山岡政紀 書評集No.25


『生と死の接点』 河合隼雄著/1989年4月26日発行/岩波書店刊/定価1700

 認識哲学で論じられる自我意識は、その論じ方の性質のために紙の表面のような単層的なものでなくてはならない。対象を見つめる自我はそれ以上でもそれ以下でもあってはならない。しかし、人間としての生命活動に素直に思いをはせるとき、自我を支配するような大きな無意識層の存在を決して無視できない。本書の最大の独自性は、意識・無意識を含めた全体を統合するユングの「自己」を、自我意識の対概念として議論の基盤に置くことである。
 本書に登場する「元型」や「ライフサイクル」などの概念は、そうした自己を普遍的な大きな視野で見つめていこうとしたものである。特にライフサイクルは、肉体の成長と衰退という自然の法則を受け入れながら、生死の枠をも超えて成長し続ける大きな流れを意味する。近代科学の枠組みには収まり切らないこの概念も、人間の現実の生き様には遥かにより多くの知恵を提供することには誠に驚くばかりである。


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