1988年三月、東大教授を辞した著者が、現在の大学を「沈没しゆく大学」と批判した一冊。しかし、その内容は我々が単純に予想するような、権威主義、管理主義への反抗ではなく、かなり根の深い科学批判であり、文明批評でもある。
そもそも、何故、科学は現実の対象から乖離し、虚学の姿を現しているのかについて、科学が前提としている枠組みに対する無批判な受け入れを指摘する。科学が明めようとする事実自体が理論を既に前提し、その理論の厳密性を満足させる必要条件として、人文、社会科学にまで数学、統計が用いられる。そして、極端に専門化し、制度化されるときに科学は否応無しにイデオロギーと化すのである。ハイデガーやパースの論に基づき、これら科学主義の根源的な誤謬を指摘し、むしろ異端となって超学的な接近を試みるために、学際的な基礎論が必要だと主張する。要するに、人間が事実に対峙する際の素朴な価値観の確立を重視していると言えよう。