山岡政紀 書評集No.23


『科学・信念・社会』 マイケル・ポラニー著/中桐大有・吉田謙二訳/1989年3月20日発行/晃洋書房刊/定価1900円

 M・ポラニーの科学哲学の基礎的な著作の名訳が、原著より二十年を経て出版された。
 主に自然科学における発見は直観的なものである。それは、実在の様相に対するゲシュタルト的な識別と似ているという。所与の情報の中からいかなる科学法則を見出すかは、科学者が明確には意識し得ないような、もはや感性的ともいうべき手順によって、選択が行われているのである。その過程には、何が真実であるかを決定するための前提が多く隠されている。本書では付録として、具体的な発見の史実を挙げながら、隠された前提や、それに対する科学者の態度について紹介している。そして、科学的事実は、世界のあり様そのものではなく、人間の信念に基づくものであるという思想が一貫している。
 本書の背景として、マルキシズムの社会的要求が東欧の科学に対して強い前提として働いていたことに対する反発が底流に流れていることも注目に値する。


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