山岡政紀 書評集No.68
『脳死臨調批判』 立花隆著/中央公論社刊/1992年9月15日/1200円
書名の通り、1992年1月に発表された脳死臨調の答申に対する批判である。
論点は一貫している。臓器移植の可否を論じる以前の、竹内一夫氏が作成した脳死判定の基準が批判の中心である。
この竹内基準は蘇生限界点(ポイント・オブ・ノーリターン)を越えたことをもって人の死と見られるものだが、筆者は「もう助からない」と「もう死んでいる」とは違うとしてこれを批判し、脳細胞の器質死を基準とすべきことを主張している。
この主張を動機づけているものは、筆者が世論に敏感であることだろう。一般の日本人の脳死に対する反応が重要な論点であることを忘れていない。例えば、NHKの特番で「脳死患者でも出産する」ことが報道された際の反響の大きさなど、脳死を人の死にすることに対して慎重な世論によく注目している。
脳死臨調は十分な議論を尽くしておらず拙速のまま答申を出したとする、痛烈な批判である。