山岡政紀 書評集No.71
『超=言語の研究』 井上忠著/法蔵館刊/1992年2月20日/3600円
我々が用いる日常言語はかけがえのない〈わたし〉から出発した〈こころ〉の言語であり、その意味で必然的に自閉性を備えている。この自閉性故に、人間は〈わたし〉自身の存在の根拠を問うたり、〈わたし〉の身に起きるであろう死という運命に思いを馳せたりなどの宗教的思索を経験する。結局、人間の言語は必然的に宗教的言語なのである。
著者が主張する「言語機構分析」とは、言語にまつわるこの自閉性を自覚し直すことによって、すべての科学、理論、イデオロギー等が〈わたし〉の中に占める位置と限界とを明確にすることである。要するに、それらもまた宗教の言語と同様、〈こころ〉の言語であることに気付くはずなのだ。
ニューサイエンス関係の訳者としても知られる著者だが、本書ではそれを、〈こころ〉の言語を物理学言語という特殊な段階の言語に限局する営為にしか過ぎず、宗教的思索との間に大きな距離があるとして、批判的に述べている点も興味深い。