山岡政紀 書評集No.70
『こいつらが日本語をダメにした』 赤瀬川原平・ねじめ正一・南伸坊著/東京書籍刊/1992年9月6日/1400円
一言で言うなら、「へ理屈の集大成」である。三人の男が、使い慣れた日本語の慣用句の意味を、いじくっては楽しんでいる。
例えば、どんぶり持参で銀行へ行き、「どんぶり勘定」をやってみたとか、「……に毛の生えた」は何の毛かとか、アイ・ジョージは「息の長い」歌手だ、など、どう見ても子供の言葉遊びのノリである。
それにしても、335頁にわたって、終始この遊び心の姿勢を崩さないところが、ただの遊びを越えた何か強烈な意図があるのではと思わせ、不気味でさえある。
ひょっとしたら……これは本来線状性を持つ言葉が多重の意味を担う地点を求めた、ソシュールのアナグラム研究にも似た記号論上の野心的な意図が背後にあるのかも知れない。
「こいつら……」という書名も、自らの試みのばかばかしさを笑ったものだが、そのように言えるのも、むしろ、言葉を商売道具とする三人の自負があることの裏返しではないだろうか。