山岡政紀 書評集No.24
『ふき寄せ雑文集』 岸田秀著/1989年2月15日発行/文芸春秋刊/定価1200円
著者岸田は本来精神分析学者だが、これまでも学術的論文というよりは、一般的な読者の直観に働きかけて共感を得、人気を博してきた。マスコミに広範囲に浸透したこの岸田人気が、社会のあらゆる分野に潜む無意識を岸田理論で裁いてみることを試みさせた。その小論の集成が本書である。
例えば、戦時中と戦後の日本人の変わり身の早さは、屈辱的な現実を否定する内的自己と現実が屈辱的であることを否定する外的自己の表れであり、実は一貫したものであることが論じられる。この尺度から、戦後民主主義教育や、天皇制の精神分析的な位置付けが与えられる。
そのほか、近代科学は悪を製造しては解決してきたマッチポンプであるとか、貨幣は、本能に基づいて集団的価値を持つ動物と違って、本能が壊れて代わりに自我を持った人間が、孤立した自我における価値を維持するために、生まれたものである、などの論が特に興味深い。
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