山岡政紀 書評集No.45


『気と人間科学』 湯浅泰雄編/1990年7月1日発行/平河出版社刊/定価2500円(本体2427円)


 古来より中国に伝わる気功術は、道教や仏教での呼吸法や瞑想法、また、治療や武術での超人的な技法として知られる。近年、世界的な関心が集まり、八八年には東京で国際シンポジウムが催された。本書は、その講演集。
 気の研究は物理学や生命科学等の諸科学から学際的に研究されるべきである、との主張の中に、さらに重要な主張が含まれている。気は、誰でも、訓練によって自らの意志でコントロールが可能になること(深層心理学との関連)。気の通る道である経絡が、神経のような実体を持たず、生体においてのみ発見できる機能的組織であること(東洋医学との関連)。これらは、気の研究が近代科学のデカルト的パラダイムを否定することをも意味している。
 中国でも、気の実体の物理学的研究は近年盛んだが、気と精神との相関を見落としていると本書は指摘する。結局、気の研究に必要なパラダイムを用意することで、近代科学そのものに対する野心的な思惑が秘められていることを見逃してはなるまい。


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