いが見られる反面、90分の時間を計算した駆け引きの妙がなく、選手の体力の消耗も激しく、好ましくないとし、90分引き分けあり方式への変更を主張。(Jリーグでは2001年に延長戦自体が廃止された)

E妥協のないフェアプレイ精神の徹底を! 試合の勝ち負け以上に大切にすべきフェアプレイの精神、具体的にはレフェリーのジャッジに絶対従う姿勢や、相手のフェアプレイにはフェアプレイで応えるべきことなどの確立を提言。チェアマンのリーダーシップやフェアプレイ推進委員会の設置なども主張。

FJリーグでテスティモニアル・マッチ(感謝試合)の義務化を! 実績ある選手の引退に際し、単なる引退試合ではなく、感謝を表現するテスティモニアル・マッチを開催すべきとの主張。

Gホームタウン移転にはJ2降格の厳罰を! サポーターの思いを無視して親会社のエゴでホームタウンを移転するのは、Jリーグの理念である地域密着に反するものだから、厳罰に処すべきであるという主張。

 これらを通読して感じるのは、選手経験のある小谷氏だけに選手を尊重する意識が高いことである(@、D、Fなど)。また、単にスポーツとしてではない文化としてのサッカーに対する敬意と愛情が強く感じられる(Eなど)。また、サポーターへの配慮も多く見られる(B、Gなど)。全体として、Jリーグの発展を強く願う心情がほとばしり出ている(A、B、Cなど)。

 このような提言をすべて川淵チェアマンにぶつけつつも、それは決してチェアマンに対する批判とはなっていない。日本にプロスポーツとしてのJリーグをスタートさせたチェアマンの勇気と行動力に対する敬意は終始一貫しており、その功績を更に発展させるための協力表明と言えばよいだろうか。

 川淵チェアマン宛の多くの書簡に対して川淵氏からの返信は短い一通だけだが、その小谷氏の愛情を認める感謝の返信となっている。本書の提言はその後の日本サッカー界にいくらかの影響を与えたと確信するとともに、小谷氏のような人物こそ日本のプロサッカーの興隆のために更に活躍してもらいたいと思わせる一書である。

 蛇足だが、書名は逆に川淵氏を前面に出しすぎるので、例えば、『日本サッカー革命のために』とし、副題を「川淵チェアマンへの提言」のようにしたほうがよかったと思う。


創価大学ホームページ
日文ホームページへ
山岡ホームページへ