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観察・実験から直接言えること、言えないこと(教えること)

 課題解説p245のイ)について実例から説明します。ここでは、教科書の第4章 第3学年の単元の解説と指導 第1節 単元「物と重さ」の実験を例にとります。実験で は、実施したい観察・実験として、「物の形を変えたときの重さを調べる」ための粘土 の形を変える実験が取り上げられています。一例として学校図書の小学校第3学年の教科書では、粘土以外に変形可能な空き缶やアルミなべも挙げています(下図)。しかしなべ や缶は使いにくいので、変形しやすいアルミホイルやダンボール(紙)がよいと筆者は考えます。粘土は多様な変形が可能であり量感もあるため、本単元にとって類 の無い優れた教材です。

粘土

装置と方法は次の通り。
 1) 上皿天秤の左右の皿に、同じカップを乗せて釣り合わせる。
 2) 粘土を天秤の左右のカップに乗せて釣り合わせる。
 3) 一方の粘土はそのままで、もう一方の粘土の形をかえる。または、いくつかに分割しても良い。
 4) 両方の粘土を手でもって重さを比べる。
 5) 両方の粘土を天秤に乗せて重さを比べる。
教科書では(p53)、この実験の結果として、「物は形が変わっても重さは変わらない。」と記述していますが、論理を見ると、
 粘土は形が変わっても重さは変わらない(a) → 物は形が変わっても重さは変わらない(A)
という一般化がなされています。この論理は帰納論理といい、個別(経験a)から一般・普遍(法則A)を導 く 科学的プロセスで す。したがって、授業では帰納論理 をふまえ、実験から言えることと教師が教えることを区別する必要があると考えます。子どもに言わせる「結 果」は個別で あり、教師によるまとめ(教え)は一 般・普遍である、ということです。
 結 果:粘土は形が変わっても重さは変わらない ← 実験から言えること(個別であり経験にあたる)
 まとめ:は形が変わっても重さは変わらない   ← 教師が教えること(一般・普遍にあたる)
子どもに推論させるのなら、帰納論理をふまえることがのぞましいのではないでしょうか。粘土だけでなく、3種類くらいやってみる必要があるでしょう(2時間連 続の授業になる可能性が ある)。素材 としては、上述のようにアルミホイル、ダン ボールなど身近なもので。そうすれば、無理なく、

 粘   土形が変わっても重さは変わらない(a1)
 ア ル ミ箔形が変わっても重さは変わらない(a2)
 ダンボール形が変わっても重さは変わらない(a3)
  → 物は形が変わっても重さは変わらない(A)

という推論が行われるのではないでしょうか。時間があれば、上記以外の素材(食べ物は用いないこと)を用いて推論の検証を行わせてもよいでしょう。その場 合、変形前後 の重量を測る教師実験でもよ い。しかしながら、それでも最後は教師による教え(一般化・普遍化)は必要に なります。
小学校の観察・実験では、
 ①多様な経験を積ませること
 ②疑問、経験、推論、検証の基本的態度を培うこと
に留意したいと考えます。小学校理科における①②の確かな積み重ねがないと、中等理科教育における科学的リテラシー育成も難しいのではないでしょうか。通教生 の方は、ここの記述をひとつの参考にレポート第1課題に取り組んでください。
(ひとつの参考ですので、こ のように書かなければいけないということではありません。そういうパターン化や強制は理科教育の趣旨にも反しますので)。