読後記:ヴィクトル・ユゴー 『九十三年』

山岡 政紀

 

 わが恩師池田大作先生の青年時代の愛読書である。『若き日の日記』には完読された感動を記されているし、先生の恩師である戸田城聖先生との一対一の個人授業で題材となったことを折々に語られてもいる。

 

 舞台は、フランス革命の時代の1793年。すでにバスティーユが陥落し、国王は斬首され、樹立された共和国政府による恐怖政治が行われていた。そして、共和国軍と国王復活を目指す王党派の残党との局地戦が繰り広げられ、時代は動乱の極みであった。

 

 ラントナック侯爵をリーダーとする王党派の反乱軍を討伐するために共和国から派遣されたのが、ラントナックの甥ゴーヴァンだった。彼は勇気と知恵を兼ね備えた優秀な青年リーダーだったが、寛大すぎて捕虜を逃がすので、共和国政府は、ゴーヴァンが任務に徹するよう、その師・シムールダンを彼の監視役に送り込む。

 

物語のクライマックスで、共和国軍に包囲され、篭城していたラントナックが、捕虜としていた名もない3人の子供たちを戦闘の業火の中から命懸けで救出して、共和国軍に捕われる。ゴーヴァンは苦しみ抜いた末にラントナックを逃がし、師シムールダンは弟子ゴーヴァンを処刑して自らも死を選ぶ。

 

私が最も感動したのは、愛する我が子を業火の中に見出した母親の、生命の限りを尽くした絶叫が、冷酷無比だったはずのラントナックの心を動かし、その姿が敵軍のゴーヴァンの心を動かしたことである。

人々が追い求めた共和制よりも、法治国家の理想よりも、無名の庶民の子供の小さな生命の方が遙かに尊い。シムールダンは共和制と法を守る立場から愛弟子ゴーヴァンを処刑するが、弟子が体現した強烈なヒューマニズムと自らの理想との矛盾を自覚したがゆえに、ゴーヴァンと共に殉じる道を選んだのであろう。

 

激しい命懸けの葛藤の末に、真実を選択しゆく人々の姿を通して、私たちはこの作品から「究極のヒューマニズム(人間主義)」を学ぶことができる。人生の必読書である。

 

※岩波文庫(辻昶訳、上・中・下)がお薦めです。

 


ユゴー「九十三年」 登場人物相関図

 

共和国政府

 

厳格で冷静な僧侶     第一身分・聖職者

師・シムールダン

〈革命家の象徴〉

   │                                反乱軍ヴァンデ軍(王党派)

↓監視役

理想高き青年指揮官     第二身分・貴族      冷酷無比な将軍

弟子・ゴーヴァン(甥の子)──────────→(大伯父)ラントナック侯爵

〈未来の人間主義を探求〉   討伐を命じられる    〈反革命家の象徴〉

                                                    

                                             業火の中から│3人の子供を救う

                                                     ↓

                        第三身分・市民、農民       従軍物売女

                                     ミシェール・フラッシャール

                                         3人の子ども

 

 


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