山岡政紀 書評集No.9
『ブッダ』第1巻〜第8巻 手塚治虫著/潮出版社刊/1987年4月〜1988年3月逐次刊行/定価各巻980円
仏教の祖である釈迦の伝記を、史実に脚色を加えて漫画化したものである。さすがに巨匠の作品だけあって、マンガとしては文句無く面白い。アナンダ(阿難)が登場してから、ブッダ(釈迦)の弟子となる経緯など、かなり劇的に創作されている。これまで仏教に関心の無かった人が本書に触れることはそれなりに意義有ることだろう。
しかし、一方そのような人たちが、仏教の深遠な哲学に対し、本書の中でブッダが語る訓話の領域(その大半は、自然のままに生きよ、という中道主義について)に留まってしまいはしないかと、いささか不安でもある。特に、全八巻の半分以上が青年期で、五十年に及ぶ説法が極めて略されているのが惜しい。
また、釈迦が成道後も人間としての苦悩を常に持ち続けたことを描くのは、人間釈尊像の理解としては好ましいのだが、悩んではブラフマン(梵天)の助言を得て新たな悟達に到達する釈迦の姿は、三十歳での成道そのものの意義を軽くしすぎやしまいか。
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