時間とは過去から現在へ、そして未来へと流れていくもの、多くの人がそう信じて疑わない。だが、大森はこの時間把握(≒物理学の「線型時間」)と真正の時間とは異なると考えている。
まず、人間の経験における「現在」と「過去」が持つ意味が質的に異なることを強調する。過去が経験できるのは「想起」においてのみであり、それは過去の知覚経験を再度経験すること(再生)ではない、全く異質な経験だという。
また、物理時間の一点としての現在は「点時刻」であるはずだが、これは経験上は意味をなさない。その本質、また、それとの連関による、過去、未来の位置づけが行われている。
結論的には、時間は経験にまとまりをつけて全体的に把握する人間の自我において生じると考え、時間と自我とが不可分の概念であることに述べ至る。
人間の日常の世界観に対し、その特殊性を自覚し、相対化していくための知的トレーニングとして必読の書。