山岡政紀 書評集No.65


『脳死移植』  NHK脳死プロジェクト編/1992430日発行/日本放送出版協会刊/定価1200


 「臨時脳死及び臓器移植調査会」(脳死臨調)は、本年一月、二年間の審議を終えて最終答申を宮沢総理に提出した。結局、委員十五人中、十三人が脳死移植に賛成し、答申では少数派の意見も付記されているものの、「容認」を打ち出した。
 本書は、その脳死臨調での審議の経緯を報告するとともに、日本でこの問題を難しくしている六八年の「和田移植」や一昨年の阪大での疑惑の心臓移植についても丁寧に報告している。特にドナーの家族の生の声は重要な参考資料と言ってよいであろう。
 死の定義があくまで主観的なものであるのは確かだ。だからこそ、人間の都合で人の生死を扱うことは断じて避けなければならない。本書に収められている識者のインタビューでも、評者の印象としては、反対派の意見の方が説得力がある。それは死にゆく人の命を軽んじ、家族の心情に目を背け、臓器移植を願うばかりに脳死患者の出現を待つ誤りに対する素直な憂慮であり、今後もこのような反対意見に十分耳が傾けられ続けることを願わずにおれない。


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