※ [ ]でくくった記述は金子の注記 英蘭会話編訳語序 余曽て蘭人フアンデルペールの著せる英吉利会話篇を刷行す然るに学兄川本内田の二子之を開成学館教師ガラタマ先生に従て読み直に我邦俗間の通語に訳出し以て之を余に贈せり余近日纔に閑あるによりて之を看るに惜哉其稿未た全からず侭錯乱の処あり然るに二子既に遠く別れて其不足を求る事易からず因て今之を自から補削肯定して曽て倫頓に留学せし友人外山子に訂し以て貿易市場彼我日用の便に備ふと云 戊辰初秋 無尽蔵主人誌  ○附言 会話は固より其国日用の通語なり西洋各国に於いは必らす文法の定あるか故さして詞に雅俗の区別なし然るに我国に於ては古より文法を論する書なく且漢字の用盛なるより遂に雅俗の語雲壌懸隔す加之ならす国中に各地の方言訛音ありて邦人すら訳を用ひされば互に憂ふべき事なり余今此書を考定するに方りて英之言意語気を其侭に存せんとすれは詞頗る卑陋に渉りて正且雅ならしむる時に俚俗の耳に入難し之を如何ともすへき様なし故に余は寧大人君子の誹を甘んじて都て江戸の方言を以て記し会話の会話たる大主意失はず ○余固より浅学にして仮名遣ひなるものに委しからず故にイヰ、オヲ、エヱの類響を衍[衍+心]るもの少からざるべし ○ミナ(皆)をミンナ、カヒテ(買)をカッテ、オモヒテ(思)をオモッテ、シリテ(知)をシッテ、カキテ(書)をカイテ ヨロシク(宜)をヨロシウの類音韻の相通短縮等皆常言に従ふ ○・・・・・ナサレ、・・・・・デゴザリマスと書べきを直に舌に従ひて・・・・・ナサイ、・・・デゴザイマスと記せり ○マヲシマス、マウシマス」イキマス、ユキマスの類共に通用するものは雑記せし処もあり ○[右傍線]ヱン[/右傍線]は人名、[右二重傍線]ロンドン[/右二重傍線]は地名、[左二重傍線]カピテイン[/左二重傍線]は役名、[左傍線]カルラント[/傍線]は物名なり左右に単柱双柱を引て之を区別す ○イシャのヤの字チットのツの字の如く小にして且傍へ寄せるものは音のつまれる処なり又ーを引たるは音の延る処なり ○フはウ、ヘはエ、ヒはイ、ホはヲに響く等多し文意に依て考へ読むべし ○イヨウ(用)をヨウとするか如きは俗人の読易からんを欲するが為なり ○ゴザリマスをゴザイマスに転し猶又之を縮めて通例・・・・デスと云同輩の対話には大概略してデスを用ふる事を簡易にして宜とす自から試むへし