山岡政紀 書評集No.58


『ゆらぎ・カオス・フラクタル』  武者利光・沢田康次著(対談集)/1991年12月20日発行/日本評論社刊/定価1700円


 最先端の物理学者による、最先端の理論についてのアカデミックな対談といった体裁の本書だが、どうも寄せ集め的で、一つのテーマに対する掘り下げがいささか浅いという印象がある。
 しかし、一つの視点をもって本書を通読すると、現代物理学の志向する方向性が見えてきてそれなりに楽しめる。それは「人間の主観」という、物理世界とは異次元のものと見なされてきた代物をどう理論の中に取り込んでいくかということである。
 カオスを定義するのは、変数の多さからくる予測不可能性であることが述べられている。これは、日常的には偶然性の根拠であり、実は主観的な概念である。すると、人間の計算能力との関連でしかカオスを規定できないことになる。自由意志を規定しようとする場合にも、そもそも意志という主観的概念の本質を理解せねばなるまい。我々の日常言語のマクロ的構造と物理学のミクロ的構造との間を埋めるのは、結局論理であり哲学ではないだろうか。


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