山岡政紀 書評集No.32


『ファジィのはなし』 向殿政男著/1989年11月30日発行/日刊工業新聞社刊/定価1300円

 言語における語の意味領域のように、周辺部分が曖昧で境界線を引きにくいことがらを扱うために考えられたのがファジィ理論である。ただし本書では、この理論を、理論化しにくかった意味論の一つの方法論として過大評価することはしない。
 例えば、集合に対する要素の所属の度合に中間値を認めた「メンバーシップ関数」では、その値は常にある人が主観的に設定し、人が変われば当然値も変わるようになっている。つまり、要素の主観的性質を客観的に数値化する理論ではなく、主観的に設定された値を運用して推論を行ったり、計算機に乗せたりする際の理論的枠組みを提示しただけである。つまり、主観は徹頭徹尾カプセルに入れられて、その蓋を開けることなく、扱い方だけを議論しているのである。証券投資や医療診断などでの具体的応用例や、進行中のプロジェクトなどが紹介されている点も、まことに工学的に実用に供する以上の過大評価を避けた結果であろう。


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