山岡政紀 書評集No.63
『生の円環運動』 丸山圭三郎著／1992年1月31日発行／紀伊國屋書店刊／定価1200円
この本のテーマは、タイトルの字面とは反対に「死」である。人間の生は死を必然として内包していながら、人間は死を恐れ、忌み嫌う。哲学はこの矛盾を超克し得るものでなくてはならないのだ。
丸山の哲学は、かつて文化記号論に於てほぼ完璧な論理性を見せていたが、近年ラカン等の影響を受け、深層意識への洞察に言及するようになってから、その厳密な論理性が崩れてきたように思える。丸山に変化をもたらせたものは、他でも無い自身の生命の危機だった。彼は本書の中で、数年前に癌の宣告を受けたことを告白している。
思うに、彼は急いで、生死を超克する哲学を著す必要に迫られたのではないだろうか。確かにそれは一面に於て拙速だった。矛盾を論理的に超克するだけの議論が尽くされていないからだ。それでも読者は、本書の厳しい探求に、以前の著作以上に共感を強くし、啓発を多く受けるはずである。
本書はその意味で哲学より文学と言うべきで、まさに『徒然草』を彷彿とさせる「死を想う随筆」なのだ。
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