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福島甲状腺検査、悪性(疑いも含む)104人に。

福島甲状腺癌の発生と原発放射能には関係があるのか
-どう伝えるか、理科教員の立場から-

1 福島甲状腺癌は全国罹患率と比べて統計的多発との検定結果
 原発事故後3年間にわたる福島県の震災時18歳までの子どもを対象とした甲状腺先行検査が全て終了し、 6月30日付報告書(これが最も新しい)の概要が8月24日の朝日新聞、8月25日の東京新聞で報道された。受診者約30万人のうち、2次検査となって細胞診を受診し悪性 (疑いも含む)と診断されたのは104人。この中で手術は58人が実施し、57人が甲状腺癌。
・県の報告書は下記より。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-16.html
・筆者が用いた福島データは右表の通り(県の報告書より作成)
 
これらの数値にはどのような意味があるのか、様々に関心が持たれる問題である。それは医療関係者だけではなく、我々のような理科教員、さらには国民の 一部にも及んでいる。まず一つは数値についてであるが、岡山大の津田教授が、平成25年12月31日付報告書のデータを使って、福島での発生数が数年 の平均有病期 間を考慮してもなお統計的に多発(自然現象に比して有意に多い発生)であることを、雑誌「科学」に公表している。
・津田敏秀 2014 科学 84(3):0279-0282.

筆者も、国立がんセンターの1975年から2010年まで統計(罹患率)を基数に、今回のデータを使ってポアソン検定を行ってみて、男女とも統計的に多発であることを確認した。この詳細については別に示 す。

2 多発の原因は原発事故後の放射能か?
 次の問題として、多発であるならばその原因は何か、ということに理科教員や国民の一部にも関心が向いている。チェルノブイリを知っている人なら、原 発事故による放射能汚染との関係を考えるのは自然な思考である。このときは、放射性ヨウ素に汚染されたミルクによる内部被曝が原因になった。放射性ヨ ウ素は甲状 腺に蓄積され、ベータ線を放出して組織を被曝させる。その短い半減期ゆえ、福島県全域にわたる明確な測定値は残っていない。今では、放射性セシウムの 沈着 度などからその挙動を推定するしかない。福島の場合、原発事故が悪性の原因だということなら、原発に近い地域ほど高い発生となるなどの地域差が見 られるは ずである。福島県は先行検査というスクリーニングによる早期発見であるとしている。それなら地域差が見られることは考えにくい。今回の報告書でも、県 を4 地域に分けて、原発から遠い会津地方に悪性者率(その地域の悪性者数と受診者数の比率)が低いことを認めるものの、会津地方の2次検査結果が全部出ていな いことを理由に悪性の発生に地域差は考えにくいとの考察を示している。しかし、筆者が4地域より少し細かく市町村を単位に集計してみると、右図(右 側)のよう に、
 ・福島第一原発と二本松市を結ぶライン
 ・福島市と白河市・下郷町を結ぶライン
 ・原発から遠い白河周辺
で悪性率が高いという傾向も見える。

3 理科教員として思うこと

 筆者は公立高校の物理教員を長年務 め、退職した現在は大学で理科教育などを担当している。ここで行っている分析は、適切な指導があれば中学や高校でも実施可能なものであることは経験者として言える。異なっ た視点から事象を考察するという態度は、学校教育で生徒にもっとも培いたい科学的リテラシーの一つである。中学・高校や大学に在籍する若い人達にも、 ぜひ本件のような科学的判断を問う今日的問題に関心をもって学び、一人の国民として問題を共有していただきたい。勿論、はじめに結論ありきという態度ではなく。