山岡政紀 書評集No.46
『とりかへばや、男と女』 河合隼雄著/1991年1月25日発行/新潮社刊/定価1500円
中世の古典文学『とりかへばや』は、頻繁に現れる性描写の露骨さのために、一般的には猥せつで文学的価値は低いとされるが、臨床心理学者の筆者は、全く違った観点からこれを紹介し、論じている。
物語は、男として育てられた姉君と女として育てられた弟君との姉弟を中心に展開する。姉君は男として妻をとり、弟君は女東宮の侍女となり、それぞれに苦しむ。人間には肉体としての性だけでなく、文化の中での性的存在として自らを制御する心理的な性が存在するという。故に、この物語の偽りの性がそのまま、日本文化における男性像、女性像の典型だと、本書は論じる。
そして一人の男性の、男を装う姉君に対する同性愛が、姉君の女性を呼び戻し、物語は急展開し、姉弟は互いに立場を入れ替わってめでたく終る。このような奇抜な展開の中に見られる様々な種類の愛をもとに、未分化の無意識が、個人から社会へ、動物から人間への過程で分化して自我意識として投影される際に要求される性のイメージというものを、本書は描き出している。
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