山岡政紀 書評集No.72


『ケルビムのぶどう酒』  中沢新一著/河出書房新社刊/1992730日発行/定価1600


 著者中沢が様々な機会にものした短い文章を集めている。彼の思索そのものと言うよりは、その舞台裏、あるいは自己論評のような体裁である。しかし、中沢の思想を様々な角度から見ることができ、立体的なイメージはむしろ鮮明になるだろう。
 例の東大での人事問題に対して、本人が論評した「ウィルスの困惑」は、単に自分が受けた批判への反論ではない。彼は現代的思考における急激な地殻変動を敏感に捉え、その立場で学問を「楽しんで」いることを表明する。
 彼の言う地殻変動とは、要は言語論においてである。客観的事実に対する言語の表象性を解体し、そして、言葉の向こう側ではあるけれども確かにあるものを、新しくて自立性を持ったテクストの生成によって言語へと橋渡しする……。ここに於て、彼が、形のない「理性を超えた知性」の可能性を宗教に求めることの意味も明快となる。東大の先生が嫌いそうな、音楽的、感性的な中沢の文章が、実はラジカルな意図をはらんでいることがよく理解できる。


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