山岡政紀 書評集No.47


『たったひとりの闘争』 アントニオ猪木著/1990年12月25日発行/集英社刊/定価980円


 1989年9月、既に国際的孤立の状態にあったイラクを訪れ、邦人人質の解放に一役買ったアントニオ猪木氏のイラク訪問記。
  彼の行動に対しては、政治的思慮の欠如などを指摘する声もあるが、何はともあれ、人間として評価すべき点が多い。

 まず彼は、特定の視点に固執することを拒否した。イラク側の視点を知るまでは態度を保留しようとしている。

 第二に現場主義。イラクの視点を知るために、自分の足でイラクを訪れ、自分の眼でイラクを見ようとした。

 第三に、自らイスラム教に入信してまで、相手の文化を理解しようとした。

 第四に、イラク首脳に対して、自らの主張を訴えようとするより、相手の主張を聞くことに徹し、心を開かせた。人質解放も、猪木氏のこれらの姿勢がイラク首脳の信頼を得た結果だということが理解できる。

 売名行為だと決めつけるには、あまりにも勇気を必要とする行動でもある。本書に書かれている猪木氏の信念が、あながちに黙視することのできないものであることを認識すべきであろう。


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