山岡政紀 書評集No.44


『ハイ・エディプス論――個体幻想のゆくえ』 吉本隆明著/1990年10月25日発行/言叢社刊/定価2000円


 我々は、生まれる以前から自分の意識の成立ちを支配しているものを知り、記述するということは、なかなかできない。本書は、生理学的な事実を糸口に、この難問に敢えて向かう。吉本氏の論法は、生理学と深層心理学が混然一体となった形で、一種の心身論とのイメージを受ける。
 例えば、胎児期の存在の仕方、生まれ方、母親との関係などに見られる特徴的な事実と、フロイトやラカンが論じている人間精神の無意識的な様態との間に相関関係を見いだしていく。
 しかし、最終的には、人間の精神を成り立たせる価値観の形成に絞られ、人間論の哲学となっている。つまり、生物としてごく自然な生存に対し、善悪とか幸不幸とかの価値を与える感情のもとになっているものがどこにあるか、という問題である。
 インタビュー形式でもあり、吉本氏は、自身の少年期の回想を交えながら、率直に語っている。とはいえ、言葉遣いが今一つ平易でなく、一般の読者には少々難しい。


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