山岡政紀 書評集No.27


『デカルトの旅/デカルトの夢』  田中仁彦著/1989年3月23日発行/岩波書店刊/定価3100円

 近代科学の前提を築いたデカルトは、その少年期に支配的だったスコラ哲学の伝統に見切りをつけ、自らをしばる諸々の方法論からの脱却を試み、オランダ、ドイツへと旅を始める。この旅は、その帰結として生まれた『方法序説』の明析な論理とは裏腹に、感性の鋭敏さをあくまでも砥ぎ澄ましていく、精神の旅であった。
 旅における最大の事件はドイツ郊外の『炉部屋』で見た啓示的ともいうべき三つ夢とそれをめぐるデカルトの解釈である。彼はこれらの夢をアレゴリーによって捉え、それに従って、自らの使命を自覚し、すべての自然に数学的方法を適応するという新しい方法論に対する宗教的なためらいを払拭していく。そして、経験に対する彼の批判的態度は、同時に、内的直観という方法論を取る彼の形而上学へと発展し、ワレ思ウ故ニワレ在リとの第一原理に到達する。
 本書は、デカルトとその生きた時代との関わりの中から方法序説の本質を描き出そうとした、本格的な一書である。


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