書評集No.50


『人はなぜ歌うのか』 丸山圭三郎著/1991423日発行/飛鳥新社刊/定価1300


 これまでも丸山の哲学は単なる論理的思考に留まらず、ポエジーやエロティシズムといった極めて人間的かつ文化的な営みへの洞察に連続していたが、本書では現代日本の象徴的な文化であるカラオケにまつわる様々な話題を紹介し、これを楽しむ人々の精神文化について論じる。丸山自身もカラオケの愛好者の一人であり、自らの経験を通じた一般的な言葉がまことに楽しい。
 「カラオケ七不思議」の中で消しこみキー変換採点器などのハイテクが音楽の人間的な部分とぶつかる点はよく経験するし、「カラオケ七つのタブー」で指摘された、自己陶酔ではた迷惑の精神病型音痴も街でよく見かける光景だ。
 最終的にカラオケとは、激しい社会の変化相にさからわずに一種のポリフォニーを創造する行為と結論されているようだ。
 丸山の記号論と重なる部分では、メロディーのゲシュタルトが音の相対関係で認識されることや、潜在意識と音楽の関係などに言及しているが、この点は素人向きの論で終わらせず、今後深めてほしい。


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