山岡政紀


『コミュニケーションと配慮表現──日本語語用論入門』  山岡政紀・牧原功・小野正樹著

明治書院/2010220日刊/A5256ページ/定価2100(税込)ISBN:978-4-625-70407-9 C3081


キーワード: 語用論、コミュニケーション、配慮表現、ポライトネス、発話機能、日本語教育

  言語学の中で最も個別言語を超えた普遍性が高い部門が語用論である。そのため、日本で刊行される語用論入門書は、グライスやリーチらのコミュニケーション理論を紹介した英語文献の邦訳か、日本人研究者が書いたものであっても、英語の発想で説明された理論先行型のものが多かった。本書は、日本語学を足場とする著者三名の共著により、日本語において典型的に見られる言語現象をタスク形式で読者に問題提起しながら、それらに対する説明力として諸理論の妥当性を説得的に紹介するように努めつつ編まれた、新しい語用論入門書である。

  全編を通じて取り上げた言語現象の多くは、二者間の会話である。つまり、会話における場面、共有知識、社会通念などの発話状況を、参与者はどのように取り込み、それによって意思の疎通や対人関係の維持といった会話の目的を達成するのかを、中心的に説明している。

  前半の第1部では、会話の目的を参与者間で共有する原理を、協調の原理、関連性理論、ポライトネス理論、発話行為論、発話機能論等のコミュニケーション理論を通して概説している。後半の第2部では、日本語での具体的事例として特に配慮表現を取り上げた。これは、ポライトネス理論から派生して、対人関係を壊さないよう、また、よりよくするよう配慮することで表れる様々な言語現象の本質を考察したものである。ここには日本語固有の言語文化も反映されており、外国人への日本語教育においても重要なテーマとなる。

  例えば、「私もパーティーに参加していいですか」という《許可要求》に対しては「いいですよ」ではなく、「ぜひ参加してください」と《依頼》のように言うのが日本人らしい配慮表現となる。

  本書は、日本語学や日本語教育法を学ぶ学徒たちに供する「入門書」であり、一般の読者には「啓蒙書」としても読んで頂けると思う。後半の日本語の配慮表現については、日本語に満ち溢れる言語現象であるにもかかわらず、研究としてはまだまだ未開拓な分野であるため、「研究書」としての要素もある。その意味で一石三鳥の本として、汎用的に活用していただけると考えている。

(『日本語学』第29巻第4号〈新刊クローズアップ〉より)


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